ヒトリシズカのつぶやき特論

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東京芸術大学教授の宮廻正明さんが進めているデジタル復元画などの話を伺いました

2016年07月14日 | 汗をかく実務者
 東京芸術大学大学院美術研究科教授の宮廻正明さんのグループが進めている絵画などのデジタル復元の話を伺いました。

 宮廻正明さんは、この研究プロジェクトでは研究リーダー(RL)をお務めになっています。



 その最近の研究成果は、アフガニスタンのタリバンたちに破壊された「バーミアン東大仏天上壁画」のデジタル復元です。破壊される前に撮影されたデジタル画像とその破片などに残っていた顔料・染料などの絵の具などの分析から、まず画像を忠実に再現したそうです。

 さらにその推定した顔料・染料などの絵の具を基に、高精細インクジェットプリンターなどで壁画を再現したものを作製されました。その出来映えは、多くの関係者を驚かせました。

 さらに、奈良県生駒郡斑鳩町の法隆寺の金堂壁画第6号壁も高精細複製し、本物と原則同じ“クローン文化財”を再現したとの話を伺いました。この金堂壁画は、1949年の火災で焼損しています。

 この2点のデジタル復元には、東京芸術大学大学院美術研究科が長年、培ってきた美術品修復技術の集積が効果を上げているそうです。

 今回、宮廻正明さんが解説された話から分かったことは、科学技術振興機構の別館1階に現在、飾ってある浮世絵、2点のことです。

 この1階ロビーには、ここ半年ほど、普通の大きさの浮世絵とそれを40倍に拡大した複製画がそれぞれ2組、飾られています。

 この浮世絵は、米国ボストン市にあるボストン美術館が所蔵する「スポルディング・コレクション」の複製画でした。たまたま、ボストン美術館とNHKが共同で「スポルディング・コレクション」のデジタル画像を撮影したデジタルデータがあり、これを基に各浮世絵の復元を図った作品でした(この過程については、いずれNHKがドキュメンタリー番組として放映するそうです)。



 この浮世絵は喜多川歌麿の作品です。左側にある額縁に入ったものが本来の大きさです。右側は約40倍に拡大したものです。細部が見えます。

 飾られてるもう一点の浮世絵です。



 この「スポルディング・コレクション」は、製糖業で巨万の富を築いた米国人スポルディング兄弟が、明治時代末期から大正時代にかけて日本などで収集した浮世絵約6500点のことです。

 この米国人スポルディング兄弟は、この浮世絵約6500点をボストン美術館に寄贈する際に、「このコレクションは一般公開しないこと」という注文をつけました。このために、このコレクションは見ることができない作品たちです。

 この結果、この浮世絵約6500点は、光や熱などでほとんど劣化することなく、保存されています。このため、この「スポルディング・コレクション」は“浮世絵の正倉院”と呼ばれているそうです。

 実際に、この「スポルディング・コレクション」では各浮世絵の色合いがよく保存されています。

 以下の浮世絵の左側が「スポルディング・コレクション」のもので、右側が日本で保存されているものです。こちらは色合いが消えています。



 東京芸術大学大学院美術研究科の教授の宮廻正明さんのグループは、文部科学省と科学技術振興機構が進めている「The Center of Innovation Program」の中で、「『感動』を創造する芸術と科学技術による共感覚イノベーション」を実施しています。

 今回解説された“クローン文化財”は、どれもこのプログラムの研究成果です。各研究成果のデジタル復元画は国際的に高く評価され、賞賛されています。

(追記)
 今回、デジタル復元され、その“クローン文化財”が作製された「スポルディング・コレクション」の浮世絵群は、東京芸術大学とボストン美術館がそれぞれが互いに保有し、いずれはその“クローン文化財”を一般公開する計画を進めています。
 これによって、初めて「スポルディング・コレクション」の浮世絵の“クローン文化財”を一般の方々が見ることができます。
 実際には、“クローン文化財”なので、その浮世絵には触ることができます。江戸時代の浮世絵は、現在のブロマイドであり、包み紙でした。版画なので、微妙に浮き上がった絵の具の触感が重要な要素だったそうです。
 “クローン文化財”なので、多くの方が触って痛んだら、また作製すればいいそうです。