杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

杯が乾くまで2杯目

2008-12-21 10:52:46 | 吟醸王国しずおか

 今日で『杯が乾くまで』2杯目(連載2年目)です。デザインを変えてみましたが、いかがでしょうか?

 

 ブログデビューして1年。職業ライターの場合、自分が書いたものが活字になって人目につくまでは数週間から数か月かかるのがザラで、ブログのように、瞬時に多くの方に読んでいただける経験というのは、いろんな意味で緊張もするし、手ごたえもあるし、ライターとして何か新しい次元にたどり着いた感があります。

 

 「ほんとにいろんなところへ走りまわっているね」「よくあれだけの文章を毎日書く時間があるね」と感心されることしばしば。この程度走り回るペースは、ライター稼業ならばごくフツウですよと応えながらも、取材したネタを原稿締め切りまで放ったらかしにすることも多く(反省…!)、その日のうちに書きまとめておくようになったのは、こうしてブログを始めてから。おかげで締め切り間際にバタバタあわてて取材メモをひっくり返すことも少なくなりました(笑)。

 

 

 

 

 ゆうべ(20日)は、ブログ1周年のお祝い、というわけではありませんが、静岡伊勢丹の松村社長や営業部長さんたちと、伊勢丹8階「天津飯店」で会食。年明けの伊勢丹新年会で「吟醸王国しずおか」PRの場を作ってくださるという有難いお申し出をいただきました。

 

 地域密着型の百貨店として、とくに地下食品売り場に「ふるさとむら」「酔いごこち満点むら」等を展開し、静岡県のこだわり名産品や地酒の発掘に力を入れてきた伊勢丹だけに、私の取り組みにも深い理解を示してくださったのでした。

 新年会は取引業者さんを対象にしたもので、県外からのゲストが6割とのこと。伊勢丹の地域密着店としての過去の取り組みと、しずおかフーズフェスティバルで08年にはとくに静岡吟醸をアピールした点、そして私の映画作りという流れで紹介し、静岡吟醸実力3種を試飲していただく趣向です。流通の目利きのみなさんが、どんな感想を持たれるのか楽しみです。

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 さて、昨日の「天津飯店」、デパート8階の食堂街という立地上、ファミリーでご飯を食べに行く、買い物ついでに立ち寄る、といったイメージを持たれるかと思いますが、実は宴会や飲み会におススメなんです。私も県商工会連合会のグループで利用したことがありますが、味は正統派の北京料理、中華にしてはヘルシーで量もほどよく、アルコールがワイン、シャンパン、ビール、紹興酒、日本酒などかなり充実していて、飲み放題プランもある。メニューにないものもお願いすれば作ってくれます。

 

 

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 「去年は忘年会の予約が1組だけだったのが、今年は30組、300人余のご利用があるんですよ」と満面笑顔の松村社長。持参した喜久醉しぼりたて生原酒は、社長が御用意くださったワインとは、ゼロがひとつ少ない普通酒でしたが、「うまいうまい、中華に合う!」と喜んでくださいました。

 天津飯店のコースメニューは2100円・3150円・4200円とリーズナブルで、プラス1500円で飲み放題プランにできます。(問合せ/電話054-251-0930)

 

 

 意外な穴場のデパート食堂街。クリスマス料理やおせちに飽きたら?ぜひお試しあれ。


新酒初搾り第1便の出発

2008-12-19 09:53:37 | 吟醸王国しずおか

 16日のSBS学苑イーラde沼津校の日本酒講座で試飲した4銘柄(磯自慢、英君、初亀、喜久醉)のうち、今年の新酒が3銘柄。喜久醉だけが間に合いませんでした。

Dsc_0030  その喜久醉・青島酒造のしぼりたて普通酒無ろ過生原酒が、本日19日発売。私とカメラマンの成岡正之さんは、ゆうべ18日、あわただしく出荷作業を行う様子を撮影しました。

 

