新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

トランプ次期大統領が”tariff man”になれる訳

2024-11-20 07:09:55 | コラム
再度トランプ次期大統領とアメリカ合衆国の関税について:

私は11月15日に以下のように論じて「トランプ氏が再度アメリカ合衆国の大統領に就任した後では、思うままに関税をかけられるのか」との疑問を呈してあった。その辺りを改めて簡単に引用してみれば、

「アメリカの関税には2種類あり、反ダンピング関税(Antidumping duty)と相殺関税(Countervailing duty)に分かれている。反ダンピング関税は文字通りに「他国が安値で輸出してくる製品に関税をかけて、自国の産業を保護する目的」で賦課される。相殺関税は「その製品の輸出に際して政府が物品税を免除するとか輸出助成金を交付して援助するような不公正な取引に対して賦課する」関税である。

何れの場合にも、他国による不当な廉売で損害を被った産業界乃至は企業が、先ず商務省(Department of Commerce, DOC)に事情(窮状?)を訴えて関税の賦課の申請から始まる。DOCが綿密に調査した上で、課すべき判断すれば国際貿易委員会(International Trade Commission, ITC)に上げて、そこでの審議を経て決定される。

これは長時間を要する複雑な手続きであって、いきなり何の具体的な根拠もなく賦課できるような簡単な手続きではない。だが、トランプ前大統領は任期中に中国からの輸入に高率の関税をかけて、関税合戦を勃発させた。その様子は恰もが頻発された大統領令(Executive order)にも似ていて、恣意的に賦課されていたかのようで、関税の問題が守備範囲内になかった私などには理解不能な現象だった。

だが、今回再選を果たされたトランプ氏は、キャンペーン中から中国からの輸入品には60%、他国からは10~20%にすると言わば豪語しておられた。トランプ氏は前任期中に「関税とはアメリカ向けの輸出国が負担するもので、関税分がアメリカの国庫の収入になる」と誤認識しておられたし、この度のキャンペーン中でもその認識は変わっていない様子だった。

簡単に言えば「大統領にはかける権限がある」と主張していたのだった。そこで、守備範囲外だったとは言え、此処がここまで来れば放置しておく訳にも行かないと「大統領に権限有りや無きや」を調べてみようと思い立った。結果としては「アメリカの大統領には出来るのだ」と判明した。その根拠は下記に引用する上智大学法学部川瀬剛志教授の論文にある。

>引用開始
米国において国際通商に対する規制権限は、憲法上本来議会の権限に属する(合衆国憲法1条8項)。また、関税率の決定も議会の権限に属する(同10項)。よって、本来大統領は議会の承認なくして関税の賦課および税率の増減を行うことはできない。
しかし、この原則を例外なく完徹すると、さまざまな不測の事態で機動的に関税を政策手段として国益を実現することが妨げられる。よって、個別立法の授権によって、大統領・行政府が一定の要件の下で関税率を議会の承認なしに決定・修正する権限を有する。例えば、ダンピング防止税や相殺関税のような特殊関税もその一例であろうし、行政府がGATT・WTOのラウンドやFTA締結を円滑に行えるよう、行政府が通商交渉において関税引き下げを貿易相手国と約束する権限を時限的に付与することがある。後者はいわゆるファストトラックや貿易促進権限(TPA)といわれるものである。
これ以外にも、大統領には関税の引き上げを行う個別的な権限が与えられているが、その根拠として、ワシントンの専門家たちは以下の5つの法令を挙げている(Maruyama et al. (2024); Packard and Lincicome (2024))。この中でよく知られているのは1974年通商法301条(19 U.S.C. §2411)である。USTRの調査によって米国の通商上の利益を損なう不合理・差別的な貿易慣行が認定されれば、相手国に対して関税引き上げを含む対抗措置を発動できる。この条項は第1次トランプ政権の大規模な対中関税引き上げの根拠となった。
<引用終わる

「なるほど。法的にはこのように定められていたのか」と、トランプ前大統領が故無くして中国からの輸入品に関税をかけていなかったと理解し認識できた。だが、私はトランプ氏の手法は「アメリカ合衆国の貿易を保護しようとの策を採ったのではなく、他国との貿易等々の交渉の際に事を有利に運ぼうとするdealの材料に使ったと見る方が正解に近い」と解釈している。

特に新トランプ政権の早くも物議を醸している閣僚名簿を見れば、対中国強硬派と言われるマルコ・ルビオ氏(Marco A. Rubio)が国務長官とあっては60%からそれ以上と言い出したtariffは強力なdealの材料になるのだろう。私に言わせれば「トランプ氏の場合には関税(import dutyまたはtariff)の目的外使用」なのである。(余計な話だが、アメリカ人はMarcoを「マーコ」と言うだろう)

今後もアメリカ合衆国大統領としてトランプ氏は「MAGA」と「アメリカファースト」の為にはあらゆる手法を恣意的に活用して進んでいくだろう事は、容易に想像できる。既に専門家の方々は不安な材料を取り上げておられたではないか。

石破内閣も安倍政権時代に「リトル・プライムミニスター」とトランプ大統領に賞賛された高尾氏を通訳に配置しただけで安心している訳にはいくまいと危惧する。現に石破首相とは会わなくても、某国の大統領には会っていたではないか。


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