報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「令和の鉄道唱歌」

2020-09-03 19:44:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月25日09:21.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 仙台市地下鉄仙台駅→JR仙台駅]

〔仙台、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕

 私達は乗換駅である仙台駅に到着した。
 ここで降りる乗客は多く、私達もその一部というわけだ。
 電車を降りると、改札階に向かうエスカレーターに乗る。

 高橋:「長いエスカレーターっつーか、階段を見ると、霧生市の駅を思い出しますね」
 愛原:「ああ、霧生電鉄の霞台団地駅か。そうだなぁ……」

 思えば私達は、よくあんな地獄で生き残ったものだ。
 さすがに町1つが無くなるようなバイオハザードは、もう勘弁だ。

 愛原:「9時46分発、小牛田行き。あれに乗ろう」

 地下鉄の駅からJRの駅へ移動した私達。
 私は発車標を見て言った。

 愛原:「1番線だな」

 今は地下鉄もJRもICカード1枚で乗れるから便利なものだ。
 キップで乗るのは新幹線くらいか。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の列車は、9時46分発、普通、小牛田行きです。この列車は、4両です。……〕

 愛原:「もしもし、伯父さん?おはようございます。今、仙台駅なんで。9時46分発の電車に乗るから、小牛田駅に着くのが……10時半くらい?」

 私は公一伯父さんに電話した。
 電話にはすぐ出てくれて、乗る電車と到着時間について話した。
 そのタイミングで迎えに来てくれるという。
 これで定時連絡は終わった。

 愛原:「暑いから水分補給忘れるなよ」
 高橋:「うっス。俺はヤニの補給も忘れません」
 愛原:「喫煙所に行けよ!」

 仙台駅在来線ホームって、まだ喫煙所あったっけ?

〔まもなく1番線に、当駅止まりの列車が参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側まで、お下がりください。この列車は、4両です。折り返し、9時46分発、普通、小牛田行きとなります。……〕

 さすがに、『グリーン車が付いております』とは言わないか。
 この路線の東京側は、全列車2階建てグリーン車が連結されていて当たり前なのだが。

 愛原:「久しぶりに3ドア車に乗るなぁ……」

 今や首都圏側の中距離電車も、4ドア車が基本となってしまった。
 6ドア車なんて無かった。

 

 ここまでの乗客が降りて行って、ガラ空きとなった車内に入る。
 ボックスシートがあって、そこに座った。
 首都圏の中距離電車のそれと違って、シートピッチは明らかに広い。
 また、窓の下にテーブルもあった。
 そこには窪みが2つ付いていて、明らかにそこに飲み物を置くことが想定されていた。
 御言葉(ではないが)に甘えて、そこに買ったペットボトルを置く。

〔この電車は東北本線、普通、小牛田行きです〕
〔This is the Tohoku line train for Kogota.〕

 リサを進行方向向きの窓側に座らせ、私は隣の通路側に座る。
 高橋はリサの向かい側に座るが、スマホいじりに夢中である。
 私は買った新聞で、例の爆発事故の続報を確認していた。

 愛原:「新聞では行方不明になった警察官とかは、ガス中毒で死んだことになってるよ」
 高橋:「マジっスか。マスコミはマスゴミっスね」
 愛原:「しょうがない。さすがに……『ハンターに殺されました』と正直には書けんだろ」

 そう。
 善場主任達が『お化け屋敷』の跡を確認しに行った所、地下室跡を見つけた。
 警察官達が既にその中に入って行ったのだが、誰一人出て来なかったという。
 善場主任達が中に入ると、果たしてそこにはまだ生きていた爬虫類BOW、ハンターがいた。
 それも、ハンターαだけでなく、赤い彗星のβや両生類から作ったγもいた。
 ここにいるリサが上級BOWなのであれば、ハンターシリーズなど所詮下級であるのだが、それでも生身の人間を簡単に殺すくらいのことはできる。
 発見された人骨についてだが、やはり私の見立て通り、トレヴァー夫妻である可能性が高いという。
 但し、見つかった人骨は2人分だけ。
 つまり、あの写真に載っていた2人の娘は相変わらず行方不明ということになる。
 いや、1人は私達が見つけた地下室で白骨死体になっていたコかもしれない。
 そして、もう1人はここにいるリサだろうか。

[同日09:46.天候:晴 JR東北本線2535M電車4号車内]

〔1番線から、普通、小牛田行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。駆け込み乗車は、おやめください〕

 随分ファンキーなメロディが流れたと思ったら、それが発車メロディだった。
 何でも、HOUND DOGの“ff(フォルティシモ)”という曲らしい。
 時計を見ると、ダイヤ通りの発車だった。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東北本線、普通、小牛田行きです。【中略】次は、東仙台です〕

