うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

かずこの家出

2024年05月03日 | カズコさんの事

なんだかんだ、

この連休もかずこさんは絶好調だ。

 

おはようございます。

大いに怒り、大いに笑っている。

デイサービスへ行けば、チップを配りまくっているものだから、

帰宅する頃には、いつも財布がすっからかんだ。

当然、スタッフさんは後でこそっと返して下さる訳だが、

なら財布を持たせなければ、財布に札を入れておかなければと思うが、

それは難しい。

かずこさんは、潤沢な資金を財布に入れて持たせなければ、

ごねてごねて、デイサービスさえ行きたがらなくなるからだ。

そりゃ誰だって、一文無しで遊びになんて、行きたくないだろう。

そこで、私は考えた。

これだ。

実物は、本物より一回り小さいし、触り心地も少し違う。

だけど、これだけを財布に入れておけば、

これが案外、バレないのだ。

 

「これからは、チップはそのまま、貰ってやってください。

こっちとら、100万円の札束を用意してるから大丈夫です。

無くなったら、また800円で100万円買えるしぃ。」

そうスタッフに伝えると、

「それは、ちょっと楽しみです~。」

と、荷が下りた様子だった。

こうして、かずこさんは、さらに気前が良くなるのであった。

時々、私にも

「今日は、小遣いやる。」

と言って、そういう時だけは、なぜか100円玉をくれる。

こっちは本物の100円だけれど、

なんだろう、この複雑な気持ちは?!

 

そんな時、私はふと思う。

かずこさんって、実は全部分かっちゃってるんじゃないか?と。

そしてすぐさま、その思いを撤回する。

それは私の願望でしかない。

かずこさんのアルツハイマーは、ますます進行している。

家出する時の出で立ちも、トンチンカンが絶賛亢進中だ。

家出の理由は、よくわからない。

とにかく、激怒している。

「わし、もう出てくでな。

お前らみたいなバカばっかりと居れん!」

そう言って、家出したが、

半袖に、冬用のパジャマのズボンを履き、真冬用のベストを羽織った。

いつものお財布ポシェットと、緑のファイル。

なぜか、緑のファイルだ。

「かーずこさん、それ何入ってるの?」

と後ろを歩きながら問いかけると、

「わしの全財産に決まっとるやろうが。

お前はダメだ。バカばっかりだ。付いて来るな!」

と激怒している。

全財産と言ったファイルの中身は、10年以上前のレシートや、

ブラシや体温計だ。

ちなみに、被ったお洒落ウィッグも前後逆さまだ。

さらに、ズボンの中はノーパンだ。

「ねえ、かずこさん?パンツ履いとる?」

怒り狂ったかずこへ、斜めから突っ込んでいく。

「履いとるやろが。これが見えんのか?お前はバカだバカ!」

怒り続行中だ。

「いや違う違う。ズボンの中、パンツ履いとる?」

「ん?」

ほら、足が止まった。

「かずこさん、とりあえずパンツ買いに行く?

しまむら行こうか?おっしゃれなパンツ買ってからぁ、

あっ、冷たいアイスコーヒーも飲みたいよねぇ。」

元来、女という生き物は、ショッピングとカフェが好きだ。

「まあ、それくらいなら・・・(ごにょごにょ)」

小さな声で、ごにょごにょと「行ってもええけど」と言った。

こうなれば、かずこの脳内は怒りから喜びへと転がっていく。

怒りのテンションは喜びのテンションとほぼ同じなのだ。

例えば、

猫を撫ぜると、初めはゴロゴロと喉を鳴らして喜んでいるのに、

一転咬みついてくる時がある。

喜びのテンションのまま、脳内が混乱して怒りや攻撃のテンションに

すり替わった瞬間だ。

かずこは猫と似ている。

というか、哺乳類の脳内は、そんなに違わない気がする。

人は、雑念の中からその場に相応しい一つを選択して表現しているに過ぎない。

脳内は目まぐるしく様々な考え感情が次から次へと湧き上がっているものだ。

「大好きーっ」と言葉にした瞬間、

「いや待てよ?そうでもないかも?」っと疑念が湧いても、

「そうでもないかも」の部分は、空気を読んで言わないだけだ。

認知症の人は、湧いた雑念を素直に全て表してしまうのではないだろうか。

どれを選ぶかの司令塔がぶっ壊れた状態と考えれば、

かずこの妄想も謎の怒りも、未知との遭遇という訳じゃない。

 

「私だって、頭ん中、めちゃくちゃよ。

この川にあんたを突き落としたろかっとも思ってるんだからさ。」

「やりたきゃ、やればええぞ。わし死んでやってもええ!」

かずこは、歩くのをすっかり諦めた様子で、川沿いのブロックに

腰を下ろした。

太陽が傾きかけ、川はその淡い光を写している。

「ああ、なんか、この景色いいね。

ねえ、かずこさん?ねえ、見て。」

私は、じばらく川を眺め、心を落ち着かせた。

そして、さぁそろそろ、ドラマチックな景色で幕引きしようと思いきや、

かずこは川など見向きもせず、

散歩中の男前に、とびっきりの笑顔で挨拶していた。

「ちょっと、かずこさん?」

「お前、小汚い川見て、何が面白いんや?」

そう言って、振り返ったかずこの笑顔は、とびっきりのお転婆娘のようだった。

 

やっぱりこの人、全て分かってるんじゃないか?