リサイタルのあとのレセプションはないことに決めたはずだった。
教会のチャペルでは、食べたりはできない。 ところが、そこは高校生の幼さか・・・人がやったことを同じように真似たいらしい。そこの教会でリサイタルをしたほかの友人が、おなじ教会の高校の教室をお借りして、お茶やケーキを出したから同じようにして欲しいという。いうだけではない、勝手に教室を借りる算段をしてきていた。 引越し前のごたごたしている時だけに・・・私は頭の中がぐるり半回転するようだった。
しかし、確かにこの国に居て、文化をすべて理解したとはいい難い私たちにとって、常識とは何か?・・と、戸惑うことが結構ある。ましてや、卒業に伴う行事に関する常識などは、めったにないことだけに、何をどうしていいのかわからないでいる。そういう時にとる安全策は、人がやったことを同じように真似ることだ。ベースを抑えておかないと、独自性は非常識と映ってしまう。
そこは冷静な私が折れることにした。一生に一度のことだし、方針を変えることを意固地になって否定することもないと思った。 ケーキと飲み物、少しのスナックを出すことにする。しかし、引越し荷物を送った後だけに、皿もなければ、足りない物だらけだった。紙コップや紙皿を用意した。
このケーキ甘くなくて美味しいね! という、日本の文化はこちらでは通用しない。アメリカ人の好むケーキを地元のケーキ屋さんに注文する。
赤青黄の三原色をふんだんに使った、長方形のケーキが卒業祝いや、イベントに好まれる。しかし、どうしても、私はフロスティングという、粉砂糖を溶かした、アイシングのような甘いデコレーションだけは我慢できなかった。
そこで、 チョコ生クリームを使用してデコレーションをし、中にはチョコとカスタードのムースを挟んで欲しいと要求した。あっさりOKがでる。???大丈夫か・・・とは思ったが、信じるより仕方ない。
同日引き取りにいくと、想像通りの華やかな色合いのケーキが出来上がっていた。青や緑をどうしてケーキに使うのか理解できないが、生クリームベースのチョコクリームが使ってあるようだった。ちなみに私の要求でケーキの金額は倍に跳ね上がった。またここ最近のUSでの物価の高騰はすさまじく、予算を考えクッキーだけは自分で作った。
生クリームを使っているから、冷蔵庫に入れてくださいと、店員さんに言われる。 準備のために高校を訪れると、教室が用意されていた。そこは教会のチャペルに一番近い場所で、渡り廊下を通って教会に行くような雰囲気だった。ケーキは職員の方の控え室の冷蔵庫の中に入れていただいた。
学校が閉まる時間に生徒が、終了後鍵をかけて帰って下さいと、鍵を届けてくれた。一瞬なんともいえない不安にかられるがリハーサルの方が大事で・・・。
無事リサイタルの終了後、家族的な参加人数だったこともあって、皆さんが高校へ移動して下る。私は嬉しさで、早く教室に戻り、飲み物を手配し、あとのことを友人に頼んで、メインのケーキを取りに走った。
がーん。ケーキの入った冷蔵庫の部屋は、廊下で遮断され、閉められていた。この日のために特別、倍の料金を払ってつくってもらったケーキ。ショックでパニックになる。鍵を届けてくれた学生がリサイタルも聞いていてくれたので、彼女にどうしようと・・・相談する。彼女は冷静に、私が先生に連絡するから、お客さんにお茶を出してきてという。どっちが高校生だか母親なのだかわからない。
親切な先生が駆けつけてくださり、ケーキは皆さんに食べていただいた。その間時間にして20分くらい。私は、その間も、今度は教会に置いてきた荷物をとりにいったり、教会の人に挨拶したりしていた。学校のドアは中からは開くが外からは開かない。あれこれしているうちに、外に締め出されてしまったり・・・。 いろいろとあたふたしてしまった。どうしてこうなるの????と、ずっと考えていた。みなさんは自分で銘々に話をしたり、食べ物を食べてたりしていてくれた。高校生たちは最後まで後片付けを手伝ってくれた。
みなさんありがとう。私一人では何もできませんでした。
追記 飲み物は炭酸飲料とオレンジシース。大人向けにポットに紅茶を用意していた。翌日、洗いかごのなかに、ポットの中栓が入っていた。え?どうやって、紅茶をついでくれたのだろう。ポットの中の紅茶は空になっていた。