報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの牙抜き」 誤算

2023-11-12 20:46:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月28日18時15分 天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 某歯科医院]

 窓の外のバス通りを、“けんちゃんバス”が通過していく。
 朝の便、昼の便、夕方の便の3便しか運転されていない路線バスである。
 私とリサは、昼の便でここまでやってきた。
 そして今、今日の最終便である夕方の便が通過して行く。
 計画書通りであれば、あのバスに乗って、大宮駅まで戻り、そこでリサと一緒に夕食を食べて帰るつもりだった。
 だが、どうやら今日中に帰れるかどうかも怪しい事態が発生した。

 愛原「リサの新しい牙が生えてこない!?どういうことですか!?普通の歯が生えてきてるってことですか!?」
 BSAA歯科軍医「いえ、そういうことでもありません。確かに、牙の形状の新しい犬歯は生える見込みです。ただ、想定よりかなり遅いのが問題です」
 愛原「かなり遅いって、新しい牙が生えるのに、どれくらい掛かるというんですか?」
 歯科軍医「想定では10分だったのですが、あの様子ですと、5~6倍は掛かるかと……」
 愛原「6倍……つまり、60分……1時間!?」

 14時から始まって、1本目がようやく終わったところである。
 最初から想定内のことが起きた。
 まずは、抜歯前に麻酔をするわけだが、麻酔の効きが遅い。
 効かないわけではない。
 人間と違って、効き目が表れるのが遅いのだ。
 また、抜歯そのものにも時間が掛かった。
 グラグラと抜け掛けている歯や、完全に虫に食われた歯を抜くのとは違い、牙とはいえ健康な歯を抜くのだから、それは大変だった。
 親知らずを抜くようなものである。
 幸いなのは、止血は早いということである。
 止血が早いのだが、その分、生え変わるのも早いだろうと見ていたのだが、そうでもなかったことが想定外だったという。

 愛原「生えて来るのを待ってから、次に取り掛かるんですよね?これだと今日中に終わりませんよ?」
 歯科軍医「予定を変えて、『1本目の麻酔が切れたら、次に取り掛かる』にします。新しい歯が生えて来ることは確実ですから」
 愛原「とんでもないことになったきたぞ………」
 リサ「先生……」

 リサがフラフラと治療室から出て来る。

 愛原「リサ、大丈夫か!?」
 リサ「水……」
 愛原「!」

 私は待合室内にあるウォーターサーバーから水を水を持ってきた。

 愛原「ほら!」
 歯科軍医「少し休憩したら、2本目を行います」
 愛原「そんな無茶ですよ!1本ですら、こんなに疲弊するのに……!」
 歯科軍医「命に関わったり、暴走の危険が無いと判断される場合、中止は有り得ません」
 愛原「いや、だから、そんな連続じゃなくても……」
 リサ「これでも、アンブレラよりはマシだよ」
 愛原「リサ!?」
 リサ「トイレに行っても大丈夫ですよね?」
 歯科軍医「それはもちろん」
 リサ「アンブレラの研究所では、水も飲ませてもらえなかったし、トイレにも行かせてもらえなかったから……」
 愛原「そ、そうか……」

 こういう時、リサは強いな。
 それとも、逃げても無駄だということを知っているのだろうか。

 愛原「! 待てよ。1本終えるのに4時間掛かるということは、全部抜くとなったら……」
 歯科軍医「最初は1本目だったので、手探りの部分がありました。しかし、コツは掴みましたので、2本目以降はもう少し早くできると思います」
 愛原「そ、そうですか……」

 そうは言ったものの……。

[1月29日06時00分 天候:晴 同歯科医院]

 愛原「…………」

 いまなんじ……?
 眠くてしょうがない。
 しかし、リサはもっと大変なはずなんだ……。
 キイッという治療室のドアの開く音がして、上半身を待合室の長椅子に横たえていた私は、パッと飛び起きた。

 歯科軍医「お待たせしました。全て、終了しました」
 愛原「おおっ……!」

 私は眠い目を擦った。
 しかし、それ以上に眠い目をしたリサが出て来たので、私はなるべく眠い目をするのを辞めた。

 愛原「リサ、大丈夫か!?」
 リサ「……お腹空いた」

 さすがにリサの目の下にもクマが出来ていたが、取りあえず今は空腹の方が気になるようだ。

 歯科軍医「麻酔が完全に切れるまでは、あと1時間は掛かるでしょう。ただ、新しい犬歯は全て生え変わりました」
 愛原「確かにBOWにしては遅いですが、人間よりはとても早いですね」
 歯科軍医「早いですよ。今のところ異常は見当たりませんでしたので、取りあえずこれで終了と致します。抜いた犬歯は、研究サンプルに使わせて頂きます」

