報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「帰省2日目」 3

2018-09-04 18:43:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月27日10:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生用の誓約書には、冒頭このような文言が書かれていた。

『私は以下に掲げる魔道師と恋愛関係にあることを認め、それ以外の女性とは一切性的関係を持たないことを誓います』

 それはともかく、『以下に掲げる魔道師』というのは……。

 稲生:「何これ?」

 筆頭にマリアがいて、その下にエレーナがいる。
 リリアンヌやアンナもいるし、名前だけ聞いたことのある者もいれば、全く初めて見る名前もあった。
 ダンテ一門は魔道師の門流の中で1番大きく、世界中に活動拠点を持っている為、入門してから1度も会わない者もいる。

 エレーナ:「ははーん!これはアレだな。稲生氏に少なからず興味を持っている魔女一覧ってところか」

 エレーナはニンマリ笑った。

 稲生:「ええーっ!?15人くらいはいるぞ!?」
 エレーナ:「稲生氏、モテモテだねぇ?」
 稲生:「全然知らない人もいるのに……」
 エレーナ:「それだけ稲生氏みたいなオトコが珍しいってことだろ。で、どうすんの?この中から1人選べってよ?なに?アタシを選んでくれるって?」
 マリア:「おい!」

 憎悪を込めた右手でエレーナの肩をガシッと掴むマリア。
 ……うむ。女の友情など、男の下半身1つで簡単にブッ壊せるというのは本当かもしれない。

 稲生:「いや、もちろんマリアさんだよ」

 稲生は迷わず筆頭のマリアに◯を付けた。

 エレーナ:「お、稲生氏、マジメだねぇ。アタシなら、『あ、手が勝手に〜!』とか言って、最低5〜6人くらいマルしちゃうよ?ダンテ門内ハーレムだ」
 マリア:「オマエもう帰れ!……だいたい、下の3人は明らかにトラップだろうが」
 エレーナ:「ま、そうだけどね」
 稲生:「トラップ?」
 エレーナ:「ここにいるモイラってヤツの場合、表向きは尻軽なんだけど、それに釣られてホイホイ付いて行った男を次の日以降見た者は誰もいないってさ」
 稲生:「何それ?」
 エレーナ:「取りあえず、怖い話聞かせてジワジワ呪い殺すアンナの方がまだかわいいってことさ」
 稲生:「僕の知らない怖い人達、まだまだいるんだなぁ……」
 マリア:「私ですら直接会ったことの無いヤツの名前が、どうしてリストアップされてるんだか……」
 エレーナ:「さあね。稲生氏のマジメさを確認する為なのかもね」
 稲生:「僕のマジメさ?」
 エレーナ:「本当の正解はこれでいいんだよ。アンタはマリアンナのことが好き。だから、マリアンナに◯を付けた。だけどクズ男は……マリアンナに◯を付けるとは限らないだろ?稲生氏も気づいているだろうけど、ダンテ門内の魔女達はそんなクズ男は殺しの対象だからね。それの確認の意味もあるんだろう」
 稲生:「怖い怖い」
 エレーナ:「前にも言ったと思うけど、こういう魔道師同士で文書のやり取りをする場合は、ちゃんとよく読めってことさ」
 稲生:「なるほど」
 エレーナ:「それじゃ、これは返信用封筒に入れて送りな」
 稲生:「エレーナが持ってってくれるんじゃないの?」
 エレーナ:「このリストに私の名前も書いてあるんだ。もし送っている最中、誰かが魔法で不正に書き換えでもしようものなら、配達人の私も疑われるからね。そんなリスキーなことはできないよ」
 稲生:「さすがだな」
 マリア:「マスターになる為には、このくらいのことも考えないとダメってことだよ」
 稲生:「メモっておきます!」

[同日11:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅前]