 青島さんクラスの規模の蔵では、通常、米が収穫されたあとの11月中旬から翌3月中旬ぐらいまでが酒造期で、約5ヶ月間で1年分の酒を仕込むわけです。出荷は、基本的に取引先から注文があるたびに行います。このところの喜久醉人気で、品薄アイテムが続出するようになり、酒造期が少しずつ早まっているようですが、基本的には1年分の酒を瓶詰め貯蔵し、低温管理します。

 

Dsc_0020  ところが、唯一、この初搾りだけは、“初もの・生もの”だけに、造って搾って瓶詰めして、一気に出荷します。この間も、通常どおり仕込み作業があるわけで、注文ファックスが次から次に入ってくる中で、仕込み・瓶詰・ラベル貼り・梱包作業に追われます。杜氏の青島孝さん以下蔵人たちも、仕込みの合間を縫って出荷作業を手伝います。

 こんなときに、面倒な撮影を無理強いして申し訳ないと思いつつ、新しい酒造年度の最初の新酒の出荷第一便はどうしても撮りたいという私の希望を、快く受け入れてくれました。

 

Dsc_0004  「初搾りの発売日のお知らせを昨日お出ししたばかりなので、たぶん初日はそんな量は出ないと思います。出荷準備もすぐに終わると思うので、いつも17時ごろ来る配送トラックには、ちょっと早めに、16時ぐらいに来てもらうつもり」と聞いていたので、余裕を見て15時に訪ねたところ、社長夫人の青島久子さんと、農閑期は青島酒造で働く「松下米」の松下明弘さんほか作業スタッフが、必死の形相でラベル貼りをしています。

 

 「想定外の注文量で、準備が間に合わず、トラックには結局いつもどおり17時過ぎに来てもらうことになった」とのこと。トラックが来るまで待ちますか?と聞かれ、いやいや、それなら、せっかくだから、みなさんが必死にラベル貼りしているところも撮らせてくれ、とカメラを回し始めました。積み荷ができた先からトラックに詰め込むピストン作業になり、トラックは結局17時と17時30分の2回に分けて運ぶことになりました。

 

Dsc_0013  久子さんと松下さんが、向かい合って、1本1本ラベルラベル貼り。「瓶と自分の体をまっすぐに合わせないときれいに貼れないのよ」という久子さんは、青島家に嫁いで以来、続けている作業だけに、手元も正確で、ホント、年季が入っています。松下さんも、冬期に青島酒造で働くようになって13年目。今では瓶詰や出荷など大事な最終工程で、なくてはならないスタッフになっているようです。

 

 私が、「この時期、こんなに忙しくて猫の手も借りたいという会社があるのに、派遣社員が解雇されて住む家まで追い出されるところもあるんだよねぇ」とつぶやくと、「派遣という働き方を選んだ人は、どんなにきつくても、ひとつの仕事を一から覚えてとことん究めるという生き方を選択しなかったんだろう?仕方ないんじゃないか?」と松下さん。職業観は人それぞれですが、彼ならそう言いたくなるのも無理ないかも…。

Dsc_0007_2   酒米の生産者の中でも、彼のように冬場、実際に酒造りの現場に入って、どんな下働きでも率先して汗を流し、自分の米がどんな酒になるのか、きちんと見極めようという人はほとんどいません。それだけ、自分の仕事に誇りと責任を持っているのです。

 

 

 松下さんにカメラを向ける成岡さんのそばには、新人アシスタントがついて、カメラ操作を凝視していました。成岡さんはアシスタントの鈴木くんに、あれこれ撮り方を指南しています。

 

Dsc_0018  聞けば、2人とも早朝3時からロケだったとか。眠気が襲うこの時間、暖房どころか扇風機が回っている寒い倉庫の中で、被写体に気を遣いながらの撮影は、正直、しんどかったと思いますが、「映像の仕事を志す若者に夢を持たせたい」という思いでこの作品に取り組んでいる成岡さんの、職人の親方さんらしい顔が垣間見れたような感じ。