 元々それが目的だったわけだ。
 最後にいつの間にかやってきたBSAAのドクターカーに乗り込み、そこでリサは採血を受けた。
 リサの脅威的な回復力が、人間の医療にも繋がることを信じて。

 愛原「やっと帰れるな……」
 リサ「疲れた……眠い……お腹空いた……」
 愛原「後で高橋に迎えに来てもらおう」

[同日06時35分 天候:晴 さいたま市中央区本町東 与野霧敷川バス停→西武バス新都11系統車内]

 歯科医院をあとにした私達は、1番早く大宮駅に向かうバスに乗ることにした。
 まだ時間があったので、途中のスーパーの外側にあった自販機でコーヒーやジュースを飲んだりして、僅かでも腹を満たそうとした。
 そして、バスを待っている間、高橋にLINEで大宮駅まで迎えに来るように送信した。

 リサ「バスが来た……」
 愛原「ああ。今度のバスは、ICカードが使えるよ」
 リサ「そう……」

 北浦和駅に向かう国際興業バスではなく、大宮駅に向かう西武バスである。
 反対方向に乗ればさいたま新都心駅に行けるのだが、何故かこの時、私の頭の中には大宮駅というワードしか頭に無かったので、この選択肢を選んでしまったのだ。
 結果的には、この選択肢もまたそんなに間違いではなかったことに気づく。
 中型のバスは空いていて、私達は後ろの席に隣り合って座った。
 
〔ピン♪ポン♪パーン♪ 次は小村田、小村田でございます。……〕

 大宮駅周辺なら、朝早くからでも空いている店はあるだろうと思った。
 高橋からはまだ返信は無いが、それから車を用意して大宮駅に来るまで時間が掛かるだろうと思ったからである。
 ファミレスみたいな所でもあれば、そこに入って、食事がてら高橋が来るまで時間を潰すことができる。

 愛原「駅前にガストがあるな……」
 リサ「取りあえず、そこでいい」
 愛原「分かった。7時オープンか。このバスがちょうど着く頃かなぁ……?」

 私は首を傾げたが、程よく暖房が効いた車内では眠気に勝てず、リサと共に舟を漕ぐのであった。

 愛原「おっと!」

 しかし、そうは問屋が卸さない。
 私のスマホが震えて、寝落ちしそうだった私を起こす。
 それは高橋からのLINEで、すぐに用意して大宮駅に向かうという内容だった。
 大宮駅のどの辺が良いか聞かれたので、私は取りあえず、西口のガストで待っている旨を返信したのであった。
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“私立探偵 愛原学” 「リサの牙抜き」 当日4

2023-11-12 11:24:36 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月28日14時00分 天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 某歯科医院]

 昼食を取った後で、私達は指定された歯科医院へ向かった。
 外観は至って普通の歯科医院。
 だが、土曜日は午前中しか診療をしていないらしく、それで午後からとなったようである。
 駐車場にはBSAAのマイクロバスが1台停車している。
 警察の人員輸送車を、くすんだ緑色にしたような感じで、窓には金網が付いている。
 警察のそれと違い、赤色灯は無い。
 私達の姿を認めると、ドアが開いて、そこから降りて来たのはBSAA隊員達と……。

 レイチェル「リサ!」

 BSAAの制服を着たレイチェルだった。

 リサ「レイチェルだ!」
 愛原「ん?これは日本のBSAAの車だし、管轄も日本だろう?どうして、アメリカのBSAAがいるんだ?」
 レイチェル「訓練の一環です。ヘリコプターの飛行訓練の後、日本の部隊がここの特別警備をするということで、見学の為に同行させて頂きました」

 とのこと。
 その為、レイチェルは養成学校の制服姿であり、他の隊員のような戦闘服姿ではない。

 レイチェル「今のリサなら、暴走することはないという信頼ですよ」
 リサ「それはありがとう」
 BSAA隊長「それでは、中に」
 愛原「は、はい」

 隊長が入口のガラスドアをノックすると、中から職員と思しき者が中から開けた。
 だが、隊長の話では、このクリニックは貸切状態にしており、本当の院長以下の職員には一時退去してもらっているという。
 この辺の厳戒態勢を見ると、いかにリサがラスボスクラスのBOWなのだと分かる。
 ……分かるのだが、それなら何も、こんな住宅街のど真ん中にあるクリニックにしなくてもとは思う。
 いくらクリニックの駐車場とはいえ、バス通りからも見える場所に、兵員輸送用とはいえ、軍用車をドンと置いていたりするのは目立つと思うのだが、これも何かの作戦だろうか?
 当然ながら、内装も普通のクリニック。

