うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

お久しぶりの、稲川ジュンコです

2017年05月04日 | 稲川順子の怪談

すっかり暖かくなり、

炬燵をしまうのなら今しかない。

それほどの暖かさになり、

それでも、炬燵をしまえない。

恐ろしや~。

 

おはようございます。

よねさんが、今こそ、ビバ炬燵!

だそうでして、

お籠もりになって居られるのです。

冬の間は、座布団に居られたのに、

今になって、炬燵の中を「我が城」として、死守しておられる。

梅雨時まで、待とうか・・・

 

そんな訳で、今日は、

暖かな春の日差しの中の炬燵。

そんな不調和な、この部屋に、

もっと恐ろしい不調和が生じていた数日を書きます。

お久しぶりです、稲川ジュンコです。

 

あれは、晴れた昼下がりの事でした。

突然の強風に、窓は割れんばかりに軋み、

私は、嫌だな~嫌な気がするな~と思っていたんです。

すると今度は、ぱたっと風が止んだ。

止んだ途端に、部屋の中で、ギシッと音が鳴ったんです。

私は、とっさに思ったんです。

「何かが、来た!」と。

 

私は、たまに、そう思う事が、あるんです。

でも、そんな時は、気のせいだと流すようにしている。

そうしていると、知らぬ間に、気配は消える。

ところが、今回は、そうは行かなかったようなんです。

 

1日目、せっかくの連休の昼下がりだ。

ゴロゴロと昼寝に興じようと思っても、

どうにも居心地が悪い。

空気が重くて、なんだか息苦しい。

その日を境に、

そもそも寝つきがいい私が、夜も眠れなくなって行くんです。

 

2日目、重い体を引きずるように過ごす中、

気配は、さらに存在感を増していく。

下の階に響くのではないかと思う程の足音が鳴る。

ドシドシっとこれ見よがしに鳴るんです。

そこで、私は、あえて言ったんです。

「気にしない、気にしな~い」と。

 

3日目になると、やたら物が無くなり始める。

目の前の机上に置いたペンが、忽然と無くなるんです。

あれ?おかしいな~おかしいな~っと思い、

あちこちを探し回り、再び机に戻ると、

あるんです。ちゃんとペンが置いてあるんですよ。

そんな事を何度も繰り返し、苛立った私は、

さすがに、思わず言いましたよ。

「お前は、無邪気な堕天使か」ってね。

 

この程度の悪戯に、恐れてはいけない。

誰かは知らんが、誰だろうな~とも思わんぞ!

お前の事なんて、考える暇も持たん!

無視だ。お前なんて、無視だ。

 

そう己に言い聞かせながらも、

そうは行かない気もし出した矢先の事でした。

 

その日の夜も、やっぱり寝付けないんです。

さすがに3日目ともなると、気持ちが萎えてくる。

「ここで、負けたら、つけこまれる」そう感じても、

なぜか、訳もなく涙が溢れてくるんです。

すると、まさに、つけこむように私の首に何かが触れた。

そして、ギュッと絞めてきたんです。

 

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

 

「ぐぅぅ、く・・・苦しい・・・」

 

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

 

「う・・・た・・・たすけ・・・」

 

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

 

「おまっ、ど・・・どんだけリズミカルなん・・・や?」

そうなんです。

リズミカルに首を絞めてくるんです。

まるで、苦しむ私を、弄んでいるかのごとく

アン・デゥ・トロワーのリズムで絞めてくる。

私も思わずリズムにノリかけた、その時、

携帯電話が鳴ったんです。

 

ポチャンッ・・・ポチャンッ・・・ポチャンッ・・・

 

呼び出し音が、怖い!

なぜ、わざわざ水の落ちる音を設定したんだ、私め!

お馬鹿さんか!

そう思っても、藁をも掴みたい私は、

携帯電話に必死に手を伸ばしたんです。

「も・・・しもしも」

その後の声が出せない。

これでは、ただバブリーにふざけている44歳の女だと思われてしまう。

「どな・・・た?」と声を絞り出した。

すると、電話の向こうで、相手が言ったんです。

「うめうめ、うめだけど」

 

うめ?

うめなの?

あの、亡くなって以来、夢にも出て来てくれない、うめさんなの?

 

戸惑っている私に、電話の主は構わず続ける。

「あのね、アレよ、アレ。

こんな時は、アレをやんなさい。」と。

 

アレって?アレってなんの事?

声にならぬまま、心でそう訴えると、うめが答えてくれたんです。

「アレって・・・アレ?なんだっけ?」

コラー!

 

ここで、首絞めバレリーナは、更にリズムを速めてきた。

もう携帯電話すら持っていられない。

そんな時のために、強い呪文を知っている私は、

それを唱えようにも、唱える事を許さない首絞めバレリーナ。

どうする、おかっぱ?

 

その時だ。

シャンシャンシャンシャンという音と共に、風が吹いた。

顔に当たる風に気付いて、眼をガッと見開いた私の目の前に、

立っていたんですよ。

 

うめさんだ!

 

突如現れたうめは、そのまま家中を走り回り始めたんです。

シャンシャンと音を鳴らして、走り回って風を吹かせる。

その風は、まるで春風のように、優しく暖かく部屋中を包んでいく。

どこに居たのか、他の猫達も起き上がって集まってきた。

 

どれほどの時間だったろうか。

美しい、その姿を目で追っていたら、

うめは食卓に飛び乗り、スッと立った。

そして、床に横たわっている私を見下ろした。

 

うめ・・・うめさんだ。

 

自分の涙のせいで霞む、うめの姿を、

しっかり見直そうと、私は眼をこすりながら起き上がった。

そして、再び食卓を見たんです。

 

しかし

うめの姿は、もう消えていたんです。

そして、首絞めバレリーナの気配も、

すっかり消えていたんですよ。

 

うめが旅立ってからというもの、

夢でもいいから、出て来てよ。

そんな事を、何度言って、泣いた事か。

 

でも、私、この事で思ったんです。

もう、そんな事、言わないからね。

あんたに心配かけないよう、もっと強くなるから。

ありがとう、うめさん。って、

空に向かって、呟いたんです。