夕べ(11日)は静岡県酒造組合静酉会のメンバーと、今年度の地酒まつりの反省会&慰労会。会場は居酒屋(静岡駅南銀座の鉄板焼き「湧登」)でしたが、静酉会会長の清信一さん(富士錦)、地酒まつりIN東京の実行委員長・望月裕祐さん(英君)、地酒まつり(浜松)の実行委員長・高田謙之丞さん(花の舞)、中村保雄さん(出世城)、望月正隆さん(正雪)、高嶋一孝さん(白隠正宗)に、SBSアナウンサー國本良博さん(地酒まつりMC)、県酒造組合事務局の鵜飼さん、そして私(IN東京MC)による、意外なほど?まじめで真剣な話し合いを行いました。
地酒まつりは、東京(立食形式)では700人、浜松(着席形式)で400人を集める一大イベントながら、企画からチケット販売、実施まですべて酒造組合の自主運営で行っています。これだけのイベントとなると、広告代理店やイベント業者に任せてもいいようなものの、一貫して蔵元自身が手作りで頑張っています。いろいろ課題はあるでしょうが、こういう面倒なことを続けることで、静岡県の蔵元の相互理解や団結力を養っている部分もあると思います。
ただ、お客さんには裏方が誰であろうと関係ないことで、チケットの入手方法や当日のオペレーションに対し、クレームや批判は容赦ありません。蔵元側にしても、参加に対するモチベーションに温度差があり、一生懸命頑張る蔵元にどんどん仕事が集中してしまう。傍から見ていて、ハラハラしたり、しずおか地酒研究会で協力できることはないかと思うこともしばしばです。
でも、第三者が介入すればしたで、混乱するでしょう。以前、他の団体に協力や協賛をもらうとか、当日はボランティアスタッフを募ったらどうかといった提案もしたのですが、かかわる人間が増えれば、それだけの人間をコントロールする司令塔が必要になり、結局、本業の片手間でやれる仕事じゃなくなってしまいます。
今年のIN東京でいえば、受付が混乱したとき、個人的にチケットを買って参加した静岡県東京事務所の職員が助っ人を買って出てくれました。
県職員で、静岡県を外向けにアピールしているセクションの人は、こういうイベントに協力的ですし、ある意味、慣れています。
8月末に開催した『吟醸王国しずおか』の東京試写会にも所長以下スタッフが自腹参加してくれたほどですから、「組合が正式に依頼すれば、手伝ってくれると思うよ」と提案しました。
このブログをご覧の県職の方、地酒だけで1回の催し(しかも有料)に400~700人集まるんですから、この場を静岡県のエリアセールスの好機ととらえ、積極的にご支援ご活用くださいまし! (できれば、県の観光パンフレットを置くだけじゃなくって、労働奉仕していただければ!)。
さてさて、夕べのミーティングで盛り上がったのが「誉富士問題」です。
誉富士というのはご存じのとおり、静岡県が独自に開発した酒造好適米。新しい品種、しかも醸造用の米を開発し、試験的に作付けし、試験醸造をし、OKサインを出して一般に普及させるのは、もちろん大変な手間暇がかかるだろうとは思います。誉富士の場合、3~4年で県内15社から商品化されるまでに至ったというのは、考えようによっては異例の速さといえるでしょう。
それだけに、農家も蔵元もいろいろ苦労があるようで、農家にしてみれば、「山田錦に匹敵する品種」と言われて、「高く売れるぞ!」と目論んで作ってみたものの、等級審査で特等や一等を取れるような米は、そう簡単には出来ない。新しい品種なんですから、最初からパーフェクトに作れるものでもないでしょう。「山田錦をまともに作れない農家がやろうとしても無理」という声を聞いたこともあります。
「そう簡単にモノにはならない」といって、簡単にあきらめる農家、しばらくは付き合ってみるかという農家、難しい品種でも挑戦しようという農家…米を作る人のモチベーションもさまざまです。たぶん、多くの農家は“様子見”の状態なんでしょう。結局、なかなか思うように作付面積が増えていないようです。
蔵元にしてみたら、二等級だろうと何だろうと、契約した以上はこれで醸造しなければなりません。大きさにバラつきがあったり、心白がズレていたり、米を取りまとめているJA経済連の精米機のレベルにも問題があったりで、山田錦のような高精白(精米歩合35~50%)に向かないことがわかり、精米55~65%クラス(純米吟醸・特別純米・純米)で商品化。出来上がった酒は、県独自の新品種米の酒という話題性も手伝って、消費者にはおおむね好評でした。
「山田錦の代わりにはならないけど、中堅レベルの酒造好適米として使い続けていけば、定着するんじゃないか」「せっかく静岡のオリジナルの米が出来たのなら、いい差別化ができる」というのが蔵元のおおかたの声。精米55~65%の純米クラスは、特定名称酒の中でも主力商品になっているだけに、蔵元側のオーダー数は増え続けています。
ところが、“様子見”状態で動きの鈍い農家には、そんな声が届いていないのか、仲介者に問題があるのか、蔵元の要望する数量が上がってこない。白隠正宗の高嶋さんなどは「今年は要望した数量の5割も入ってこなかった。作付不良などで7~8割になったというならまだしも、オーダーを受けておきながら5割以下というのは、常識で考えて明らかな契約違反。訴えてやると言いたい心境」と怒り心頭でした。
なんでも、農業指導機関の言い方だと、新しい品種を正規に登録し、一般に普及させるには(=種を売って儲けるためには)、なるべく多くの蔵元の購入実績が必要とかで、少ない数量を、さらに小分けにして売る方針を取っているらしく、ある程度まとまった量で試したいという蔵元の意欲が削がれている状態なんだそうです。ちょっとちょっと、誉富士ってのは、酒になってなんぼの米じゃないの?、なんで使いたいって蔵元の希望が通らないの?と思いました。
新しいコメ、新しい酒が定着するまでには、紆余曲折あるようで、他県でも似たような例は少なくないようです。
部外者的な言い方になってしまいますが、ひとつ言えるのは、農業も酒造業も、変わらなければ生き残れない。静岡県の場合は、酒造業のほうがその危機感を先に感じて、差別化・品質重視に舵を切り替え、今に至った。次は農業の番だということじゃないでしょうか。
夕べ集まった蔵元も口々に、「誉富士の酒は、静岡酵母との相性もよくて、ちゃんと造ればいい酒になる。蔵元側はみんな期待しているんです」と言います。
品質を磨き、さらにイベントを自主運営し、製造でも販売でも汗を流しながら酒を育てている蔵元に対し、大事な原料を供給する農業セクションの人々こそが、もっと真摯に向き合うべきだと思います。米も酒も、1年に1回しか出来ない。“様子見”している時間的余裕はそんなにないはずです。