 

 私はちょっと離れた場所から、一眼レフで撮影風景を撮り続けました。見た目は何の変哲もない、倉庫の中の地味~な出荷作業ですが、ひとつの仕事に誇りを持ち、緊張感を持って働く人々がひとつのフレームにおさまっている光景は、限りなく清々しかった。

 

 「吟醸王国しずおか」も、2造り目の撮影が始まっています。今期は職人たちのどんな表情に出遭えるのか、ホントにワクワクさせられる初搾り一番便出荷でした。


SBS学苑日本酒講座に参戦

2008-12-17 10:59:44 | 吟醸王国しずおか

 一昨日に続き、昨日夜(16日)も、『吟醸王国しずおか』予告パイロット版の試写&レクチャーに行ってきました。

Imgp0228  SBS学苑イーラde沼津校で開講中の日本酒講座。静岡市清水区の銘酒処すずき店主・鈴木詔雄さんが講師を務め、毎年11月から3月まで年5回開講しているそうです。

 

 鈴木さんは映画制作の産声を上げてすぐに映像製作委員会会員になってくれた貴重な酒販店のお一人。自分が持っている講座で映画の話をしに来ませんか?と誘われたのは、8月のパイロット版初お披露目の前でした。どんなパイロット版に仕上がるのか、作っている本人が不安だったときに声をかけてもらったことで、ひとつの目標ができ、とても励みになったものです。

 

 

Imgp0231  受講料を払ってまで日本酒の勉強をしたいという人たちが集まる講座ですから、『吟醸王国しずおか』にもきっと関心を持ってくれるだろう、意識の高い人なら理解してくれるだろうと期待しつつも、過去の試写会での一般の人のさまざまな反応を思い起こし、正直、やっぱり不安はありました。

 受講生は9人、家庭用のブラウン管テレビでの鑑賞だったので、小さい字幕が見づらいだろうと、テレビの前に集まってもらい、一昨日の静岡税務署試写会で手応えのあったコメンタリー付きの上映に倣って、自分の解説を交えながら映像を流しました。

 

 受講生の皆さんは、ひとつひとつの説明に反応を示し、ほぉ~とか、わぁ~とか、眼を見開いたり凝らしたりして、映像に見入ってくれたようです。

 

 

 私も、字幕で説明しきれなかったことを補足できて、なんだかすっきりした気分。

 冒頭にドーンと見せた、静岡県の特定名称酒(吟醸、純米、本醸造など)の製造割合が8割を超えているという数字は、ラストに入れた、チケット即ソールドアウトの志太平野美酒物語の会場で呑み手が喜ぶ顔につながっています。

 

 つまり、大量生産の安酒ではなく、手間とコストのかかる特定名称酒が主流になり得る(しかも静岡県は日本酒出荷量が前年比割れしない日本でも稀有な県)のは買い支える消費者がついているから=コンテストの評価ではなく消費者が評価した真の王国である、という意味を説明し、「だから吟醸王国なんだね」と納得してもらえたのはうれしい限り! やっぱりナレーションは必要だなぁと実感しました。

 

 

 受講生の一人から、鑑賞後、「私は単なる酒飲みで、知識があるわけではないが、この映像はすごく解りやすかった。それは本物を撮っているからだ」と激励してくれました。

 本物を撮っている、というドキュメンタリー映像作家なら当たり前の、でもそう見てもらえて何よりうれしい言葉が聞けて、涙が出そうになりました。

 酒が、いい呑み手との出会いによって幾重にも育つように、映画も、よき鑑賞者との出会いによって育てられるんですね。

 

Imgp0232  鑑賞の後は、映画に登場した蔵元の中から4蔵5本(磯自慢しぼりたて本醸造、英君しぼりたて本醸造・純米、初亀新酒あらばしり、喜久醉大吟醸)の酒をテイスティング。

