うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

心に愛を!

2021年12月02日 | カズコさんの事

「母さんの車、

あれはもう、売ってしまおう。」

父はそう言った。

 

おはようございます。

12月締め括りは、やっぱり、うめさんだよね~。

師走になると、人は何かと整理したくなるのだろう。

 

車の運転を取り上げられた母は、それがどうしても納得がいかない。

毎日のように、そのことで父と喧嘩になるのが、父はもう苦痛だと言う。

「あの車が目に入るから怒れるんだろうから、もう売ってしまえ。

売れた金は、お前にやるから、早く売ってこい。」

父は、そう言った。

それを聞いていた母は、怒りを含んだ表情で、じっと黙っていた。

私は、母の表情より、着ていた衣服が気になっていた。

ここ最近、毎日会う度、同じ部屋着だった。

胸に着いた汚れもそんまま残っている。

母は、もう自分の判断で、衣服を選んで替えるということが

出来なくなっていることに気付いた。

怒りに強張る母のご機嫌取りするかのように、

「母さん、その部屋着もう捨てよう。おっしゃれな部屋着、買ったるでな。」

と大げさに笑った。

けれど、母の表情は緩まなかった。

 

怖い顔の母さんだ。

この顔、私は何度も見た。大っ嫌いな顔だ。

「お前は、産みたなかったんや。」

怖い顔で、何度もそう言われながら、私は育った。

その言葉は、今でも私を呪う。

心の奥底に、『どうせ要らない私』がずっと俯いている。

弱くて卑屈な、大嫌いな私だ。

今考えてみれば、私は大人になって、足掻いていた。

要らない自分から脱却しようとしていたのだろう。

綺麗になったら誰かに必要とされるかもとダイエットを頑張り、私は拒食症になった。

結婚しようと言ってくれた男のために、

いいお嫁さんになろうと頑張れば頑張る程、私は壊れていった。

錠剤依存、性依存、アルコール依存、とにかく何かに依存をしながら

生き長らえた。自分を壊しながら生き長らえていた。

おかしな話だ。

だけど、当たり前だが何もうまくいかず逃げ出した。

それでも気づかず、今度は仕事に命を懸けた。

憑りつかれたように働き、結果、本当に命を失いそうになった。

命がけで作った店を、脳卒中のおかげで一瞬で失った。

健康な体も店も金も、何もかも失った。

その時、私に残っていたのは、猫だけだった。

足掻きに足掻いていた間、ずっと側に居てくれたのは猫だけだ。

いつだって、静かに見つめる、うめさんの瞳に、私はようやく気付いた。

私は小さな体のうめに縋りながら

「ごめん、ごめんなさい」と泣いた。

うめは『どうせ要らない私』を、『どうせ要らない私』なんかを、まっすぐ愛し続けくれた。

そう思うと、うめが哀れに思えた。

こんな私を愛してくれる存在がいることに、今更たじろいだ。

重いと感じた。

愛は重いのだと知った。

 

どんな私も愛してくれる、うめの愛は重かった。

重くて逃げ出したくなるのと同じくらい、絶対に守りたいと思えた。

その時、私にはようやく初めて、大事なものが魂に刻まれた。

要らない私の、絶対に守りたい大事なもの。

それが、うめであり、よねであり、きくであり、うんこだったのだ。

何もかも失ったように見えた私の心には、初めて愛が芽生えた。

 

愛は、要らない私を鼻で笑う。

愛は、空にかかる虹をまるで私の励みへと転換させ、

道端にひっそり咲く花に私の足を休ませ、

そよぐ風で私の頭を撫ぜる手のように慰める。

大事なものに気付いただけで、私の世界は変わった。

 

「母さん、心配せんでいいぞ。

車売るって言っても、どうせ私のやることだ。

のらりくらりとしか動かんぞ。

もしかすると、母さんの車を売る頃には、もう母さん死んでるかもしれん。」

そう笑うと、怖い顔の母さんが、ようやく笑った。

どうせ要らない私は、こういう時に大いに使えるのだ。

そして、

私は、母さんの大事なものも守りたいと、思えたのだ。

心に愛を残して欲しいから、

私は母さんの大事な緑色の車に母さんを乗せて、

心に愛を~っと叫びながら、虹に向かって走って行きたい。

 

うめ「そんなに叫ぶと、通報されるぞえ!」

だな。