大型連休が明けたと同時に、
やれやれ、終わった。
おはようございます。
連休最終日の夜、
弊社のトラックは、すでに動き出していた。
そのおかげで、車庫内に置かれた皿に、大きな煮干しが数匹入れられていた。
「これは、夜勤の守衛さんだな。」
ママちゃんが唯一信用しているドライバーは、
ちゃんと猫用のドライフードをあげている。
その合間に、煮干しやベーコン、何か分からん食べ物を皿に盛るのは、
夜にだけ勤務する守衛のおじいさんの仕業なのだ。
私は一応、その横にドライフードを盛った。
「さぁ、これで通常営業の始まりだ。」
その日以来、夜の餌やりを止めた。
10連休中、ママちゃんに会えたのは結局5日だけだった。
チャー坊とは、私より長い付き合いのママちゃんと、
チャー坊の思い出話でもしようかと思っていたが、
実際は、そんな悠長なことは出来なかった。
人間を極度に恐れるママちゃんのために出来ることは、
少しでも気配を消し、即座に餌を盛って立ち去ってやることくらいだった。
彼女は、思い出の中に生きている訳じゃない。
今を懸命に生きている。
「あんたなんかと関わってる場合じゃないの。」
遠巻きに私を睨む瞳は、私を突っぱねていた。
それでも、私が立ち去るまで待っている姿が健気に見えた。
可愛げのないところが、やけに愛らしく思えた。
「頑張れ、ママちゃん」
とは言えなかった。
「なるべく、頑張らせたくないなぁ」
と、夜の道を運転しながら、祈るように考えていた。
頑張らなくても食べられれば、それに越したことは無い。
去年の秋、ママちゃんが産んだ子猫は、
しばらく弊社の車庫内の奥の物陰に隠れていた。
ママちゃんが連れて来たのだ。
たぶん、唯一信用できると決めたドライバーに、
頼りたかったのだと思う。
「この子らにも、ご飯をあげて欲しい」
と言ったに違いない。
この頃、我が家では、たれ蔵を見送った直後だった。
だけど、だから、今なら可能だと考えた。
「どうにか、子猫らを保護したいんだけど。」
と、ドライバーにも伝えた。
けれど怖がる子猫は、餌を置いてやっても食べに来ることさえ、
なかなか出来ずにいた。
ママちゃんが側にいないと、物陰から出ることもしなかった。
そのせいで、ママちゃんの居ない間に、
腹を空かせて闇雲に彷徨い、通りの多い道に出てしまったのだろう。
子猫は、2匹とも道に散った。
助けたいと思ったって、助けられない命がある。
私は、チャー坊のことも「助けた」とは思っていない。
そう思えない。
チャー坊は、何度、人間を信じたんだろうと想像する。
野良猫が何年も生き続けるには、どうしたって人間からの餌付けが必要だ。
ママちゃんが、あのドライバーを信じるように、
チャー坊は何度か、人を信じて待った。
そして、どれだけ待っても、その人が来なくなったから、
渡り歩いて、彷徨って、私と出会ったのだ。
時に酷い事故に遭い、時に病に罹り、ボロボロになりながら、
次に信じる人との出会いを求めて彷徨っていたのだろう。
私は、そのことに今だ憤っている。
誰にもぶつけられない憤りだ。
ただ幸いは、私の元で死んでくれたことだ。
ママちゃん、信じ続けて欲しい。
そのためなら、私はいつだって、
あの野郎の影武者になろうと思う。