 英語放送の後で車掌の肉声放送が流れて来た。
 さすがにワンマン運転ではないらしい。
 本当はこの辺りは終日半自動ドア扱いになっており、乗客がドア横のボタンを押してドアを開閉させるシステムだったのだが、新型コロナウィルス対策の為に自動ドアにしているとのことだ。
 逆に、開くドアに注意してくださいとのこと。
 こういう地方でも、コロナ禍は切実なものであるのだと分かる。

 愛原:「『愛宕の山の木々青く 広瀬の川の水白し 桜が岡の公園は 花も若葉も月雪も』」
 高橋:「鉄道唱歌っスか?」
 愛原:「そう。この後は『多賀の碑(いしぶみ)ほどちかき 岩切おりて乗り換ふる 汽車は鹽竈千賀の浦 いざ船寄せよ松島に』だ」
 高橋:「『多賀の碑』は国府多賀城、『岩切』は岩切、『鹽竈』は塩釜、『千賀の浦』は……何スかね?」
 愛原:「いや、国府多賀城駅は新駅だから、陸前山王駅じゃないかな」
 高橋:「さすが先生は教養深いっスね。さすがっス」
 愛原:「ただの鉄ヲタの雑学だよ」

 『次に来るは古賀間々田 両手広げて我が汽車を 万歳と呼ぶ子供あり 思へば今日は日曜か』

 区間が全然違うが、途中で電車に手を振る子供がいた。
 電車は軽く警笛を鳴らし、つられて車窓をジッと見ていたリサも手を振り返したことで、今の歌詞を思い出した。
 なので、私はこの歌詞を送ろう。

 『次に来るは岩切よ 右手を挙げて我が電車を バイバイと振る子供達 思へば今日も夏休み』

 
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“私立探偵 愛原学” 「小牛田へ向かう」

2020-09-03 15:57:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月24日18:00.天候:晴 宮城県仙台市若林区○○ 愛原家]

 愛原公一:「情報が集まったぞ」

 私が自室で過ごしていると、公一伯父さんから電話が掛かって来た。

 愛原学:「ほんと!?」
 公一:「かつて小牛田から、仙台に住むアメリカ人のスティーブン・トレヴァーと結婚した吉田律子さんという娘さんがいた。多分その人だろう」
 学:「さすが伯父さん!それで、その吉田律子さんは?」
 公一:「分からん。行方が分からんそうだ。恐らく、その人骨とやらがそうかもしれん」
 学:「小牛田の実家はどうしてるの?」
 公一:「御両親も亡くなって、今はお姉さんが住んでいるそうだ」
 学:「よし。その人から話が聞けるな」
 公一:「待て待て待て。いきなり赤の他人のオマエが押し掛けて、『数十年前に失踪した妹さんのことについて聞かせてくれ』って言われて答えると思うか?」
 学:「そこを聞き出すのが探偵の腕の見せ所なんだよ」
 公一:「待ちなさい。ワシがまずは探りを入れてみるから、お前はその後で来るんだ。……いや、むしろワシと一緒に来た方がいいかもしれん」
 学:「伯父さんが一緒に来てくれるの?」
 公一:「ああ。オマエが良ければ、いつでも来い」
 学:「分かった。明日にでも行くよ。高橋とリサも一緒に来ていいかな?」
 公一:「まずはワシの家に案内するから構わんよ」
 学:「明日、午前中に行くよ」

 私は電話切った。
 さすがは伯父さんの人脈は凄い。
 いくら小さな田舎町の話とはいえ、今日中に対象者をヒットするとは。

 学:「おっと、そろそろ夕食の時間か」

 私が椅子から立とうとした時だった。

 学:「うっ……!」

 私の首筋にあるものが……!
 慌てて下を見ると、髪の毛が巻き付いていた。
 部屋のドアを見ると、その隙間から髪の毛が伸びて来ていた。

 学:「リサ!いたずらはやめろ!!」

 すると、髪の毛がシュルシュルと部屋の外に出て行った。

 リサ:「御飯だよー!」
 学:「和風ホラーは苦手だからやめてくれ!」

 そういえば髪の毛が伸びる人形とかは、大抵、市松人形がセオリーだな。
 西洋ホラーで、あんまり髪の毛が伸びて……というのは聞かない。

 リサ:「せっかく新しい技を覚えたのにw」
 学:「そんなことして、人間に戻りたくないのか?」

 部屋の外に出ると、廊下の照明は点いておらず、暗闇にリサの赤い瞳がボウッと浮かんでいた。
 第0形態で髪の毛を伸ばしたり、既に瞳が赤かったりするのだから、リサの人間化計画は早めに推進した方がいいのかもしれない。
 あまり先延ばしにすると、手遅れになりそうな気がする。
 私は廊下の照明を点けた。

