杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

私的地産地消ツアー

2008-12-11 11:32:56 | 農業

 引き続き、県商工連フルーツゼリー事業のお菓子屋さんめぐりです。

 9日は牧之原市の扇子家さんの後、袋井市の『どんどこあさば』を訪ねました。厨房チーフ戸塚都さんが、袋井産マスクメロンを使ったゼリーを開発したのです。

 

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 マスクメロンのゼリーって、すごーく難しいんですね。過去ブログでも書いたとおり、生で食べておいしいフルーツに、熱を加え、固めて、生の時とおんなじ香りや味をキープしようと思っても無理。熱を加えた瞬間、香味はどんどん変わってしまう。…仕方ありません。

 

 「地元の感覚だと、生食以上においしい食べ方はないというのが常識で、メロンに手を加えるという発想がないんですよ」と戸塚さん。

Imgp0189  旧浅羽町でご近所に愛された仕出しスーパー「戸塚屋」を切り盛りし、ショッピングセンター・パディの開店時にお惣菜のテナントショップとしてリニューアルし、町の有志と手造り豆腐工房を立ち上げ、やがて、農産物直売所と農家風健康バイキングレストランを併設した『どんどこあさば』へと発展。一貫して“地のものを新鮮な状態で味わっていただく”ことをモットーにしていただけに、メロンゼリーの企画が持ち上がったときは、正直、不安もあったそうです。

 

 というのも、既存のメロンゼリーは、香料や着色剤を加え、なんとか“らしさ”を再現したものが多いのです。でも、どんどこあさばが作るものは、それではいけない、というジレンマがある。メロン産地の誇りにかけて、最初から添加物に頼るものなんか作れないという思いがあって当然で、またそこが、戸塚さんの、菓子専門職人の感覚とは少し違う、“らしさ”かもしれません。

 今回の企画の5種類のフルーツゼリーの中では、メロンゼリーが試作にもっとも時間がかかりました。。戸塚さんは、生メロンの良さを最大限に生かしつつ、ゼリー菓子として恥ずかしくないものを作ろうと、専門家のアドバイスを柔軟に取り入れ、委員会メンバーが太鼓判を押す味に到達しました。「今回の挑戦で会得できたノウハウをお店で生かし、店頭では、これぞ生メロンゼリーといえる自信作を出していきたいですね」と実直に語ります。

 

 

Imgp0212  昨日(10日)は、伊豆市月ヶ瀬(旧天城湯ヶ島町)の『小戸橋製菓』を訪問しました。

 中伊豆の代表銘菓「猪最中」でおなじみ、創業96年の老舗です。3代目内田明さんは、東京で和洋菓子の修業を積み、三島の菓子店に勤めていた頃は、夜はバーテンのアルバイトを掛けもちして、接客のノウハウを身に着けた人。今は月ヶ瀬本店のほか、函南、大仁、裾野に直売店を構え、洋風感覚を生かしたバター風味の「バタどら」、チーズ味のスポンジケーキ「うりんぼう」など、猪最中に次ぐヒット商品を生み出しています。

 

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 内田さんが今回挑戦したのは、地元月ヶ瀬特産の梅を使ったゼリー。伊豆月ヶ瀬梅組合が企画開発した無添加「梅シロップ」を使い、梅肉を散らしたもので、委員会の試作では、1回目から「完璧な味」「すぐにでも売れる」とお墨付きを得ています。

Imgp0206  私は、昔からこの「梅シロップ」が好きで、もちろん月ヶ瀬組合に取材に行ったこともあるし、伊豆へ来るたびに必ず買って帰って、お風呂上りにとオンザロックで飲んだり、ヨーグルトやところてんのトッピングソースに使っています。昨日もしっかりゲット。

 

  どんどこあさばでは、やはり過去に取材した、袋井市の地鶏農家鈴木民子さんの「手作りクッキー」、JA遠州中央浅羽支店オリジナル・静岡県産小麦100%の「玄米入りあっちゃんラーメン」、掛川市旧大須賀町の栄醤油の「たまごかけ飯用栄醤油」を購入しました。車の後部座席は、取材だか買い物ツアーだかわからない状態です(苦笑)。

 