 エレーナは次の配達からと、ホウキに跨って何処へと飛び去って行った。
 ホテルに住み込みで働き、その片手間で“魔女の宅急便”をやることの何処が修行に繋がっているのか、まだ稲生には理解できていない。
 稲生は返信用封筒を送る前に、3つの防衛策を施すことにした。
 まず1つは、自宅のPCに取り込んで保存しておくこと。
 もう1つは自分のスマホに撮影し、その画像を保存しておくこと。
 そして、最後の1つはコピー機でコピーを取っておくことである。
 北与野駅のNEWDAYSでコピー機を借りると、稲生はそれで誓約書をコピーした。
 この時点で、原本に何か細工された形跡は無い。
 コピーを取ると、今度はその足で郵便局に向かった。

 稲生:「結局、シャワールームを無断使用していた人が誰か分かりませんでしたね」
 マリア:「おおかた、ここにリストアップされたうちの誰かってところだろう。エレーナもそう言ってた」
 稲生:「言い出しっぺが犯人じゃつまらないから、エレーナやリリィってことはなさそうですね」
 マリア:「多分、勇太をハニートラップに掛けようとしたんじゃないかなぁ?」
 稲生:「僕をですか?」
 マリア:「うん。勇太が襲ってきたら、それで既成事実を作ってやろうって魂胆だったのかもしれない」
 稲生:「怖い怖い。せいぜい僕が見たのは、曇りガラス越しに見えた白い肌と金髪だけでしたよ。だからマリアさんだと思ったんです」
 マリア:「あ、それ重大ヒント。なに?私に似てた?」
 稲生:「そうなんです。だからてっきり、マリアさんが入ってるものかと……」

 マリアは勇太が先ほど取った誓約書のコピーを取り出した。

 マリア:「この中で私のような白人で、金髪のショートというと……」
 稲生:「エレーナは違いますね。ウェーブの掛かったセミロングだし、リリィはどちらかというとグレーに近い銀髪です。それに、背丈がマリアさんよりも低い。アンナは黒髪ロングだから違います。……僕の知らない誰かか」
 マリア:「私も知らない。師匠なら知ってるだろうから、師匠が来たら聞いてみよう」
 稲生:「そうですね」

 稲生達は郵便局に行くと、返信用封筒を国際書留で送った。
 既に印刷された行き先はイギリスになっていた。
 今、ダンテはイギリスにいるのだろうか。
 マリアが言うには、この宛先は個人宅だという。
 ダンテのことだから、色々な国に家を持っているのだろうが……。

 稲生:「さっき分かったんですけど、ウクライナって制限厳しくて、日本から送れる郵便物が限られているらしいですよ。クリミアとかセバストポリとか……」
 マリア:「ああ、それで分かった。多分、エレーナの仕事って、それだわ。あいつがウクライナ人ってことで、魔女宅の仕事が有利なんだと思う」
 稲生:「日本からどうやって運ぶんですか?」
 マリア:「ルゥ・ラだろうね。ウクライナ国内に入ってしまえば、あとはあいつの地元なんだから何とかなるんだろう」
 稲生:「へえ……」

 稲生達のミッションは終了した。

 稲生:「それじゃ、さいたま新都心で少し遊んで行きますか」
 マリア:「そうしよう」

 ゲリラ豪雨フラグの立つさいたま市。
 夏の太陽が、2人の魔道師を照り付けていた。
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“大魔道師の弟子” 「帰省2日目」 2

2018-09-02 21:27:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月27日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 エレーナ:「あれ?稲生氏の御両親は?」
 稲生勇太:「父さんも母さんも仕事だよ」
 エレーナ:「稲生家、金持ちなのにお母さんも働いてるんだ?」
 稲生:「いや、別に金持ちじゃないよ。父さんだって、別に有名企業で働いてるわけじゃないし」
 エレーナ:「いやいや、さいたま市の高級住宅街に住んでる時点で【お察しください】」
 稲生:「マリアさんの家より小さいよ?」
 エレーナ:「マリアンナんちはデカ過ぎるだけ」
 マリア:「オマエら、うるさい!」