 

 「磯自慢の多田杜氏が10月に故郷北上から焼津へ蔵入りするときを追っかけ撮影しました。それから造って搾ったできたての酒です」とか「初亀の新酒は、名杜氏の後を継いだ30代の若い杜氏が、杜氏になって初めて醸した一番搾りの酒です」と、撮影のエピソードを披露しながら味わってもらいました。

 

 

Imgp0234  余興で、「静岡いちご・あきひめは本醸造系に、紅ほっぺは純米系に合うかも」と、英君2種で試したところ、本醸造はアルコール添加してある分、新酒の段階から酒の骨格が出来上がっていてボディもあって、どちらかというと味の濃い紅ほっぺ向きでした。

 

 受講生からは、「いちごを酒肴にするなんて面白い」「パーティーで試してみたい」「静岡らしいね」と楽しんでもらえたようです。

 

 

 一昨日、昨日と2夜連続の鑑賞会は、プレッシャーを感じながらも、静岡吟醸のノド越しのよさのような爽快感で終えることができました。

 お膳立てをしてくださった内川さん、村松さん、鈴木さんに、心から感謝いたします。

 


想定外の試写会

2008-12-16 11:14:47 | 吟醸王国しずおか

 昨日(15日)は、久しぶりに『吟醸王国しずおか』予告パイロット版の試写会を行いました。Imgp0216_2 集まったのは、なんと静岡税務署のみなさん。過去の試写会参加者から「学生に見せたい」「社員研修に使いたい」なんてリップサービスをもらったことがありますが、実際に実行したのが税務署さんだったというのは、びっくり想定外!でした。

 

 きっかけは、以前からこのブログを読んでくれていたという名古屋国税局の内川正樹さん。もともと静岡出身で、静岡税務署への出向を機に、静岡酒の素晴らしさに個人的にも覚醒し、税務署員とは思えないフットワークのよさで、各蔵元を回っている熱血署員です。

 

 以前、酒造組合の会合で顔を合わせたときは、背広にネクタイ姿で、いかにもおカタイ税務署員風情で、蔵元の話をじっと見張っているという、ちょっとビミョ~な印象でした。

 

 ところが、夏ごろ、私が自分のノートパソコンを酒浸しにして、映画の記録写真をオシャカにしたかも、とブログに書いたところ、真っ先に「パソコン修理人を探すから!」「鈴木さんが撮る写真は酒造業界の宝ですから!」と熱いメールをくれた読者Mさんが、内川さんだったと知ってびっくり。

 8月末のパイロット版初お披露目の時は、上司の静岡税務署酒類担当官・村松勝義さんを伴って来てくれて、2人から「よくぞ撮った」と力強いお褒めをいただきました。

 

 2人とも、県内の酒蔵事情に精通していて、ファンや消費者とは違う目線で静岡酒の現状分析や課題などにも一家言持っているだけに、「撮った映像を全部観てみたい!」「麹室の中には我々もめったに入れない。その大吟醸の麹造りをカメラに残したことがいかに難しく、価値あることか」「全国新酒鑑評会のあり方にも一石を投じる貴重な映像だ」等など、私がさんざん苦しんできたことを、瞬時に理解し、評価してくれたのです。

 

 9月に酒販店主催のイベント会場で流したときは、途中で「何だこの映像は」「何を言いたいのかさっぱりわからん」とつっかかってくる酔客もいて、腹の中で泣きたい気持ちをグッと抑えたりしましたが、内川・村松両名の感想と、その後、こうして、職場の仲間を集めて鑑賞する場を作ってくれたことに、心の底から救われた思いがしました。

 

 

 

 昨日は、静岡税務署の松井公一署長、村田千英子副署長以下、15名の署員の方々が、業務が終わった後、静岡市クリエーター支援センタープレゼンテーションルームに移動し、2回続けて鑑賞してくれました。

