報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「国道108号線」

2020-09-12 20:15:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月26日13:46.天候:曇 宮城県大崎市 JR古川駅]

〔ピンポーン♪ まもなく、古川です。次の古川では、全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。【中略】新幹線はお乗り換えです。盛岡・新青森方面は11番線、仙台・東京方面は12番線です。今日もJR東日本、陸羽東線をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 列車が長いホームの真ん中に停車する。
 8両編成分の有効長を持つホームだが、実際にはそのように長い列車が運転されることはまず無い。
 これは貨物列車が運転されていた頃の名残だという。
 現在は貨物列車の運転も廃止され、貨物列車の姿を見ることはできない。
 外国ならホームに止まれれば停止位置なんて関係無いって所だろうが、そこは日本。
 例え有効長が長いホームに対し、列車の編成が短くても、ちゃんと所定の停止位置への停車が求められるのである。
 菱形に2という番号が振られた標識、停止位置目標で列車は停車した。

〔「古川です。当駅で13分停車致します。発車は13時59分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 陸羽東線は単線。
 古川駅はその中でも列車交換設備のある駅であり、ここで対向列車との交換待ち合わせがあるからだろう。
 私達はその列車に別れを告げ、下車することになる。

 高橋:「先生、レンタカーはどうしますか?」
 愛原:「一応さっき、駅レンタカーで予約は入れたけどね。一応あれだよ。軽じゃないけど、コンパクトカーだよ?1500ccくらいの」
 高橋:「ああ。この前乗ったフィットですか」
 愛原:「そんな感じの。或いは実家の車みたいに、ノートかもしれないしね」
 高橋:「まあ、大丈夫っス」

 私達はエスカレーターを昇ってコンコースに行くと、その足で改札口を出た。
 ここでもSuicaやPasmoが使えるのだから楽だ。

 愛原:「それじゃ、駅レンタカーに行くか」
 高橋:「うっス」

[同日14:15.天候:曇 同市内 国道108号線上]

 無事に車を借りられた私達は、早速それで現地に向かうことにした。
 予想通り、車はホンダのフィットだった。
 塗装は白で、ハイブリットではない。

 高橋:「運転は俺に任せてください」
 愛原:「頼むぞ」

 私は助手席に座り、リサはリアシートに座った。
 もっとも、車にはナビが付いているので、宿泊先の温泉旅館まではこれで迷わず行ける。
 宿泊を伴うのは、どうも今日はこれから天候が悪くなるらしいからだ。
 明日には天気が回復するみたいだから、今日の所は現地の旅館に宿泊し、明日ゆっくり調査しようという計画だ。
 車は国道108号線に出る。
 ナビによると、しばらくは道なりらしい。
 交通量の多い市街地区間をノロノロと進む。
 バイパスの建設計画があるほど、市街地は混雑する。
 それも、国道4号線との交差点付近。
 どうしても国道4号線の方が上級で、そちらが優先道路となる為に、108号線側の青信号が短いというのが理由である。
 ようやくそれを越えて、高橋が回復運転とばかりにアクセルをガシガシ踏む。
 この辺りでナビは、国道の番号を108から47と表示した。
 というか実際、国道の標識も47号線であることを表示している。
 しかし108号線が消えたわけではなく、鳴子温泉までは47号線と重複しているのである。

 リサ:「先生。私、しばらくケータイの電源切っていい?」

 後ろに座っているリサが、自分のスマホ片手にそんなことを言い出した。

 愛原:「どうしたんだ?」
 リサ:「埼玉県の美里町まで行ったサイトーが、半ギレして私を追い掛けて来るの。今現在、電話の方は着信拒否にしてるけど、今度はラインをブロックしたら、GPSで位置情報を把握して来てるみたい」
 高橋:「……俺、個人的にそいつはリサに食わせてもいいと思いました」
 愛原:「ダメだ!例え斉藤さんでも、人間を襲って食べたら、リサは殺処分決定だぞ!取りあえずリサ、斉藤さんには電話で謝るんだ」
 リサ:「サイトーが勝手に勘違いしただけだよ?それを逆ギレしてるのに、何で謝らないといけないの?」
 高橋:「取りあえずボコしとけ。空手有段者だろうが何だろうが、BOWの首を殴り千切るリサならできんだろ」
 愛原:「おい、高橋!リサも!『俺の命令は絶対』とか言ってただろうが!」
 高橋:「はっ、そうでした!サーセン!おい、リサ!聞いたか?先生の御命令は絶対だぞ!?」
 リサ:「……分かった」
 愛原:「もし何だったら、俺から電話しようか?」
 リサ:「ほんと?」
 愛原:「ああ」
 高橋:「全く。先生のお手を煩わせやがって。どう落とし前付けるんだ?」