 BSAA隊長「『リサ・トレヴァー』は中に」
 リサ「はーい。先生、上着預かって」
 愛原「ああ」

 リサは制服のブレザーを脱いだ。
 下に着ているニットのベストを、ここで改めて着用する。
 さっき焼肉した時、匂いが染み付かないようにと、ブレザーとベストは脱いでいた。

 愛原「これから夕方まで掛かるんですよね?休憩とか挟みますか?」
 BSAA歯科軍医「その予定です。あと、本人の希望も聞いて、トイレ休憩などはその都度……」
 リサ「……!」

 リサはそれを聞いて目を丸くした。
 何でもアンブレラの研究所では、人体実験中にトイレに行きたくなっても行かせてもらえず、そのまま失禁させられたりしたからだそうだ。
 アンブレラにとっては、リサ達など実験動物に過ぎなかったのである。
 で、抜歯が始まると、私は基本何もすることがない。
 中に入っても邪魔なだけだろうし、待合室で待つしかない。
 建物の周りを歩いて警備に当たるBSAA隊員がいる。
 あとは駐車場に止めた車の中から、正面入口を監視する隊員もいるとのこと。
 尚、基本的に正面入口のドアは『休診中』の札が掛けられ、施錠されている。
 また、窓も全てブラインドが下ろされ、外から中を覗くことはできない。
 治療室には歯科軍医と衛生兵、それと警備兵が配置されている。
 また、そこにはカメラが設置され、『監視者』の役を委託されている私も、一応見られるようになっていた。

 愛原「うーん……」

 最初は私も見ていたのだが、特にリサが暴れる様子も無い。
 さすがにもう高校生だから、小さい子供のようにギャン泣きすることもないだろう。
 私は待合室にある雑誌やマンガを読んだりして、時間を潰すことにした。
 飲み物については途中の自販機で購入したり、待合室内にウォーターサーバーがある。
 まあ、それだけだとね……。
 ノートパソコンでも、持ってくれば良かったかな。
 このクリニック、WiFiが導入されているので、ネット環境も整っているからだ。
 一応、私は善場主任に、リサの抜歯が始まったことを伝えた。
 大まかな流れは、『麻酔する』→『麻酔が効いていることを確認する』→『牙を抜く』→『止血する』といった感じ。
 これを4回繰り返す。
 リサの場合、体に変化が無いかどうかも確認する必要がある為、かなり時間が掛かるとのこと。

 愛原「電話しても大丈夫かな?」

 私は待合室の中を見渡した。
 待合室内はそんなに広くない。
 それに、一応室内には公衆電話もある。
 私は善場主任に掛けてみた。
 すぐに主任は出てくれたので、私はある疑問を口にした。

 愛原「あの……本当に夕方までに終わりますかね?」
 善場「あの計画書は、何もかもが全て上手く行った場合の物です。ですので、遅延は見込まれます」
 愛原「やはりそうですか……」
 善場「土曜日に決行したのにも理由がありまして、最悪、翌日までもつれ込む可能性も無きにしもあらずだからです」
 愛原「そ、そうだったんですか……」
 善場「それはお話ししてませんでしたね。ただ、リサに聞かれて抵抗されるのを防ぐ為でした。申し訳ありません」
 愛原「それはそれで、しょうがないと思います」
 善場「御理解が早く、助かります」
 愛原「それはいいんですが、リサの疲労が心配ですね」
 善場「……そうですね。そこは、特に心配なさらないで宜しいかと思います。BOWですから」

 一瞬、善場主任に間があった。
 私は何か、変な事を言ってしまったのだろうか。

 善場「立会者として所長も大変だとは思いますが、どうかこの職責を全うして頂けると幸いです」
 愛原「あ、はい。それはもう。仕事ですから」
 善場「もしも夕食時になっても終わらないようでしたら、その為の外出を許可するよう、現場のBSAAに伝えておきます」
 愛原「ありがとうございます」

 その後で、歯科軍医と話す機会があった。
 時間的な見込みはまだ何とも言えないが、今生えている牙を抜いても、また新たな牙がすぐに生えるという。
 上下2本ずつ、合計4本の牙を抜いて、新たな牙が生え揃ったのを確認したところで、全て終了の見込みとのこと。
 果たして、本当に計画は上手く行くのだろうか。
 1本目を抜いた時、特に治療室からリサの悲鳴などが聞こえて来ることはなかったが。
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