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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

2010年12月19日「M」

2010-12-25 02:21:10 | BALLET
12月19日、2日間だけ、元ベジャールバレエ団ダンサー、現・俳優としてご活躍の小林十市さんが復帰し、そして引退する、という公演の楽日を観ました。



腰を痛めて、ダンサーとしてのキャリアを断念、7年前から俳優として舞台中心に活躍されている小林さんですが、日常的にブログで披露されているジャンプ(笑)、東京バレエ団へのベジャール作品の指導など、完全にバレエとの縁を断ち切ったわけでもなく、レッスンも受けたりご自身でクラスを持たれたりもして、つかず離れずの縁を保っていらしたとはいえ、驚きのダンサー復帰。東バとの共演。
今回の「M」では、彼が初演メンバーである、三島由紀夫の4番目の分身であり、語り部的な存在でもある、シ「死」を演じるということで、興味を持って観賞しました。

「M」は前回の公演を観ており、その時はバイオレット井脇さん、をはじめとするファーストキャストで。
今回は本当は両日のキャストを見比べたかったのですが、仕事の都合で一日しか観られず・・・。
で、公演後、東京バレエ団友の会、「クラブ・アッサンブレ」のクリスマス・パーティがある方の日に合わせて、19日を選択。

今回の観賞で、この作品自体、再演に値する名作だなぁと改めて感じました。

幕開け、若草グリーンのアメリカンスリーブのレオタードにハーレムパンツ、根本を束ねた作り前髪がエキゾチックな女性群舞がを3列に胡坐を組んで並び、潮騒をバックに穏やかな海を表現します。
そこに、小学生になった三島少年が制服制帽ランドセルの姿で、和装に白塗りの祖母(=シ)に付き添われて登場。

そこから、高岸、木村、後藤の東バのベテラン男性プリンシパルが1~3の分身を、モノトーンのパンツと素肌にのせたベスト、鉢巻きの衣装で登場して表現する傍ら、作品世界として、「禁色」「鹿鳴館」「金閣寺」などのシーンが挿入され、三島の美学を象徴する存在としての聖セバスチャンが登場します。

小林さんと文字通り、がっぷり4つに組む3人のプリンシパルが、初演メンバーである、ということが奇跡のよう。
高岸さんの若々しさ、却って端正一方だった若い頃よりも色気も勢いもある木村さん、そして、この公演で思いがけない(失礼!)好調ぶりを見せてくれた後藤さん、それぞれが良かったと思います。

「禁色」での色鮮やかなオレンジ、ローズ、ヴァイオレットの3人のミューズは、多分ローズは西村さん、ヴァイオレットは井脇さんで観たかったなぁと思ってしまいましたが、オレンジを若手の吉川留衣さんが思いがけず大人っぽく演じていたのが印象的。
いかにもバレリーナ、という風情のほっそりとした吉川さんはコールドのころから目立っていましたが、ロマンチックな容姿とサラリとした芸風で、あまり色の強い役は振られていなかったようなのでこういう役作りはちょっと新鮮。

「鹿鳴館」のシーンは、ブラウン・ゴールド系の重厚な衣装の貴婦人たちは実際には踊らず、白のシンプルなユニタードのソリストの女性3人が、男性と組んで踊ります。
このソリストが、乾さん、高村さん、佐伯さんという魅力的な面々で
3人とも好きなのですが、とりわけクール・ビューティ乾さんが思いがけず艶っぽく女性らしい魅力を増されていて眼を惹きました。

メインロールの3人、聖セバスチャンの長瀬直義さんは前回の公演の大嶋正樹さんとはまた異なる魅力が。
小柄ながら鍛え上げた身体とくっきりとした顔立ちの大嶋さんはハマり役でしたが、しなやかな長身の長瀬さんは現代的な容姿、サラリとした中にしっかりとした表現力と清潔感のある演技、そして中性的な色気を感じさせる個性で独得の聖セバスチャン像を作り上げていて良かったです。

「海上の月」、三島を時に包み込む、母性を秘めた役どころですが、渡辺理恵さんの均整のとれた優しい姿態はぴったり。
ですが、前日の小出領子さんが、繊細優美に踊られて断然よかった、と両日観賞した友人には言われ、やはり18日も観たかった・・と思ったことでした。
両日見比べたかった・・・というのは、「女」の役でも思ったことですね。
上野水香さんで観たのですが、堂々とした、日本人離れした長い手脚とパッツン前髪に濃い目のアイメイクがエキゾチックな彼女から、長らく少女少女した雰囲気から脱することがなかったのが、ここにきて妖艶と言って良いニュアンスを加えたな、と、新しい魅力を感じました。
透明感ある抒情性が持ち味の吉岡さんとの役変わりで、是非観たかったです・・・。

ラスト、トリスタンとイゾルデの「愛の死」が甘美に流れる中、、桜の花びらが大量に振りかかる中で、少年三島は切腹。
引き続き、ノスタルジックなシャンソン「ジャタンドレ」をバックに、場面は冒頭の女性群舞に。
潮騒が聞こえ、緩やかな緑の波が・・・・

東京バレエ団という日本人独得の統率のとれた踊りが、個人の魅力が打ち上げ花火のように炸裂するベジャールバレエ団のベジャール作品とはまた異なる味を醸し出し、ベジャール作品の、作品自体が持つ、見せ方の上手さとエモ―ショナルな魅力を再確認させてもらえる舞台でした。

そして十市さんの、これだけで終了するには惜しい、コンディションの良さも・・・
ここまで持ってくるに当たってのご本人の努力は並々ならぬものがあったでしょうが、豊富な舞台経験から見えてきたことと、ダンサークォリティ、ベジャールさん直伝のエッセンスを兼ね備えた魅力的なパフォーマー、アーティストとして、これからもジャンルの壁を越えた活動をしていただければ・・・と感じました。