 するとリサはスカートを捲り上げた。
 その下には黒いオーバーパンツを穿いている。

 リサ:「体で払います」
 高橋:「てめ、こら!」
 愛原:「どこで覚えて来るんだ、そういうの!?」
 リサ:「学校」
 高橋:「先生、こいつの学校、大丈夫っスか?」
 愛原:「確かに俺が中学校の頃も、エロ話に花咲かせている連中はいたが、それは男子だけで、女子は健全だと思っていたんだが……」
 高橋:「いや、俺が中学校ん時は、早々と処女捨てたと自慢してた女子連中はいましたよ?」
 愛原:「世代の違いか???……まあ、いいや。とにかく、斉藤さんに電話してあげよう。ケータイ、貸してくれるか?」
 リサ:「うん」

 私はリサからケータイを借りると、それで斉藤さんのケータイに掛けた。
 コールすらせず、いきなりすぐに斉藤さんが出る。

 斉藤:「もしもし!?リサさん!?」

 早速、興奮して鼻息荒くしているのが分かる斉藤さんの声が聞こえてくる。

 愛原:「ああ、いや、俺だ。愛原だ。斉藤さんにちょっと話がある」
 斉藤:「

 ブツッ!プーッ、プーッ、プーッ……

 愛原:「いきなり切りやがった……!」
 高橋:「おい、リサ。やっぱこいつ食い殺していいから。俺が許可する。ねぇ、先生?」
 愛原:「あー……いや!ダメだから!」

 やっぱりリサから電話しないとダメか。

 愛原:「リサ、取りあえず折衷案だ」
 リサ:「なに?」
 愛原:「斉藤さんは明日、仙台で会おう。どうせ明日の鬼首温泉の調査なんて、すぐ終わるだろ。終わったらその足で、俺達は一旦仙台に戻る。そして、そこで斉藤さんと合流することを約束する。だから、それまで我慢してもらえ」

 このままではGPSでもって、鬼首温泉まで追いかけてきそうな勢いだ。
 その執念ぶり、タイラントやネメシスも真っ青であろう。
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“私立探偵 愛原学” 「奥の細道湯けむりライン」

2020-09-12 16:08:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月26日13:25.天候:曇 宮城県遠田郡美里町 JR小牛田駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 とある政府機関に所属する善場主任の依頼により、私達は大崎市の郊外に向かうことになった。
 それは鬼首温泉と呼ばれる温泉地で、かつては旧・日本アンブレラの保養所があったが、やはりそこも保養所を隠れ蓑にした秘密の研究施設であった。
 私達が鳴子温泉に泊まった際、“青いアンブレラ”がそこから脱走したBOWを掃討し、施設は爆破されたということだが、その後は調査すらも放棄されていたというので、私達が行くことになった。
 取りあえず車で小牛田駅まで送ってもらう。

 善場:「それでは今回の報酬と、業務に際して発生しました費用については、後ほど請求して頂ければお支払いさせて頂きます」
 愛原:「ありがとうございます」

 その費用は交通費から食費、宿泊費まで何でもござれである。
 表向きは善場主任達、NPO法人に所属していることになっている。
 これは旧アンブレラの所業が世界的に渡っている為に、他国政府と秘密裏に連携しなければならない事情があり、表立って政府関係者が動いているとマズい部分があるからである。
 NPO法人の名前は、『デイライト』になっていた。
 これ、知っている人が見たら思わず笑みが零れる名前だ。
 だってそうだろう?
 そもそもアンブレラって、日本語にすると何だろう?
 『雨傘』だね。
 因みにパラソルは『日傘』だ。
 旧アンブレラのネーミングは、『世界の人々を病気の雨から庇護する傘でありたい』というものだった。
 ところがどっこい、実際その病気の雨を降らせていたのは旧アンブレラ自身だったと。
 善場主任達が表向き所属するNPO法人の『デイライト』は、日本語にすると『日光』である。
 つまり、『日の光が出ていれば、雨傘など必要無い』という皮肉である。
 まあ、日傘は必要になるかもしれないがな。
 その日傘役って、何だろう……?

