昨日(28日)は『吟醸王国しずおか』の撮影と、天晴れ門前塾の酒蔵見学ゼミを兼ねて、朝から「若竹」の大村屋酒造場(島田市)を訪ねました。
昨日の日程は、ゼミ生の都合を第一優先に決めたのですが、なんと運のいいことに、純米大吟醸の上槽(搾り)のタイミングにマッチし、まさに、鑑評会出品用の斗瓶取りをバッチリ拝むことができました。
最高級の純米大吟醸のもろみ経過や搾りのタイミングは、仕込み全体の中でも最も判断が難しく、当日朝の段階で決めるのです。20年酒蔵取材をしていても、実際にその現場に立ちあえたのは数えるほどしかありません。
副杜氏の日比野哲さんから「もしかしたら運よく搾りを見てもらえるかも」とは聞いていましたが、朝、蔵に着いたら仕込み蔵の扉の前でいきなり杜氏の菅原銀一さんに出くわし、中をのぞくと蔵人がバタバタと上槽準備をしています。「マジで!?」と小躍りしてしまいました。
「搾る直前のもろみを見ますか?」と日比野さんが学生たちを仕込み蔵2階奥の小仕込み用サーマルタンクに案内し、簡単な説明の後、上槽作業がスタート。1階に設置された小ぶりの槽(ふね)に、2階からホースでもろみが送られ、適量を酒袋に詰めて槽の中に重ね積みしていきます。
菅原杜氏が、学生たちを槽のすぐ側まで導いて、作業する日比野さんたちの様子や、最初に搾られて出てきた酒(あらばしり)は白濁していて味が粗っぽいので再度タンクに戻すことや、透明な状態になるには、もろみをすべて袋詰め・積み上げをし、しばらく時間を置く必要があることなどを、ていねいに解説してくれました。
若竹の純米大吟醸出品酒は、静岡県の酒米新品種「誉富士」の40%精米を静岡酵母HD-1で仕込みます。ほとんどの蔵元が、出品酒には山田錦を使う中、「米も酵母も静岡産」に徹したこの蔵の姿勢は光っています。
誉富士は、山田錦の枝分かれ品種で、もともとは「背が高く倒れやすく育てにくい山田錦の欠点をカバーし、山田錦に近い米質で育てやすい米」を目指して県農業技術研究所で開発されました。
ところが作ってみたら想像以上に軟質で、高精米が難しいことがわかり、誉富士を仕入れた蔵元では精米歩合60%前後の特別純米・純米吟醸クラスで使っています。それより高い40~50%精白の酒(大吟醸・純米大吟醸クラス・もしくは他クラスでも麹米のみ高精白にする場合)は、やっぱり山田錦が唯一最高の米であるというのが定石なんです。
大村屋酒造場が誉富士の40%精米に成功したのは、なんといっても酒米専用の自家精米機を持っていること。機械の性能にもよりますが、40%精米はおよそ70時間かかるので、酒蔵常勤の精米技術者がはりついて徹底管理しなければ、いい精米はできません。
酒米専用の精米機と精米技術者を自前で抱える蔵元は、静岡の場合、数えるほどしかありません。精米機のない蔵が誉富士を使おうと思ったらJA静岡経済連の精米所に依頼するしかない。JAの精米技術に問題があるわけではありませんが、特殊な酒米を半分以下まで磨くには、やはり相応の専門性が必要のようです。
「うちは環境に恵まれています」と素直に喜ぶ日比野さん。誉富士40%で仕込んだ出品酒は、昨年、静岡県清酒鑑評会でも上位入賞し、名古屋国税局鑑評会でも入賞。私は昨年4月名古屋の事前お披露目会で「県内出品酒の中で一番光ってた」と現場で日比野さんを絶賛したのですが、最初は誉富士の酒とは思わなかったのでびっくり。山田錦の酒と競い合えるだけの実力をみごと証明したのでした。これは、日比野さんたちが、自家精米機を持つ県内蔵の“使命”との思いで造りに臨んだ成果だともいえるでしょう。
昨日は学生たちに、精米所でも米の話を熱心にしていた日比野さん。金谷の中屋酒店さんが自分で育てた米を店のPB酒にしたいと依頼してきた分を、少量、洗米するからと、オール手作業での洗米作業を見せてくれました。学生に、計量とさらし作業を手伝わせるなど、大事な出品酒上槽の作業の傍らで、最大限の配慮をしてくれました。
その様子は、成岡さんがカメラでばっちり撮ってくれましたので、大村屋酒造場の魅力を伝えるシーンにぜひ盛り込みたいと思っています。
菅原さん、日比野さん、蔵人のみなさん、本当にありがとうございました!