 鈴木さんのクッキーは、生みたて鶏卵を、その場でクッキーに焼いています。卵とバターと小麦粉だけのシンプルなクッキーですが、自分にもし子どImgp0195もがいたら、初めて食べさせるおやつにしたいと恋願うような味…といえばいいかな。子どもの味覚形成にお手本となるような、実に素朴で手作り感あふれる味です。

 実際、鈴木さんにクッキーの焼き方や卵焼きの作り方を教えてもらい、家でも実践したんですが、鈴木さんの卵じゃなきゃ駄目だなぁと実感したものです。

 

 今回の行脚で出会った菓子職人すべてが、「素材選びがすべて」と口にしていましたが、鈴木さんのクッキーを久しぶりに味わって、その言葉の重みを改めて感じました。

 

 それにしても、昔は、各町に行かないとその存在に気付かず、もちろん買うこともできなかった味が、こうして一ヶ所で買えるようになったなんて、いい時代になりました。

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 ただ、気軽に買えない、わざわざその地域まで行かないと買えない、その面倒くささが、作り手の本当のこだわりを守っている部分もあるでしょう。

 

 

 

 メロンゼリーを例にとれば、本当のマスクメロンの美味しさをゼリーで味わうには、添加物を一切使わない生メロン100%で作って、すぐに食べるしかない。つまり、消費者は、どんどこあさばまで行かなければ食べられないけど、おそらく、世の中に、こんな美味しいフルーツゼリーがあったのか!と感動できることは間違いなし。

 

 かといって、流通にのせるため香味に多少の調整を加えたとしても、一般に出回るクリアすぎる色と香料プンプンのゼリーとはあきらかに違います。メロン産地発の手作りゼリーとして最大限にこだわった戸塚さんの努力を、理解できる消費者でありたいと思います。100%無添加生にこだわるなら、産地に出向くのが当然、と言えるような消費者で。

 

 各作り手がフルーツ産地の誇りをかけて創り上げたフルーツゼリー。初お披露目は2月初旬、東京で開催のギフトショーの予定です。その後、県内でも試食お披露目の場が設けられると思いますので、楽しみにお待ちください!


菓子職人のひらめき

2008-12-09 21:38:24 | 社会・経済

Imgp0150  先月行われた米粉FOODコンテスト2008(静岡県、JA静岡中央会主催)で、プロ部門最高金賞(県知事賞)を受賞した『味噌まんじゅうde秀クリーム』。シュークリームの中に味噌まんを入れた、ありそでなさそな画期的なスイーツで、私も、「いちご大福」がデビューした頃の驚きを感じました。

 

 

 先週末から始まった、静岡県商工会連合会うまいもの創生事業のフルーツゼリー開発業者(お菓子屋さん)の取材行脚。今日(9日)は、この事業でいちごの紅ほっぺゼリーを開発した扇子家(牧之原市・旧相良町)の高橋克壽さんを訪ねました。

 彼こそ、味噌まんじゅうをシュークリームに入れて県知事賞をゲットした張本人。商工会さんには申し訳ないんですが、紅ほっぺゼリーはさておいて、味噌まんじゅうをシュークリームの中に入れるという発想の源泉は何かを聞きたくて訪問しました。

 

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 扇子家は大正6年、旧榛原町で創業し、城下町だった旧相良市街のほうが食通が多く、こだわり菓子のニーズもあるということで、現在の地に移転し、高橋さんで4代目。他に支店や卸はせず、単店だけで売上1億を越えたこともあるという榛南地区を代表する銘菓店です。

 

Imgp0168  高橋さんは東京の製菓専門学校を経て、日本のフランス菓子に革命を起こしたといわれる名パティシエ弓田享さんと、千葉の「京山」の和菓子職人佐々木勝さんに師事し、和洋菓子双方の修業を経験しました。

 

 修業期間はいずれも1年足らずと短かったものの、濃密で充実した時間だったようです。

 「弓田さんは、見た目は大柄な人ですが、とてつもなくデリケートな感性の持ち主。菓子は主食にはならないからこそ、とことん繊細であるべきと言う。“菓子職人は土方の体力と詩人の心が必要だ”と教えられました」

 「佐々木さんは当時30代の若さで弟子をとるのは初めてだった。朝6時から夜23時までぶっ通しで仕事して確かにキツかったけど、職人としての心構えを叩き込んでもらいました」と振り返ります。

