杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

クチャへの想い

2008-08-15 09:58:13 | 仏教

 私が10代の頃から憧憬し続け、30年経った今でも未踏の町があります。シルクロードの天山南路にある交易の町クチャ。この町に行くのは、何か、人生の大きな転機のときに、転機となる人と一緒に、という思いがあり、そういう転機が未だに訪れていないわけですが、このところの新疆ウイグル自治区で起こるニュース報道で、「うかうかしてたら一生行けなくなるかも」という危機感を持ち始めています。

 

 

 クチャとの出会いは、NHKの「シルクロード」が最初でした。私はミッション系の女子高に通っていましたが、井上靖や司馬遼太郎の歴史小説が大好きで、図書館では日本史・東洋史や仏像の本を読み、校内に掲示する礼拝奨励ポスターの制作をまかされたとき、大好きな東大寺法華堂月光菩薩の絵を描いて宗教(もちろんキリスト教)の先生に怒られた、そんな“異端児”でした。

 

 「シルクロード」で紹介された天山南路の光景をテーマに書いた散文詩が、校内文集に載ったとき、美術の先生が「とんでもない詩」とキツイ言葉をかけてきたので、また怒られるのかと思ったら、「あなたには絵よりも文章の才覚があるから文学部に進みなさい」と背中をポンと押してくれたのです。

 先生が薦めた有名私大の文学部は、当時、漫画の投稿に夢中になってほとんど勉強をしていなかった私の頭ではとても偏差値が合わず、面接と論文だけでOKの京都の無名大学に進みました。大学のレベルやブランドは脳裏になく、歴史の勉強と文章修業と仏像鑑賞ができる環境が得られる、というのが何よりの魅力でした。

 

 

 ゼミでは運よく京都大学名誉教授で雲岡石窟研究の大家である長廣敏雄先生に直接ご指導いただき、先生に「まだ研究途上の石窟だから面白いよ」と卒論テーマに薦めていただいたのがクチャにあるキジル石窟でした。

 バイトで生計を立てていた貧乏学生では、現地まで調査や取材に行く余裕はなく、先生に頼んで取り寄せた英語やドイツ語の学会論文を、先生のご自宅や京大の図書館に通いつめて必死に翻訳した大学4年の夏休み。今振り返って、あれが、その後ライターとして身を立てられるようになった原点だなぁと思えてきます。

  

 

 

 昨日(14日)は、『吟醸王国しずおか』パイロット版上映について、静岡新聞政治部の大須賀伸江さんから取材を受けました。岡部町出身で初亀醸造の娘さんと同級生で、昔から馴染みがあったという大須賀さんは、私の話を1時間たっぷり、興味しんしんで聞いてくれました。

 

 また今回の上映会には、静岡の酒を卒論に書きたいという静岡大学の学生さんが参加を申し込んでくれました。

 映像づくり初体験の身としては、NHKのドキュメンタリークラスのレベルを期待されては困るのですが(誰も期待してないか…笑)、若い頃、目にして頭にインプットされた映像のチカラが、その人の人生を変えたという経験を、自ら体験した者として、未熟な作品でも見た人の記憶に残る映像であってほしいと願っています。

 とくに若い人には、そこに描かれた人や風景が、何十年か経ったら残っていないかもしれない、実際に訪れることができないかもしれない、そんな混沌とした時代に私たちは生きているんだよってことを伝えられたら・・・。少なくとも今回の被写体は、それだけのメッセージ性を持っていると信じて撮っています。

  

 

 

 ・・・とにかく映画が無事、完成したら、この完成を一番喜んでくれた人と、クチャに行きたいと思います。それまでに、かの地に平和が甦っていますように。