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 1回目はふつうに上映し、2回目は村松さんが解説しながらの上映。まるでオーディオコメンタリー付きの特典映像を観ているみたいで、面白い試みでした。

 村松さんが、自分が撮ったかのように上手に解説するので、私はまったく口をはさむ余地なし(苦笑)。パイロット版はナレーションが入っていないので、解説を交えて観てもらうのもいいかもしれません。

 

 

 「組合の会合でも、じっと聞いているだけというのが辛い。静岡吟醸のために自分ができることがないか、つねに模索しているんです」と内川さんは言います。

 

 そんな税務署員が静岡にいて、映画制作にも期待をしてくれる・・・今までの酒業界vs税務署の構図が、静岡では変わるかもしれない、なんて萌し(きざし)を感じた、素敵な夜でした。


地酒まつりと誉富士の反省点

2008-12-12 11:59:06 | しずおか地酒研究会

 夕べ(11日)は静岡県酒造組合静酉会のメンバーと、今年度の地酒まつりの反省会&慰労会。会場は居酒屋(静岡駅南銀座の鉄板焼き「湧登」)でしたが、静酉会会長の清信一さん(富士錦)、地酒まつりIN東京の実行委員長・望月裕祐さん(英君)、地酒まつり(浜松)の実行委員長・高田謙之丞さん(花の舞)、中村保雄さん(出世城)、望月正隆さん(正雪)、高嶋一孝さん(白隠正宗)に、SBSアナウンサー國本良博さん(地酒まつりMC)、県酒造組合事務局の鵜飼さん、そして私(IN東京MC)による、意外なほど?まじめで真剣な話し合いを行いました。

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 地酒まつりは、東京(立食形式)では700人、浜松(着席形式)で400人を集める一大イベントながら、企画からチケット販売、実施まですべて酒造組合の自主運営で行っています。これだけのイベントとなると、広告代理店やイベント業者に任せてもいいようなものの、一貫して蔵元自身が手作りで頑張っています。いろいろ課題はあるでしょうが、こういう面倒なことを続けることで、静岡県の蔵元の相互理解や団結力を養っている部分もあると思います。

 ただ、お客さんには裏方が誰であろうと関係ないことで、チケットの入手方法や当日のオペレーションに対し、クレームや批判は容赦ありません。蔵元側にしても、参加に対するモチベーションに温度差があり、一生懸命頑張る蔵元にどんどん仕事が集中してしまう。傍から見ていて、ハラハラしたり、しずおか地酒研究会で協力できることはないかと思うこともしばしばです。

 

 でも、第三者が介入すればしたで、混乱するでしょう。以前、他の団体に協力や協賛をもらうとか、当日はボランティアスタッフを募ったらどうかといった提案もしたのですが、かかわる人間が増えれば、それだけの人間をコントロールする司令塔が必要になり、結局、本業の片手間でやれる仕事じゃなくなってしまいます。

 

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 今年のIN東京でいえば、受付が混乱したとき、個人的にチケットを買って参加した静岡県東京事務所の職員が助っ人を買って出てくれました。

 県職員で、静岡県を外向けにアピールしているセクションの人は、こういうイベントに協力的ですし、ある意味、慣れています。

 

 8月末に開催した『吟醸王国しずおか』の東京試写会にも所長以下スタッフが自腹参加してくれたほどですから、「組合が正式に依頼すれば、手伝ってくれると思うよ」と提案しました。

 

 このブログをご覧の県職の方、地酒だけで1回の催し(しかも有料)に400~700人集まるんですから、この場を静岡県のエリアセールスの好機ととらえ、積極的にご支援ご活用くださいまし! (できれば、県の観光パンフレットを置くだけじゃなくって、労働奉仕していただければ!)。

 

 

 

 