 

 

 祖父が急死し、実家に戻らなければならなくなりましたが、「東京であのまま修業を続けていたら、そこそこまとまった職人になって、新しいものにチャレンジするなんてこともなく、ありふれた菓子屋になっていたと思います」。

 

 

 

 ひらめきやイメージを何より大切にするという高橋さん。これまでも、さまざまな創作菓子コンテストに出品し、最高賞の受賞歴も1つや2つじゃありません。味噌まんシューも、熟考したというよりも、ささいなひらめきだったそうです。

 「うんうん考えても浮かばない。ひょんなきっかけや失敗の賜物だったりする。鈴木さんもコピーライターだからわかりますよね」。

 そうそう、と応えながらも、ひらめきだって、そう都合よく浮かぶもんじゃないよなーと思って、ふだんの生活で何を心がけていますか?と訊いたところ。「若いころの、無鉄砲でも斬新でクリアなイメージを持ち続けること。キャリアが長くなれば長くなるほど、技術は上がるがイメージング能力は下がる。それが自分の課題」とのこと。心身が疲れていると、イライラして、新しい発想どころか、ふだんの仕事も雑になり、常連さんから「見た目は同じだけど味が変わったよね?」と言われたりしてしまうそうです。

 

 「とにかく平常心でいること。菓子の修業は禅の世界に近い」。高橋さんの口から、禅という言葉が出てきて、心の中でおぉーっと唸ってしまいました。

 

 「それと、大事なのは芯がブレないこと。芯がしっかりしていれば、雪だるまのようにあとは転がして大きくすればいい。消防団の訓練でホースを巻くとき、最初の5分の1ぐらいをしっかり巻かないと後が大変になる。それと同じ。自分にとっては弓田さんと佐々木さんという、芯になる人から、基礎を叩き込んでもらったことが大きい」。

 

 

 若いころは学校の先生になるのが夢だったという高橋さんだけに、一つ一つていねいに説くように答えてくれます。仕事の合間には、地域の公民館に出向いて市民対象の菓子作り教室も開くそう。年間1億売り上げた年は、さすがに家族も従業員もヘトヘトで、この調子では老舗の暖簾が守れないと悟り、今はいたってマイペース。

 

Imgp0162  創業当時からの看板銘菓「陣太鼓最中」「初代久八じいさんのみそまんじゅう」、戦後間もない頃から定番人気の「チョコレートまんじゅう」等、地元のお客さんにしっかり支えられたロングセラーに、「味噌まんじゅうde秀クリーム」という異色のヒットメニューが加わり、扇子家の暖簾は盤石になったようです。

 「儲けるよりも、続けることが尊いということを、つくづく実感します」という高橋さん。今年、新酒鑑評会で県知事賞を受賞した青島酒造の青島孝さんと、よく似た感性の持ち主です。

 

 

Imgp0054  味噌まんシューは、米粉入りの皮がそこそこの食感で、クドさのないまんじゅうの甘みに、クリームのなめらかさがほどよく調和します。県商工連フルーツゼリー事業委員会で試食したときは、全員大絶賛で、他の菓子業者さんも「この発想はすごい」と唸っていました。

 まんじゅうをシュークリームの中に入れただけ、と言いますが、異質なものを組み合わせ、味・形状とも1個の菓子として完成させるだけでも大変だろうし、それを再現性をキープしながら大量に作るというのは、言うほどカンタンじゃないだろうと、素人ながら想像します。

 

 

 今日はもちろんお土産に買いこんで実家に分け、帰宅後は夕食前に2個ぺろりとたいらげてしまいました。お店に行かないと買えないし、日持ちがしないので、とにかく買いに行ってくださいとしか言えませんが、わざわざ買いに行く価値は大いにあり!。

 「ひらめき」で、遠来の客を引っ張ってくる新商品が出来ちゃうっていうのは、営業力じゃなくて、やっぱり職人力なんだなぁ。

 


世界人権宣言60周年

2008-12-07 19:22:40 | 朝鮮通信使

 今日(7日)はアイセル21で開かれた静岡人権フォーラム主催のシンポジウム『いじめや差別、犯罪をなくす教育とは』に参加しました。

 