 高橋:「先生、電車来てるみたいですよ」

 改札口を通り、コンコースからホームを見た高橋が言った。

 愛原:「ああ、それディーゼルエンジンの列車だから」
 高橋:「は?」
 愛原:「だからね、電車じゃなくて気動車です」
 高橋:「さ、サーセン!」

 2両編成の気動車がディーゼルエンジンのアイドリングをしながら停車していた。
 乗り込むと、ドアの近くはロングシート、それ以外は4人用のボックスシートと2人用のボックスシートが左右に並んでいた。
 私達はホイホイと4人用のボックスシートに座る。
 席順は東北本線の時と同じだ。
 ただ、窓は開かない。
 その為か、本来なら停車中はドアボタンを押して乗客がドアを開閉するのに対し、新型コロナウィルス対策と称して、今はホーム側のドアが全て開放されていた。

〔「13時34分発、陸羽東線下り、普通列車の鳴子温泉行きです。北浦、陸前谷地、古川、塚目、西古川、東大崎、西大崎、岩出山、有備館、上野目、池月、川渡温泉、鳴子御殿湯、終点鳴子温泉の順に止まります。発車までご乗車になり、お待ちください。尚、この列車は新型コロナウィルス対策の為、停車中は全てのドアを開放しております。お客様の御理解、御協力をお願い致します」〕

 高橋:「懐かしいっスね。再び戦いの場に行くって感じっスね。あ、ジュース買って来ましょうか?」
 愛原:「ああ、そうだな。頼む。俺はコーヒーでいいや」
 リサ:「オレンジジュースがいい」
 高橋:「リサは自分で買え」
 愛原:「まあまあ。だったら、2人で行けばいいじゃないか。俺はここで待ってるから」
 高橋:「しょうがないっスね。じゃ、ちょっぱやで買って来ます」
 愛原:「ああ」

 高橋とリサは一旦列車を降りて、ホームの自販機に向かった。

[同日13:34.天候:曇 JR陸羽東線1731D列車先頭車内]

 私は高橋が買って来た缶コーヒーを口にした。
 東北本線の時のように窓の下にテーブルは無いが、窓の桟の部分に置くことはできる。

〔「お待たせ致しました。13時34分発、陸羽東線下り、普通列車の鳴子温泉行き、まもなく発車致します」〕

 この列車はワンマン運転だという。
 なので運転士が放送している。
 運転席を立った運転士、ホーム側の乗務員室扉の窓を開けて笛を吹いた。
 ワンマン運転故に、車掌の業務も兼務しないといけないのだから大変だ。
 ドアが閉まって、運転士が運転席に着くまでの間ブランクがある。
 運転席にもドア開閉スイッチはあるだろうに、わざわざ始発駅では車掌スイッチの方を扱うのだろうか。
 発車する際、ディーゼルエンジンの唸り声が響くのは今も昔も同じ。
 それとも、これよりもっと新しい車両にはハイブリット車もあるが、それはさすがに静かなのだろうか。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は“奥の細道湯けむりライン”陸羽東線下り、各駅停車の鳴子温泉行き、ワンマンカーです。これから先、北浦、陸前谷地、古川の順に、終点鳴子温泉まで各駅に停車致します。途中の無人駅では後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、北浦です〕

 高橋:「先生、鳴子温泉駅から鬼首温泉って所までは近いんですか?」
 愛原:「いや、歩いて行ける近さではないな。一応、路線バスは出ているみたいだが、ただ単に湯治ならそれでもいいが、今回は調査だからな。ほら、旧アンブレラの保養所は交通不便な所に建っていることが多いだろう?」
 高橋:「なるほど。じゃ、タクシーっスか」
 愛原:「それも金が掛かる。いくら後で善場主任が支給してくれるって言っても、それまでは俺の立替払いなんだから」
 高橋:「と、なりますと……」
 愛原:「レンタカーだな。ところが、レンタカーショップはどうやら中心街の近くにしか無いみたいなんだ。大崎市の中心街は古川だ。なので、俺達はこの列車は古川で降りようと思う。あとはそこからレンタカーだな」
 高橋:「了解っス。運転は俺に任せてください。……できれば軽以外の車でオナシャス」
 愛原:「分かってる。鬼首温泉は鳴子温泉よりも更に山間にある温泉のようだ。ある程度の馬力のある車の方がいいだろう」

 といっても私の財布の事情じゃ、1500CC前後の車がせいぜいだがな。
コメント (4)
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