高学年から
琴葉のうちは、代々続く町工場。1ミクロン単位での精密部品を作っている。
琴葉が6年のときに、ここで住み込みで働くようになった天馬は、15歳だった。それから二年後、物語が始まる。
天馬は、家族の一員のような存在だが、琴葉は天馬との距離をどう置いたらいいか戸惑いがある。
琴葉の父の工場は、どうも様子がおかしい。いろいろあって、琴葉と天馬は、父が、銃の部品を作ることを断り、仕事が減っていることを知る。また天馬の本当の家族のこと、天馬がなぜ家を出ているのかも、明らかになる。
下町の工場といえば、「下町ロケット」を思い出す。小さな工場が、大企業と張り合って、ロケットの部品を見事に作り上げるその紆余曲折、人間模様だった。ロケットの部品ならばいい、だが人殺しの部品は作りたくない。本は創作だ、これは実際にあることだ。そうしないとやっていけない工場もある。
天馬の母は中国人だ。祖母と母との確執には、戦争の傷が深く関わってもいる。
中学生の女の子の視点で、これらの事情を描くというのは、並大抵のことではない。工藤純子は、きゃぴきゃぴ元気な女の子達を描き続けていた作家。それが、ここにきて次々と問題作を世に出している。そもそも、誰一人として社会からはみ出ている存在などない。きゃぴきゃぴしている子も、悩み多き子も、虐待されている子も・・・。
工藤純子、すごい。考えると、私が「季節風」に入会した10年以上前、すでに若くして編集委員となり、作家デビューを果たした方なのだ。後藤竜二の志をしっかり受け継いでいる一人だ。
きっと悩みながら書いている。でも逃げずに、踏ん張って。足を使って調べて。
どこかに恋愛ものみたいに書かれていたけど、とんでもない! 恋愛要素も含む人間ドラマ。社会性の強い作品だ。