かずこがいないと、
つまんないんだよな~・・・
おはようございます。
私は毎朝、出勤前に実家へ立ち寄り、母さんのサンドウィッチを食べるのが日課だった。
今は少し事情が変わってきた。
母さんの作るサンドウィッチは、もうさすがに食べられない。
味の問題以前に、私の体に健康上の不安を感じる。
胃がやられる・・・。
きゅうりが腐っていたり、パンにカビが生えていたり、
卵を焼く時に使う油の量が多すぎていたりして、胃がもたなくなった。
母さんの認識力や判断力が、著しく低下してきたからだろう。
それでも、母さんが作ってくれた日は、
「昼の弁当に持って行くね」
と伝えて、ラップに包んでカバンに入れる。
でも実は、私はそれを後で捨てている。
捨てるくせに、包んだサンドウィッチが崩れないよう、慎重にそっとゴミ箱の中へ置く。
そんなことをしても、罰当たりであることは変わらないが、
なぜか、ポイっと無造作に投げ捨てることは出来ない。
そういうところだけは、律儀だ。
けれど、最近の母さんは、
サンドウィッチを作るという行為さえ、忘れていることが増えた。
そんな時は、代わりに私が作る。
私は、大して料理の腕がいい訳じゃない。
見た目だって、決して良くはない出来栄えだ。
それでも、出来たてを母さんの前に置くと、
「ふわ~、こりゃ美味そうや。」
と、嬉しそうな顔をしてサンドウィッチに手を伸ばすから、
私は慌てて、こう言う。
「かずこさん、入れ歯入れ歯!」
母さんは総入れ歯を装着しなけえれば、食べられない。
このツッコミは、私と母さんの毎度のお決まりだ。
毎度やっているから、互いの間の取り方も完璧で、なんとも心地の良いオチなんだ。
ところが、昨朝は母さんはベッドに寝ていた。
お姫様みたいなフリルの付いた布団に小さく沈んでいる。
私は、近くへ寄って呼吸を確認してから、父さんのところへ行った。
「母さん、大丈夫なの?」
父は、テレビを観たまま、
「さっきまでベランダに居ったけど、すーっと歩いてって、また寝ちまった。」
と言った。そして、やっぱりテレビから視線を逸らさないまま、
「あいつも、もう長くないかもしれんな~。」
とぼそっと言った。
私は、その時なぜか焦って早口で話した。
「いやでも、最近歩く時、足取り丈夫になったしね。
買い物カートに捕まると、あの人、すすすすーって早いんだよ。
まるでカートが充電器みたいなんだから~。」
そう言って、私も父さんも笑い、その後は、二人してテレビを観ていた。
私と父さんは、時々、流れてくるニュースに意見を言い合いながら観ていたけれど、
それでも、なんだか手持ち無沙汰になり、
私は洗浄液に浸かっていた母さんの総入れ歯を洗い流して、
食卓にお盆を置いて、サンドウィッチの代わりに入れ歯を置き、寝室へ向かった。
フリルに埋もれる母さんに、
「入れ歯、忘れんようにな。」
と囁いて、実家を出た。
かずこさんがいない朝は、つまらないものだなぁ。
雨が降る朝、私はしみじみ、そう思った。
我が家のあやさんもつまらなそうね?
あや「ちょっと、たれ蔵!そこ、あたしの場所よぉ」
あや「ほれ~!やってやるわよ~」
たれ蔵「・・・・・」
あや「なんか、つまんな~い」
たれ蔵は、無視してやり過ごすことを覚えたようだね。さすがや!!