 マリアは客間から出て来た。

 エレーナ:「おー、マリアンナ。届け物だぞー」
 マリア:「よくここが分かったな?」
 エレーナ:「魔道師のネットワーク、ナメるなよ?それより稲生氏から聞いたぞ。侵入者が現れたんだって?」
 マリア:「勇太の話が本当ならな」
 エレーナ:「で、どうなんだ?水晶球で何か分かったか?」
 マリア:「ダメだ。上手いこと攪乱されてる」
 エレーナ:「こういう時、水晶球じゃダメだよ。私に任せな」
 マリア:「カネなら払わないよ」
 エレーナ:「稲生氏の為にサービスだ」
 稲生:「で、どうするの?」

 エレーナはローブの中から布袋に入った粉末薬を取り出した。

 エレーナ:「これを使う」
 稲生:「何だい、それ?」
 エレーナ:「まあ、見てて。まずこの部屋に撒いてみよう。ちょっと外に出てて」

 エレーナは稲生とマリアを外に出した。
 そして粉薬を一握り分、掌の上に乗せる。
 それをマリアのいた客間に向かって吹いた。
 バッと粉が舞った。
 最初は白い粉だったのだが、それがまるで着色されたかのように黄色く染まって行く。

 エレーナ:「このように、魔力を帯びた者がいた形跡があると黄色くなる」
 稲生:「そうなんだ」

 試しにエレーナ、父親の宗一郎が書斎として使っている部屋にも粉薬を吹き飛ばした。
 すると、今度は全く色が変わらなかった。

 稲生:「なるほど!」
 エレーナ:「それじゃ、例のシャワールームの所に行ってみるよ?」
 稲生:「うん、こっちだよ」

 3人は階段を上がった。
 そして、シャワールームまで行く。
 ドアを開けて、エレーナは粉を吹いた。
 すると、粉が黄色く変わる。

 稲生:「これは……!?」
 エレーナ:「魔道師の誰かが使っていた、ということがこれで明らかになったわけだ」
 稲生:「い、一体誰が!?」
 エレーナ:「そこまでは分からない。マリアンナが使ったわけじゃないのなら、もちろん他の誰かってことだろうな」
 マリア:「何の目的で?」
 エレーナ:「もしかしたら、この封筒の中に答えが書いてあるかもしれないぞ?」
 稲生:「ええっ!?」
 マリア:「これは……?」
 エレーナ:「ミッシェル師からだね。聞いたことあるだろ?」
 稲生:「あ、確か、うちのダンテ一門の監査役だっけ?所属は別の流派だけど……」

 会社役員で言うところの、外部監査役に相当する立場である。
 ダンテ門内では魔女同士のケンカが他門に迷惑を掛けることがあり、それを防ぐ為に他門から監査役が呼ばれた。
 その筆頭がミッシェルという名の魔道師である。
 魔道師ながら、普段はニューヨークで会社役員をやっているらしい。

 マリア:「私が監査に引っ掛かったのか?」
 エレーナ:「あーあ。ヘタすりゃ破門だぞ?」
 マリア:「わ、私は何もしていない!」
 エレーナ:「いいから開けてみなよ」

 3人は再び1階に下り、リビングに集まった。

 マリア:「これは……?」

 中にあったのは、別にマリアを処分しようという内容のものではなかった。
 要は『誓約書』。

 マリア:「なにこれ?」

 説明文も同封されていた。
 要はダンテ一門では内部・外部を問わず、基本的に恋愛・結婚は自由とされている。
 但し、内部同士で結婚する場合は、どちらもマスター(一人前)になっていることが最低条件というのが不文律になっている所はあるが。
 魔女同士のイザコザは、要は仲間が恋愛や結婚に打ち込むことで嫉妬され、トラブルに発展するのが大きな原因であるという。

 エレーナ:「マリアンナの時もそうだったな」
 稲生:「このアルカディア・タイムスの記事も?」
 エレーナ:「読んだのか。そうだよ。あれだけ男嫌いのレズビアン集団の1人が、ついに異性愛に目覚めたらしいんだな。で、男とよろしくヤっている所がバレて大変なことになったって記事だよ」
 マリア:「とりあえずそいつら、LGBTのLの人達に謝った方がいい」
 稲生:「確かに」

