私は、毎年、
初詣へは行かない。
おはようございます。
元日は、家で猫達と穏やかな新年を迎えたい。
という崇高な意味で、そうなっているわけでは無く、
連休の、およそ中日に当たる元日は、
だらけ過ぎて、とっくにクズみたいな人間になっているからだ。
近所の神社へさえも歩けやしない、体と精神に仕上がっている。
それなのにか、それだからなのか、
今年は凄まじい元日を過ごした。
朝起きて、とりあえず洗濯をしようと洗濯機を稼働させたが、
排水菅が詰まっていたらしく、気付いた頃には
床がずぶ濡れだった。
「あぁぁぁぁ~」っと叫んだと同時に、玄関チャイムが鳴った。
下の階のとっても優しいご夫婦だ。
「うちの洗面場に、上から水が漏れてるけど、大丈夫?」
ご夫婦は怒ってなどいない。
むしろ、万が一気付いていないなら教えないとっという、配慮なのだ。
以前から、そういうご夫婦なのだ。
そんな優しい人達に、
一年で最もおめでたい日の午前8時に、水をぶっ掛けてしまった。
「すみません、ごめんなさい。申し訳ありません。」
そんなわけで、
元日、私が初めて口にした言葉は、ありとあらゆる謝罪の言葉だった。
我が家のおじさんは、この時期は繁忙期だが、
唯一、元日は休みだ。貴重な休みだ。
しかし、この騒ぎで飛び起きる羽目になって、
そのまま顔も洗わず、反射的に床を拭き、排管掃除に取り掛かった。
おじさんは、怒ってなどいない。
むっつりともせず、むしろ慈悲深い微笑みと共に、
「おかっぱちゃん、大丈夫?」
と気遣う男だ。
私は、せめて役に立とうと、凄まじい発明をしてしまった。

テレテレッテレ~♪
『高圧洗浄ホース ~オグリチャップ号~』
これは、ペットボトルに水を入れ、
ガムテープで繋がれたホースを排水口へ突っ込んだ状態で、
力の限り、ペットボトルを押し、その圧から吹き出す水流で、
排水管の詰まりを一気に突破させるという、画期的な発明品である。
やっと出来上がったオグリキャップ号を手に振り返ってみれば、
床はきれいに拭き取られ、洗濯機は移動されており、
しかも詰まりも開通していた。

おじさん「これで、大丈夫だと思うんだけど。」
おかっぱ「ん?そなの?」
おじさん「それは何ですか?その、えっと、それ何ですか?」
おかっぱ「ん?ん?別に。」
私は、一滴の水も噴射させることなく、オグリ号をそっと置いた。

おじさん「よし、いいかな?これで大丈夫かな?」
おかっぱ「ん?ん?なんだこれは?」
おじさん「どうしましたか?」

おかっぱ「この状況の中、おたまは、どうして、こんなに寛げるんだ?」

おたま「ん?ん?なにがだ?」
私は、呑気なおたまと朝日に照らされるオグリ号を見て思った。
おじさんが休みで良かった。
たまたま、この日で良かった。
「ねえ、おじさん。あたし、思ったの。
こんな日にどうして?って思ったけど、違う!
詰まるのは昨日でも明日でもおかしくなかった。
でも、昨日や明日だったら、貴方は仕事で居ない。
そう思うと、今日で良かった~って、あたし、ツイいてる~って、
こいつぁ、今年は幸先いいぞ~ってことよね。うふふふふふ。」
私は、どうしようもなく感激して、自然と笑いが込み上げた。
すると、おじさんも微笑んだ。
死んだ魚みたいな目をして、微笑みながら
「そ、そうですね。良かったんです・・・よね。」
と闇雲の中、何かを探るように言った。

そして、私とおじさんは、
元日から営業しているスーパーへ、小走りで向かいながら
「あけまして、おめでとうございます」と言い合った。