 さてさて、夕べのミーティングで盛り上がったのが「誉富士問題」です。

 誉富士というのはご存じのとおり、静岡県が独自に開発した酒造好適米。新しい品種、しかも醸造用の米を開発し、試験的に作付けし、試験醸造をし、OKサインを出して一般に普及させるのは、もちろん大変な手間暇がかかるだろうとは思います。誉富士の場合、3~4年で県内15社から商品化されるまでに至ったというのは、考えようによっては異例の速さといえるでしょう。

 

Dsc_0015  それだけに、農家も蔵元もいろいろ苦労があるようで、農家にしてみれば、「山田錦に匹敵する品種」と言われて、「高く売れるぞ!」と目論んで作ってみたものの、等級審査で特等や一等を取れるような米は、そう簡単には出来ない。新しい品種なんですから、最初からパーフェクトに作れるものでもないでしょう。「山田錦をまともに作れない農家がやろうとしても無理」という声を聞いたこともあります。

 

 「そう簡単にモノにはならない」といって、簡単にあきらめる農家、しばらくは付き合ってみるかという農家、難しい品種でも挑戦しようという農家…米を作る人のモチベーションもさまざまです。たぶん、多くの農家は“様子見”の状態なんでしょう。結局、なかなか思うように作付面積が増えていないようです。

 

 蔵元にしてみたら、二等級だろうと何だろうと、契約した以上はこれで醸造しなければなりません。大きさにバラつきがあったり、心白がズレていたり、米を取りまとめているJA経済連の精米機のレベルにも問題があったりで、山田錦のような高精白(精米歩合35~50%)に向かないことがわかり、精米55~65%クラス(純米吟醸・特別純米・純米)で商品化。出来上がった酒は、県独自の新品種米の酒という話題性も手伝って、消費者にはおおむね好評でした。

 「山田錦の代わりにはならないけど、中堅レベルの酒造好適米として使い続けていけば、定着するんじゃないか」「せっかく静岡のオリジナルの米が出来たのなら、いい差別化ができる」というのが蔵元のおおかたの声。精米55~65%の純米クラスは、特定名称酒の中でも主力商品になっているだけに、蔵元側のオーダー数は増え続けています。

 

 ところが、“様子見”状態で動きの鈍い農家には、そんな声が届いていないのか、仲介者に問題があるのか、蔵元の要望する数量が上がってこない。白隠正宗の高嶋さんなどは「今年は要望した数量の5割も入ってこなかった。作付不良などで7~8割になったというならまだしも、オーダーを受けておきながら5割以下というのは、常識で考えて明らかな契約違反。訴えてやると言いたい心境」と怒り心頭でした。

 

 なんでも、農業指導機関の言い方だと、新しい品種を正規に登録し、一般に普及させるには(=種を売って儲けるためには)、なるべく多くの蔵元の購入実績が必要とかで、少ない数量を、さらに小分けにして売る方針を取っているらしく、ある程度まとまった量で試したいという蔵元の意欲が削がれている状態なんだそうです。ちょっとちょっと、誉富士ってのは、酒になってなんぼの米じゃないの?、なんで使いたいって蔵元の希望が通らないの?と思いました。

 

 新しいコメ、新しい酒が定着するまでには、紆余曲折あるようで、他県でも似たような例は少なくないようです。

 部外者的な言い方になってしまいますが、ひとつ言えるのは、農業も酒造業も、変わらなければ生き残れない。静岡県の場合は、酒造業のほうがその危機感を先に感じて、差別化・品質重視に舵を切り替え、今に至った。次は農業の番だということじゃないでしょうか。

 

 夕べ集まった蔵元も口々に、「誉富士の酒は、静岡酵母との相性もよくて、ちゃんと造ればいい酒になる。蔵元側はみんな期待しているんです」と言います。

 

 品質を磨き、さらにイベントを自主運営し、製造でも販売でも汗を流しながら酒を育てている蔵元に対し、大事な原料を供給する農業セクションの人々こそが、もっと真摯に向き合うべきだと思います。米も酒も、1年に1回しか出来ない。“様子見”している時間的余裕はそんなにないはずです。