 というのは、別に性同一性障害とかでそうなったわけではない。
 人間時代、男性から性的暴行を受けた経験のある者が、それでも性欲を解消する為にそっちの道に走っただけだ。

 エレーナ:「稲生氏とマリアンナの例は、もう門内じゃ有名だ。マリアンナもそれだけ、魔女だったわけだな」
 マリア:「悪かったな」
 エレーナ:「ぶっちゃけ、稲生氏みたいな男は私も初めてだ。マリアンナがいい方向に行ってるんで、他の奴らも羨ましくなったって所だろ。で、中にはマリアンナのマネをして、彼氏作る奴らも出て来たってわけだ」
 稲生:「それって悪いことなの?」
 エレーナ:「いやいや、いいことだよ。ま、私は正直迷惑だけどな」
 稲生:「鈴木のことなら、僕からも言ってあげようか?『エレーナが迷惑してるからやめろ』って」
 エレーナ:「……いや、いい金づるだから、それは保留で」
 マリア:「オマエも素直になれよなw」
 稲生:「で、それとこの誓約書と何の関係があるの?」
 エレーナ:「説明文によれば、もしも稲生氏とマリアンナが男女関係として失敗したとしても、それを周囲の責任にしないことを誓うというものらしいな」
 稲生:「何のこっちゃ?」
 エレーナ:「日本人は知らないかもしれないけど、特にアメリカなんかじゃ、オフィスラブのトラブル発生にナーバスになってるんだよ。そんな時、会社のせいにされても困る。だから、『オフィスラブに関するトラブルを起こした場合、全部自己責任と致します』的な内容の誓約書を書かせるんだよ」
 稲生:「へえ、そうなんだ!」
 エレーナ:「つまり、稲生氏とマリアンナの関係はこれで門内でも公認とされているってことだな。喜べ、マリアンナ」
 マリア:「それはいいんだけど、何かもう1枚書類があるんだけど?」
 稲生:「今度は何ですか?」

 それは日本語で書かれていた。
 つまり、稲生用ということ。
 しかし、マリア用の誓約書とはまた違った内容だった。
 何と書かれていたと思う?

 1:『私はマリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットと結婚を前提に付き合うことを約束致します』
 2:『私はマリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットと結婚まで行けるよう、全力で修行に励みます』
 3:『私は以下に掲げる魔道師と恋愛関係にあることを認め、それに関する一切のトラブルは自己解決することを約束致します』
 4:『私は以下に掲げる魔道師と恋愛関係にあることを認め、それ以外の女性とは一切性的関係を持たないことを誓います』
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“大魔道師の弟子” 「帰省2日目」

2018-09-02 10:15:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月27日07:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 枕元のスマホがメロディーを鳴らす。
 これは京急接近メロディ“レントラー舞曲”か。

 稲生勇太:「うーん……」

 勇太は手を伸ばし、アラームを止めた。

 勇太:「第3レースの投票を締め切りました……。投票、ありがとうございました……。尚、川口オートレース場からのお願いです……」

 いやいやいや!違う違う違う!
 川口オートレース、車券発売終了3分前チャイムでもあるのだが。
 鉄ヲタとして、そこは京急の停車電車接近メロディということにしておかないと。

 勇太:「さて、と……」

 勇太、まだ眠い目を擦りながら洗面所に向かう。

 勇太:「うおっと!?」

 既に何度も先述しているが、2階には洗面所を改築したシャワールームがある。
 マリアが何故かそこを気に入り、稲生家で体を洗う時はそこをいつも使用している。
 で、今も使っていた。

 勇太:(マリアさんが使う前は、もはや無用の長物状態だったのになぁ……)

