fromイーハトーヴ ーー児童文学(筆名おおぎやなぎちか)&俳句(俳号北柳あぶみ)

お知らせ・防備録。
記事および画像の無断転用はお断りいたします

Information

『そこに言葉も浮かんでいた』(新日本出版社)『アゲイン アゲイン』(あかね書房)『わくわくもりのはいくえん はる おともだちできるかな』『みちのく山のゆなな』(国土社)『ファミリーマップ』、エンタメシリーズ『家守神』1~5巻、『おはようの声』幼年童話『ヘビくんブランコくん』『オンチの葉っぱららららら♪』、短編集『友だちの木』・歴史物語『アテルイ 坂上田村麻呂と交えたエミシの勇士』他、好評発売中です。各種ご依頼は、左側のメッセージからお願いいたします。    

『てのひらに未来』工藤純子(くもん出版)

2020年03月01日 | 本の紹介
        高学年から

 琴葉のうちは、代々続く町工場。1ミクロン単位での精密部品を作っている。
 琴葉が6年のときに、ここで住み込みで働くようになった天馬は、15歳だった。それから二年後、物語が始まる。
 
 天馬は、家族の一員のような存在だが、琴葉は天馬との距離をどう置いたらいいか戸惑いがある。
 琴葉の父の工場は、どうも様子がおかしい。いろいろあって、琴葉と天馬は、父が、銃の部品を作ることを断り、仕事が減っていることを知る。また天馬の本当の家族のこと、天馬がなぜ家を出ているのかも、明らかになる。

 下町の工場といえば、「下町ロケット」を思い出す。小さな工場が、大企業と張り合って、ロケットの部品を見事に作り上げるその紆余曲折、人間模様だった。ロケットの部品ならばいい、だが人殺しの部品は作りたくない。本は創作だ、これは実際にあることだ。そうしないとやっていけない工場もある。
 天馬の母は中国人だ。祖母と母との確執には、戦争の傷が深く関わってもいる。
 
 中学生の女の子の視点で、これらの事情を描くというのは、並大抵のことではない。工藤純子は、きゃぴきゃぴ元気な女の子達を描き続けていた作家。それが、ここにきて次々と問題作を世に出している。そもそも、誰一人として社会からはみ出ている存在などない。きゃぴきゃぴしている子も、悩み多き子も、虐待されている子も・・・。
 工藤純子、すごい。考えると、私が「季節風」に入会した10年以上前、すでに若くして編集委員となり、作家デビューを果たした方なのだ。後藤竜二の志をしっかり受け継いでいる一人だ。
 きっと悩みながら書いている。でも逃げずに、踏ん張って。足を使って調べて。
 どこかに恋愛ものみたいに書かれていたけど、とんでもない! 恋愛要素も含む人間ドラマ。社会性の強い作品だ。