私にとって、
母さんが作るサンドウィッチは、
カルテのようなものなのです。
おはようございます。
始まりは、そうではなかった。
朝食を摂らない私に、母さんが、
「お前は、朝食を食わんから、鶏ガラみたいに痩せとるんや」
と言って、私が「要らん」と言っても、
母さんは意地でも作って食べさせた。
それが、母さんのサンドウィッチの始まりだった。
けれど、母さんのサンドウィッチは、
いつしか、少しおかしくなっていった。
「今日はよ、春巻きを挟んでみたいんや」と、
本気で春巻きをサンドウィッチの具にした母さんんは、おかしくない。
むしろ、それでこそ、母さんなのだ。
餃子のサンドウィッチにも挑戦したが、
それも、私は「おかしい」とは思わなかった。
「そう来たか」という感想だった。
いや、餃子サンドウィッチは、一般的にはおかしな料理だが、
母さんならではの発想だから、母さんとしてはおかしくないという意味だ。
ただ、
「やたら、中華との融合を企てるのはどういうことだろう?」
という疑問は抱いた。
最初に、母さんがおかしいっと思ったのは、切り方だった。
いつもは十字に切って4切れにしていたのに、
その日は、横に2回包丁を入れて、3切れになっていた。
「母さん、切り方替えたの?」と聞いたら、
母さんの眼は、濁ったビー玉みたいだった。
そして、その3切れのサンドウィッチには、
マヨネーズがまったく塗られておらず、図抜けた味だった。
私は、その時、「おかしい」と思った。
母さんの認知症を確信した日だった。
しかし、気位の高い母さんは、自分の認知症を認めたりなんかしない。
だから、私は、
それ以来、母さんにはこっそりばれない様に
サンドウィッチをカルテのように注意しながら食べるようになった。
あれから、母さんのサンドウィッチは、
「今日は完璧だ」という日や、
「ケチャップと間違えてイチゴジャム」という日や、
「挟む順番を間違えてオープンサンド」という日や、
とにかく、いろんなサンドウィッチが出来上がった。
その都度、私は安心したり、不安になったり、
「母さんの今日は、不吉な予感がするから、家で大人しくしてなよ」と
お告げをしたりした。
あまりにハチャメチャなサンドウィッチの日は、そう言った。
こうなると、カルテというより、サンドウィッチ占いだ。
そんな母さんが、先日作ってくれた、
罰ゲームサンドウィッチをご紹介しよう。
おそらく、マヨネーズのノリで、辛子を塗っちゃったのだろう。
この日は、さすがに大爆笑だった。
涙をボロボロ流して悶絶しながら食べた。
そんな姿を、母さんも他人事みたいに大笑いしていた。
「まるで、他人事みたいに笑ってら~」と思っていたが、
昨夜、私は、ハッとした。
我が家のうんこが、自分のご飯を食べずに、
しれ~っと、のん太のご飯を盗み食いしようとしたから、
「ダメ~!」と取り上げたところ、うんこったら、
ぷりぷり怒って、早歩きして行っちゃったんだよ。
そう、おじさんに話しながら笑っていたら、
うんこが、つかつかっとやってきて、私を睨んだ。
「うんちゃんを笑わないで!」
そう言っているみたいな顔をして、じっと睨んで、
また、ぷりぷり怒ったように、早歩きして行ってしまった。
その時、私は、
「ごめんごめん、笑い事じゃなかったな。ごめんな。」と
うんこを追い掛けながら、先日の母さんを思い出した。
罰ゲームサンドウィッチを爆笑しながら食べる私を、
何も言わずに笑っていた母さんは、どう思ったんだろうと。
恥ずかしくって、ちょっと悔しかったり、
自分の間違いに不安になったりしただろうか?
母さんは、鶏ガラみたいな娘に、朝ご飯を食べさせようと、
その変わらぬ思いで、10年以上作り続けてきたのに、
いつしか、変わっていたのは、私の方なんだ。
そう思うと、私はいささか、反省をした。
けれど、反省をする前に、きっちり罰ゲームを受けたのだから、
それを考えると、
「ざまーみろ、私め」と思えて、なんだかおかしくなってきた。
うんこ「おじさんも、笑ったでしょ?」
うんこ「ヒトの失敗を笑っちゃダメなんだから、もう」
だったら、どうしたらいいのさ?
うんこ「教養溢れる、気の利いた愛のあるツッコミをしてちょーだい!」
なんという、ハードルの高さよ・・・・