 1階にちゃんとした風呂はある。
 それなのに、どうして2階にあった洗面所をわざわざ改築したのかというと、妖狐の威吹がまだこの家に逗留していた頃に遡る。
 語るとそれだけで1話分作れるほど長いので端折るが、要は威吹と敵対したり、まだ未熟な勇太の霊力を狙った悪質妖怪の襲撃に対抗する手段の1つであった。
 今はそれも無くなり、必要無くなってしまったのだが、もともと2階に洗面台があること自体が稲生家の設計ミスといっても過言ではなかった(トイレは別にある)為、元に戻すのも躊躇うほどだった。
 さてどうしようかと放置していた頃、マリアが使うようになったという次第である。

 勇太は曇りガラス越しに映るマリアの裸体に後ろ髪を引かれながら、1階の洗面所に向かった。

[同日08:30.天候:晴 稲生家]

 朝の勤行を終えた勇太は、ダイニングに向かった。

 勇太:「おはようっス」
 マリア:「…………」
 佳子:「勤行終わったの?早いとこ食べてちょうだい」
 勇太:「はいはい」

 勇太はダイニングテーブルの自分の席に座った。

 勇太:「マリアさん?」
 マリア:「…………」

 マリアは俯いたままだ。

 勇太:「マリアさん、どうかしたんですか?」

 勇太はマリアの肩を揺さぶった。

 マリア:「……はっ!」

 パッと顔を上げる。

 勇太:「どうしたんですか、マリアさん?」
 マリア:「……寝ちゃってたみたい……」
 佳子:「無理もないわ。枕が変わると眠れないものだからね。コーヒーでも飲んで、目を覚ましてくださいな」

 母親の佳子がマリアにコーヒーを持って来た。

 マリア:「Thank you so much.……ア、アリガトウゴザイマス」

 マリアはミルクだけ入れてコーヒーを啜った。

 勇太:「さっきシャワー浴びてましたけど、それでも目が覚めませんでしたか?僕は勤行で目を覚ましましたが?」
 マリア:「シャワー?使いたかったけど、体が重くて使えなかった」
 勇太:「ええーっ!?」
 マリア:「なに?」
 勇太:「僕、さっき起きた時、誰かがシャワー使ってたんですよ!?」
 マリア:「何だって!?」

 2人は2階に駆け上がった。
 しかし、既にシャワールームには誰もいなかった。
 だがよく見ると室内は濡れており、明らかに最近誰かが使った跡があった。

 勇太:「これは一体……?」
 マリア:「……後で水晶球で調べてみる」
 勇太:「よ、よろしくお願いします」

[同日09:30.天候:晴 稲生家]

 勇太が朝食を終え、今日はマリアとどこに行くか考えていると……。

 勇太:「映画でも観に行くかなぁ……。うーん……」

 勇太は適当にテレビのチャンネルを回してみた。
 どこか出掛けるのに良いアイディアがあればと思ったのだ。

〔「……夕方から関東地方では大気の状態が非常に不安定になるんですね」「ということは、ゲリラ豪雨に注意ということでしょうか?」「注意どころか、もはやこれは警戒レベルです。東京都心でも浸水等に警戒しなくてはなりません」「はい、ありがとうございます。今現在、首都圏各地では太陽が顔を出して今日も猛暑になる見込みですが、午後からは大気の状態が不安定になるということで、視聴者の皆様方……」〕

 情報番組でこんなことをやっていた。

 勇太:「今日は近場でいいか。やっぱり映画でも観に行こう。で、夕方までには帰ると……」

 と、そこへインターホンが鳴った。

 勇太:「何だろう?NHKの集金かな?新聞の勧誘かな?宗教の勧誘かな?」

 勇太はインターホンの通話ボタンを押した。

 勇太:「はいはい、どちら様で?」
 エレーナ:「お届け物でーす」
 勇太:「エレーナか」

 勇太は急いで玄関に向かった。

 勇太:「はい、ご苦労さん」
 エレーナ:「マリアンナが稲生氏の実家に向かったって聞いたんで、こっちに配達に来たぞ」
 勇太:「よく知ってるねぇ……。ってことは、マリアさん宛てか」
 エレーナ:「そう」

