体の奥深く、
潜んでいた胸の鼓動が、
突然、ドクンと私の体を揺さぶった。
これは、恋の始まりか。
おはようございます。
違う、大砲だ!
ドカーンって鳴るたび、心の臓が飛び上がっているんだ。
我が町や、隣リ町や、隣接した市は、
なぜか、やたらめったら、大砲を打つ。
お祭りの日や、祝日になると、
朝7時頃、競うように大砲をぶっ放すのが
この地方では、昔からの慣習のようだ。
体育の日も、当然、朝から大砲の音で騒然としていた訳だが、
この近代社会において、
祝日を大砲で知らせてもらわなくても、情報を得る方法は他にもあるはずだ。
そもそも、
うっかり忘れている人なんて、放っておけばいいじゃない?
そっとしておいてあげて!
私は、そう思うのだ。
しかし、町の偉い人たちは、そうは思っていないらしく、
それはそれは盛大に何発もの大砲をぶっ放す。
どれ程の音かといえば、私の家の窓が振動で揺れる程だ。
田畑のスズメは飛び惑い、
私と猫は、大砲の音に合わせて、
その都度、体がビクンビクンと反応せざるを得ない。
ご機嫌なナンバーに体がスウィングしているように。
無音動画でみれば、楽しそうに見えるかもしれないが、
顔は、恐怖に満ちたホラーだ。
それどころか、
戦争を知らない私でさえ
「戦争だーー」っと叫びそうになるのだから、
戦争を知ってる両親など、どう思うだろうか?
「父さん、今朝の大砲も凄かったよね」
そう父に聞いてみると、
父は穏やかな笑みをたたえて、こう言った。
「そうか?鳴ってたか?」
嘘だろ、父さん?
我が町の住人たちは、おそらく長年の鍛錬により、
この正気の沙汰と思えないレベルの爆発音を、
穏やかな心で受け入れてしまっているという訳か・・・
慣れって、すごいな。
よし、私も、
この常軌を逸した音に慣れるべく頑張るぞ!
おい、おたま!
お前も、ビクンビクンしてたな。
頑張ったご褒美に、お刺身だぞ。
あやなんて、押し入れで縮こまってたもんな。
欲しいんだ。
嬉しいな。
こらこらー!
そんなに欲しいのか?
お刺身、嬉しいもんな~。
でもね、おたま・・・
その表情は、嬉しい時の表情ではないぞ。
なんか、間違えてないか?
私達、慣れていいのか?