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 世界人権宣言60周年を記念した催しで、基調講演は金両基先生(評論家)、パネルディスカッションでは金先生、佐藤俊子さん(静岡に文化の風を、の会代表)、青野全宏さん(社会福祉法人ピロス施設長)、鈴木克義さん(常葉短大教授)が、それぞれの立場から人権教育の在り方について語り合いました。講演とディスカッションの合間には、韓国の伝統音楽サムルノリの演奏も楽しめました。

 

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 こういう機会でもない限り、世界人権宣言について真正面から考えることもないだろうし、子どものいない私には教育現場が抱えるいじめや格差の問題を知ることもなかったでしょう。

 サムルノリは昨年の朝鮮通信使400周年記念事業で耳にしましたが、「農楽から発達し、3拍子と4拍子が融合した稀有な複合拍子であり、日本の神楽のように男性しか演ずることが許されなかったが、女性差別撤廃の見地から、今は女性が男装して演奏する」云々…と金先生の解説付きで聴けて、実に得難い時間でした。

 

 

 「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」

 「人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神を持って行動しなければならない」

という一節で知られる世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)は、世界で5600万人余の命が失われた第二次世界大戦の後、2度と同じ悲劇は繰り返さないという思いで作られた人類共通の権利の章典。のちに国連で結ばれた国際人権規約や女性差別撤廃条約、子どもの権利条約など人権条約の基礎中の基礎となったものです。

 

 

Imgp0116  金先生は大学生の時にこの一節に出会い、8つのキーワード(人間・自由・尊厳・権利・平等・理性・良心・同胞)に心を揺さぶられたと言います。とりわけ、「同胞」という言葉は、韓国朝鮮の人にとっては同一民族を意味するものとされていたのが、人類全体を指すものと気づかされ、その後の自身の比較文化論、人権文化論の原点となった、と。

 

 未だに、韓国ドラマや映画なんかでも、「同胞」は同じ朝鮮民族という意味で使われています。50年以上も前に、同胞は人類全体を意味するんだという意識を持たれた金先生は、やっぱり凄い人だ…!と思いました。

 

 

Imgp0137  パネルディスカッションでは、自身も車いす生活を送る青野さんが、「自由を求める権利は障害の有無にかかわらず誰でも与えられているはずなのに、電車に乗りたい、仕事をしたい、街中に住みたいというささやかな願いさえも難しいのが現実。他人の世話になっているんだから我慢するのが当たり前という風潮」「車いすで新幹線に乗る時は必ず予約が必要。先日、急な用事で予約なしに乗ろうとしたら、乗務員が“飛び入り1台入った”と連絡し合うんです。正規の切符を買って乗るというのに、人間扱いされていない」と自らの体験を語りました。

 昨日(6日)夜のNHK教育で、テレビが障害者をどう描くべきかを、NHKの番組ディレクターとドキュメンタリー映画監督森達也さんが、障害者のみなさんと生討論するのを観ました。障害者を取り上げるテレビ番組というのは、「障害があっても明るく元気で他者から愛される人」ばかりで、「障害者がみんないつも明るくて努力家であるわけじゃない。メディアが、そういうイメージを障害者に押し付けている」と障害者自身が違和感を訴えていました。

 

 健常者が何気なく発する言葉やしぐさでも、障害を持つ人を傷つけたり、メディアがよかれと考えて作った番組にもある種の差別が潜む・・・こういうことは、障害者自身が声に出さなければ、健常者は気付かないんですね。

 

 

 

Imgp0138  佐藤さんは、自分の子どもがいじめを受けて学校から早退してきたとき、全身全霊で「あなたを守るから」と受け止め、子どもをクラスの中でからかいの対象にした元凶である担任教師と直談判し、子ども自身、「お母さんと先生が解ってくれれば十分」と問題を表ざたにはしなかった話を、涙ぐみながら披歴し、「何より大切なのは、大人が子どもに、愛をしっかり示すこと」と強調しました。

 

 

 常葉短大の鈴木さんは、子どものいじめをなくす試みとして、北九州市立中央小学校の国語と道徳の授業にディベートを取り入れた例と、常葉橘小学校の英語の授業で協同学習に取り組む例を紹介しました。

 