 エレーナが持って来たのは、A4サイズの封筒。

 勇太:「ほいっと」

 ポチッと勇太は受領印を押す。

 エレーナ:「当のマリアンナはどうした?ヤり過ぎて、下半身ガクガクにしたってか?」

 エレーナはニンマリと笑った。

 勇太:「まだシてない!」
 エレーナ:「別にヤること自体は禁止じゃないぞ」
 勇太:「ちょっとおかしな現象が起きたもんで、調べてもらってる最中なんだ」
 エレーナ:「おかしな現象?」
 勇太:「いや、実は……」

 勇太はエレーナにシャワールームのことを話した。

 エレーナ:「それでマリアンナは?」
 勇太:「水晶球で調べてるところだけど、なかなか出てこないみたいなんだ」
 エレーナ:「多分それ、水晶球で調べてもダメなヤツだぞ」
 勇太:「そうなの!?」
 エレーナ:「もし良かったら、私に調べさせてくれない?」
 勇太:「ああ、分かった」

 エレーナは中に入った。

 エレーナ:「……多分、今調べても出てこないとは思うな」
 勇太:「ん、どういうことだ?」
 エレーナ:「でも実際、誰かいたかどうかは分かるだろう」
 勇太:「んん?」
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“大魔道師の弟子” 「帰省初日」

2018-09-01 20:28:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月26日17:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 家のポストから夕刊を取って来る稲生勇太。
 いつも取っている新聞(ま、朝日や聖教ではないことは確か)の他に、もう1つ別の新聞が入っていた。
 それは『アルカディア・タイムス日本語版』。
 明らかに稲生宛に送られて来たものだと分かる。

 稲生勇太:「アルカディア・タイムス、久しぶりだなぁ……」

 魔界王国アルカディア、その王都アルカディアシティ。
 そこに本社を構える新聞社である。
 基本的に魔界で起きた事件などを報道するわけだが、特集でダンテ一門のことが取り上げられることも多々ある。
 そんな時、たまに配達されることがある。

 稲生:「このタイミングで……。よく、僕が帰省することを知っているなぁ……」

 勇太はその他の郵便物も含めて、家の中に持ち込んだ。

 稲生佳子:「あら、勇太。ありがとう」
 勇太:「なぁに。マリアさんの屋敷でも、よくやってることだから」

 勇太はアルカディア・タイムスを自分の部屋に持ち込んだ。

 勇太:「えーと……なになに?……『雲羽百三氏、今秋大石寺へ』『報恩坊トチロ〜氏と極秘に連絡取る?』……関係無いじゃんw」

 と、その時、勇太の部屋のドアがノックされた。

 勇太:「はい」

 ガチャとドアを開けると、外にはマリアがいた。

 勇太:「マリアさん!?」
 マリア:「アルカディア・タイムスが届いたんでしょ?私にも見せて」
 勇太:「あ、でもこれ、日本語版ですけど?」
 マリア:「分かってるよ」
 勇太:「今、持って行きます」

 勇太はアルカディアタイムスを持って、1階のリビングに下りた。

 マリア:「作者の動向はどうでもいいや」
 稲生:「ですよねぇ……」
 マリア:「それより、ダンテ門内の動きは?」
 稲生:「これですね。『魔女達のイザコザ再び』『彼氏を内緒で作った魔女を別の魔女達が集団リンチ』……って、どこのスケバングループですか!」
 マリア:「懲りないなぁ……」
 稲生:「マリアさんも前、巻き込まれましたもんね。……って、あれ!?」
 マリア:「なに?」
 稲生:「ケンショーブルーが出てる!?」

『ケンショーレンジャーにおける青い修羅戦士、ケンショーブルーことサトー様は語る』

 として、

『あぁっ!?女の友情なんてものはよォ、男のチ◯◯一本で簡単にブッ壊せんだよ、あぁっ!?だからよ〜、俺様の極太チ◯◯でよ〜、ヒーヒー言わせてやっからよ〜、早いとこヤらせろよなっ!じゃ、頼んます!』

