先入観の塊を心の中に抱えながら、そのうちを訪れたのはもう二年前になる。そこは、どうしようもないと、周りから札をつけられていた(私は会ったこともない)子供さんを持った家庭だった。私が訪れたのは、自分の子供を迎えに行くためだった。問題視されている子供さんの兄弟がうちの子供と同級生だった。同級生は4人しかいなかった。
子供が泊まりたいといった時はどうしようかと思った。そんなことろに行かせて影響はないだろうか・・・。彼の言葉に反論する理由も見つからなかったから、よろしくお願いしますと、電話で連絡し、泊まらせてもらうことにした。土曜だけの補習校には、様々な地域から子供達が集まってくる。公立学校ほど日本人のための学校があるわけではないから、違う州から2時間くらいかけて家族でやって来る人たちも決して少なくない。その家庭もそんな状況のなかに有ったので、土曜に学校終了後、同行させてもらい、宿泊、翌日に私が車で迎えに行った。
正直言って2時間弱のドライブ、道にも迷ったし、疲れて、すぐに引き返す気力は無かった。上がっていきませんか?と、誘われて、ありがとう、そうさせていただきますと素直になれた。
お昼は? 緊張感が取れない私は、食べましたと、うそをついた。みると、そこにはおいしそうなサンドイッチが用意されていた。もしかして、待っててくれたのかしら・・・その方は、じゃあ甘いものでもと、お茶とお菓子を出してくれた。折角昼食を作って下さったのに、私の返事から、無理強いはしない。
正面から顔を見たこともなかったその方と、向かい合って座り、お互いの紹介ではないが、挨拶から話は始まった。息子がお世話になりました・・・・いえいえ、よくきてくれましたね。繋がっていく会話。なんと、優しい感じの人だろう。家の中は、かわいい感じのその方のまんまといった、あたたかさのあるほっとくつろげる雰囲気を持っていた。私は、自分の先入観が、間違いであることにすぐに気づいた。
楽しそうにしている、息子達も出てきた。何時間かおしゃべりをし、次回もお茶のみをしましょうと、約束をして、帰途についた。
あれから、2年以上がたち、子供達の卒業の日、私たちは家族の打ち上げ会を我が家で開いた。私は二年前の事を正直に話した。そして、その日、子供達はどうであれ、親は同年代であり、同じように夢をもち、また悩みを抱えていることに気づいたのだと話した。彼女はポツリと、お茶を飲んでいってくれたのはあなただけだったと、言った。何人かの人が子供さんを迎えに来たけど、家にあがっていってくれたのは、あなただけだったと。私は、はっとした。彼女はきっと、毎回、お昼を用意して待っていたのかもしれない。涙がでそうになって、何回もその言葉を繰り返す、ちょっと酔った彼女を、私はそっと抱きしめた。
馬には乗ってみろ、人には添うてみろ・・・と、言いマスね。と、彼女のパートナーが私に言った。よかった、乗ってみてね。その日は、大いに笑い、話し、歌い、お互いの家族を称えあった。