昨日(11日)は午後、「喜久醉」の青島酒造で、静岡県清酒鑑評会に出品する酒をきき酒する蔵元杜氏青島孝さんの様子を撮影しました。出品用の酒は、11日朝には提出したので、 撮影したのは、厳密にいえば出品酒選びではなく、選んだ後に再度確認をしていたシーンです。さすがに出品酒選びのナマ現場にカメラを向けるのは遠慮しました。ちょっとした温度差や匂いなども影響する重要な作業だということは、再確認シーンでもピリピリ伝わってきましたから…。
青島酒造は、大吟醸・純米大吟醸ともタンク2本ずつ仕込みます。各タンクとも2回に分けて搾るので、大吟醸はAタンクの前半・後半、Bタンクの前半・後半と計4種の中から選びます。純米大吟醸も同様です。
まず大吟醸の4種をA前→A後→B前→B後の順にひととおりきき酒し、B後→B前と逆戻りします。一往復してコレという酒が同じでなればよし、迷う場合はもう一巡します。青島さんは結局3巡して、B前の酒を選びました。実際はすでに選び終わっているのに、あまりの真剣な様子に息を飲むほどでした。
大吟醸が選び終わった後、水で口をゆすぐのかと思ったら、鼻息を深く吐いただけで、そのまま純米大吟醸のきき酒に移ります。後で水をとらない理由を訊いたところ、「水の味が舌に残るのが嫌だから」とのこと。ふだんフツウに飲んでいて、仕込みにも使っている水なのに、きき酒の妨げになるなんてビックリ!
「仕込みに入り、集中する日々が続くと、日に日に神経が鋭くなって、ささいな匂いや音がものすごいボリュームに感じてしまう。よく言えば五感が研ぎ澄まされるというのかな」と青島さん。なにも出品酒選びをするからピリピリしているわけではなく、吟醸造りが佳境に入ると、いつもそんな状態になるそうです。
ちなみに、青島さんの片腕の一人、蔵人の原田雅之さんは、昨年6月に開かれた日本醸造協会実践きき酒セミナーで、<全部門満点正解>を成し遂げました。全問正解者は醸造協会セミナーが始まって以来3人目、約30年ぶりの快挙だそうです。
このセミナーでのきき酒能力テストでは、アルコール度数の順位、酸味の識別など、素人のきき酒大会とは比較にならないトップレベルの審査。原田さんは「青島専務や(もう一人の蔵人)片山さんの話についていけるよう、喜久醉を毎日きき酒して鍛えた」と謙虚に語ります。本来ならば喜久醉以外の酒もいろいろきき酒してみたいところでしょうが、青島さんは「うちの酒だけ見ていればいい」と厳命?していたそうで、原田さんのこの快挙に「自分の方針が間違っていなかった」と青島さん自身ホッとしたそうです。…いずれにしても、すごい話です。
青島さんは日本酒業界最大の品質コンテストである全国新酒鑑評会にも、東海4県対象の名古屋国税局清酒鑑評会にも出品していません。昨年は静岡県清酒鑑評会にすら出品を躊躇していたぐらいで、鑑評会は決して<目標>ではなく、品質の方向性を確認する<手段>の一つにすぎないという持論を持っています。
吟醸造りがこれだけ普及発達し、多様化する時代、出品する側も審査する側も、多様な基準があって当然で、何が何でも鑑評会に出品して賞を取ることだけが酒造技術の向上や研さんではないと考える青島さんのような蔵元も増えつつあります。
さまざまな思いが交錯する鑑評会ですが、昨年、ギリギリまで出品を躊躇しつつも、前夜になって腹をきめ、出品した酒が、静岡県知事賞(首位賞)、しかも吟醸の部も純米の部も満点のパーフェクト1位に選ばれた青島さん。さぁ、今年はどうするんだ?と興味がわき、出品酒選びのシーンから撮らせてもらうことにしたわけです。
「もしV2達成したらどうする!?」なんて冷やかすと、彼は「去年は全般的に融けにくい難しい米だったから、みんな苦労したと思う。自分は夏場も田んぼに入って米の短所に早く気づいていたから対応できただけ。今年は米が若干融けやすいみたいだから、去年ほど差は出ないと思うよ」とクールに応えます。
出品酒を試飲させてもらいましたが、大吟醸のほうは鑑評会向きというよりは、喜久醉らしいやわらかな丸みのある、ホッとする酒でした。鑑評会の評価というのは、あくまでも他の酒との相対評価だから、こうやって喜久醉らしさがちゃんと伝わる出来であれば、これで十分じゃないかと思いました。
出品酒だけを専用タンクで造る余裕のある蔵は別ですが、青島酒造のように出品酒と市販酒を区別せずに造る蔵では、今がゴールではなく、搾ってから出荷するまでの「育て方」が大事。青島さんも「今はまだ中間折り返し地点。これからが本当の勝負」と強調していました。
そして今日(12日)、静岡県清酒鑑評会審査会。昨年同様、県沼津工業技術支援センターに朝一で駆けつけて、10時からの審査会をじっくり撮影しました。
今年の出品点数は、吟醸の部が24蔵44点、純米の部が25蔵48点(1蔵あたり2点まで出品できます)。
去年の蔵元代表審査員は『吟醸王国しずおか』パイロット版の冒頭で紹介したとおり、小夜衣の森本均さんと杉錦の杉井均乃介さんでしたが、今年は杉井さんに代わって英君の望月裕祐さんと森本さん。朝9時にセンターのロビーで独り緊張した顔で待つ望月さんを見つけ、冷やかしてやりました(笑)。
去年に比べ、取材メディアがなぜか今年は多く、静岡新聞の若い女性記者に挨拶された望月さんは、「香水つけてきてるよ~まいったなぁ、審査会場に入ってもらいたくないよぉ」とピリピリしてました。
吟醸の部の審査が終わった後、感想を聞いてみたら、「みんないい出来。僅差だと思う」と望月さん。
撮影を終えて家に戻り、このブログを書き始めたところで、審査結果がファックスで送られてきました。
吟醸の部の県知事賞は開運。以下会長賞は、國香、磯自慢、正雪、杉錦、喜久醉、英君、萩錦、葵天下、出世城、白糸、萩の蔵、満寿一、花の舞、若竹、高砂の順でした。
純米の部の県知事賞は杉錦。以下会長賞は開運、國香、正雪、富士錦、花の舞、喜久醉、磯自慢、萩錦、千寿、高砂、白糸、出世城、満寿一、若竹、志太泉、葵天下の順でした。
さすがは開運、鑑評会ではつねに安定的な力を発揮します。杉井さんは昨年の審査員経験が実を結んだのかも! 小さな蔵元杜氏の酒が高評価を得るのは小気味よいですね。
青島さんは残念だったけど、青島さんの出品酒は実に喜久醉らしい酒でした。喜久醉ファンは安心してくださいね。