 リサ:「先生にお任せします」
 学:「俺的には人間に戻ってもらいたいものだけど……」
 リサ:「うん、そうするね」

 この時はまだ心のどこかで、そんなことできっこないと思っていた。
 1度BOWになってしまった人間を、また元の人間に戻すという話は全く聞いたことが無かったからだ。

 愛原節子:「遅かったじゃない」
 学:「ゴメン。ちょうど公一伯父さんから電話が掛かってきたもんで……」
 愛原薫:「ハハハ。兄貴も孤老だから、夕食時に話し相手が欲しいんだよ」

 私は自分の席に着いた。

 学:「明日、小牛田に行くよ」
 薫:「そうか」

 夏なのだが、普通に鍋だった。
 すき焼きの方法にはいくつかパターンがあるが、我が家では溶き卵は鍋の中に入れるのではなく、鍋から取ったものを付けて食べるやり方だ。

 リサ:「美味しそう!」
 節子:「沢山食べていいからね」
 高橋:「いただきます!」
 学:「明日、小牛田の伯父さんの所に行くからな?」
 高橋:「じゃ先生、情報が集まったってことですか?」
 学:「完全にピンポイントだよ。さすがは伯父さんだ」
 薫:「兄貴……公一伯父さんは顔が広いから、人捜しをするなら打ってつけだな」
 学:「ましてや旧・小牛田町内だから尚更だね。でも、よく議員さんに知り合いなんかいるものだね?」
 薫:「あれだろ?農学博士だったから、JA繋がりとかじゃないの?」
 学:「思いっ切り政治利権絡んでそうな所に行きましたなw」

 しまったな。
 伯父さんが開発した化学肥料、それを買い付けたという旧アンブレラとの契約書があったかどうか聞くの忘れた。
 伯父さんとしては化学肥料として発明しただろうに、旧アンブレラは絶対それを悪用するつもりだったのだろう。
 一体、何の目的で買い付けのやら……。
 少なくとも、ロクな理由ではないと思われる。
 でも、伯父さん的にはそれで良かったのかもしれない。
 あまりゴネたりすると、あの旧アンブレラだ。
 命を取ることくらい造作も無いだろう。
 なので、すんなりライセンス自体を売り払って清々した方が結果オーライだったと。
 そう思うのだ。
 で、そのライセンスごと買い取った件の企業は既に潰れてしまっているから、再びライセンスは伯父さんの所に戻って来たのだろうか?
 旧アンブレラはあまりにも評判が悪すぎたので、この企業の事業を継承しようという他の企業は存在しなかった。
 斉藤社長率いる大日本製薬にも、せめて日本法人の事業継承だけでもという話が来たらしいが、キッパリ断っている。
 何しろ、未だにハンターシリーズが生きているくらいだ。
 その処分に関する責任までおっ被されたら堪らんということもあるだろう。

 薫:「電車で行くのか?」
 学:「そういうことになるね。伯父さんが小牛田駅まで迎えに来てくれるみたいだから」
 高橋:「あの『コンビニ強行突入用の戦車』で行くわけですか……」
 学:「まあ、大丈夫だと信じたい」

[8月25日09:15.天候:晴 仙台市若林区白萩町 仙台市地下鉄薬師堂駅]

 翌朝になり、私と高橋とリサは朝食を食べた後、近くの地下鉄駅に向かった。

 

 平日のせいか、朝ラッシュのピークは過ぎたものの、まだ駅構内は賑わっている。

 リサ:「ふわ……」

 リサは欠伸をした。
 今はコロナ禍なので皆マスクを着けており、それは私達も例外ではなかった。
 リサも黒いマスクを着けているが、マスクに隠された口の中に牙が生えていないことを信じたい。
 今は人間形態のはずだから。

〔1番線、2番線に電車が参ります〕

 この駅は東西両方向の電車が同時到着するからか、接近放送も簡易的なものだった。

 愛原学:「リサ、もう伯父さんには挨拶が済んでるんだから、制服じゃなくていいんだよ?」
 リサ:「ううん。この方がいい」

 4両編成の電車がやってくる。

 愛原:「何でだ?」
 リサ:「先生、制服好きだから、きっとあの伯父さんもそうだと思うから」
 愛原:「何でだよ!どういう理屈だよ!」

 朝ラッシュのピークは過ぎているので混んでいるわけではなかったが、座席は空いていなかったので、ドアの近くに立った。
 私は吊り革に掴まったが、長身の高橋はその吊り革を吊っている棒を掴む。

〔2番線から、八木山動物公園行き電車が発車します。ドアが閉まります〕

 ドアが閉まって電車が走り出す。
 そういえばこのトンネルの途中に、あの地下通路と接している部分があるはずだ。
 ちょうどそっちの方を向いて立っているので、確認できないだろうか。

〔次は連坊、連坊。仙台一高前です〕

 私は窓の外に目を凝らしていたが、結局例の地下通路と繋がっていそうな場所は見つからなかった。
 そこから察するに、あの通路はこの地下鉄が開通してから掘られたものだと思った。
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