 マリア:「なにこれ?」
 稲生:「最近のアルカディア・タイムスもゴシップ性が増しましたねぇ……」

 そもそもサイズがタブロイド判という時点で【お察しください】。

 稲生:「あ、横田理事のもある」
 マリア:「なにっ!?」

『横田です。先般の魔界民主党総幹部会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。ダンテ一門の魔女さん達は、常に陰の存在であろうとするあまり、モノトーンの服を着る傾向があります。しかしながら、中には年若い者もおり、そういった若い魔女達におきましては、下着は明るくてセクシーな物を着用する傾向が高いとの調査結果が出ております。特にイリーナ組のマリアンナ・スカーレット氏におきましては、高い確率でピンク色を基調とした花柄のブラショーツを着けておられるとの分析結果が出ており、正に内に秘めたる陰鬱なるモノを排出せんとする勢いが真に感じられ……』

 マリア、バッとスカートの裾とブラウスの上から胸を隠した。

 稲生:「な、何だこりゃあ!?」
 マリア:「あのクソ野郎、どこで知りやがった……!」
 稲生:「あ、あの……マリアさん、もしかして……横田理事のコメントは……」

 マリアは唇を噛んで俯いた。
 そして、ブラウスのボタンを外す。

 稲生:「ま、マリアさん!?」

 チラッとだけブラジャーを隙間から見せた。
 それは確かにピンク色だった。

 稲生:「……て、ことはスカートの中も?」

 さすがそれは見せなかったマリア。
 すぐにブラウスのボタンを留める。

 マリア:「ブラショーツだから、同じ色だよ」
 稲生:「横田理事……いつの間に?」

 マリアは白い肌を真っ赤にさせていたが、勇太は怒りを通り越して最早呆れるしかなかった。

 マリア:「師匠の方がド派手な紫色のランジェリーで、そっちの方がツッコミ所満載だってのに、横田の野郎……!」
 稲生:「それもそれでアウトだと思います。……ていうか、マリアさん」
 マリア:「なに?」
 稲生:「こんなこと言ったら怒られるかもしれませんけど、横田理事の分析、先生達に対してはほぼ当たりだったりしません?」
 マリア:「それな!」

 イリーナを始めとする大魔道師達。
 契約先の悪魔に因んだ色を使ってはいるものの、全体的に派手なランジェリーを着用していることが多い。

 稲生:「きっと横田理事、先生達に対して言ったんですよ、きっと。ま、だからいいってわけでもありませんけど、ウソはついていないわけですし……」
 マリア:「だったら、何で私を例に出したりしたんだ?」
 稲生:「……ですよね」

[同日18:00.天候:晴 稲生家1階ダイニング]

 この頃になると父親の稲生宗一郎も帰って来る。

 宗一郎:「おお、マリアさんもおいでか」
 マリア:「マタ、オ世話ニナリマス」
 宗一郎:「自分の家だと思って、遠慮なく寛いじゃってください。お正月の時みたいにね」
 マリア:「あ゛……」

 マリア、正月の時の失態を思い出した。
 泥酔して魔力を暴走させてしまったのだが、何故かほぼ全て結果オーライになったというものだ。

 マリア:「今度ハ気ヲツケマス……」
 佳子:「さあさあ。そろそろ夕食にしましょう」

 母親の佳子が夕食を持って来る。

 宗一郎:「勇太、ビールだぞ」
 勇太:「はいはい」
 宗一郎:「マリアさんはワイン派でしたな?」
 マリア:「ハイ」

 取りあえず、ビールやワインで乾杯する稲生達。
 しかし勇太は、先ほど見たマリアのブラチラが気になってしょうがなかったという。

 稲生:(それにしても、横田理事のストーカー術、公安庁やCIAもビックリだろうなぁ……)
 マリア:(横田のヤツ、いずれシメてやらないとな……!)
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