 ディベートとは、時に自分の考えとは違う立場に立って意見を言い、議論することがあります。これを続けると、自分とは違う他者を理解する力が付きます。

 協同学習とは、小グループに分かれ、子どもたちが仲間で教え合って進める授業方式で、フィンランドあたりではほとんどこの方式。先生が教壇に立って一方的に進める授業はほとんどないそうです。

 

 とくに小学校での英語は、小さい頃から英語塾へ通うなどして進んでいる子と、そうでない子がいるので、子ども同士が教え合い、助け合って学習するうちに、いじめがなくなったと言います。先生は、どうしてもついていけない子がSOSを出した時だけサポートするそうです。

 いずれも、子ども同士で接する時間が長くなればなるほど互いの違いを理解し、助け合い、認め合うようになれば、いじめや差別は自然になくなる、というわけです。

 

 

 「学校はこれまで、人間とは何かを教えてこなかった。けっして一人では生きられない生き物であるということを」と金先生。ご自身は学生に、「読む、書く、聞く、語る」の訓練を徹底させたといいます。

 これは児童や学生だけでなく、自分たち大人も、今更ですが必要な訓練かもしれません。私自身は、ブログを書き始めて、自分の何気ない言葉づかいが他者を傷つけていないかどうか、職業ライターである以前に、一人の人間の行動規範として考えるようになりました。

 

 それは、何より、言葉にして伝えるということが大事だから。人権宣言とは、世界から言われた言葉ではなく、自分たちから世界に向けて発する言葉に相違ありません。

 


エピファニーのセルリー料理

2008-12-06 10:50:30 | 農業

Imgp0113  昨日(5日)は、三ケ日の入河屋さんの取材の後、浜松市のフレンチレストラン『エピファニー』でセルリー料理の取材。店名はよく耳にしますが、実際に訪ねるのは初めてです。

 

 浜松って、フレンチの名店が多いんですね。しかも三鞍山荘の今井克宏さん、シェ・モリヤの守屋金男さん、ホテルコンコルド浜松総料理長佐渡文男さんのようなスターシェフが多い。もちろんエピファニーの南竹英美さんもその一人。

 聞いたら、みなさん、その昔、県西部地区では初の本格的西洋料理店だった『浜松会館オーク』の出身で、オークの看板シェフだったのが今井さん。そのお弟子さんたちが、今、独立して浜松の洋食文化を支えているのです。

 

 県西部地区のJAが、西洋野菜の産地化に力を入れるようになったのも、その使い方をきちんと知っている料理人が浜松にたくさんいたから、とも言えるわけです。日本酒居酒屋が専門の私は、フレンチの世界にとんと縁がなかっただけに、ヘェ~と感心しっぱなしでした。

 

 

Imgp0102  エピファニーも開店25年の老舗。浜松フレンチの伝統を継ぐ名シェフが、旬のセルリーを使ってどんなマジックを見せてくれるのか、楽しみにうかがったのですが、南竹さんが披露してくれたのは、いたってシンプル。

 冷凍ピザ生地に薄くスライスしたセルリー&サラミ&モツァレラチーズを乗せただけのピザと、ザク切りセルリーとベーコンをにんにくバターで軽くソテーして、それにブイヨンスープとホワイトルー(小麦粉をバターで炒っただけ)を加え、コトコト煮込んでミキサーで濾しただけのスープを、パパッと作ってくれました。

 

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 ピザにはソースも調味料もまったく使わず、素材をのっけただけ。スープも、ホワイトルーを作るのがちょっと面倒ですが、それ以外は造作なし。「これを飲むと、セルリー嫌いが一発で治るよ」と南竹さんは太鼓判をおします。

 

 あまり手を加えないのは、「とくに冬場に静岡で作られるコーネルという品種は、夏場の長野で作られる筋っぽい品種とは違い、みずみずしくて食べやすい。草原で寝転んでいるときの爽やかな草の香りがする。これを生かすにはよけいな味付けはしない」とのこと。

 

 

Imgp0111  セルリーは、アメリカ文化の影響か、生のスティックをボリボリ食べるスタイルが先行し、好き嫌いがはっきり分かれてしまったのですが、フレンチの考え方でいけば、「セルリーは、火を通してこそ美味しくなる」と南竹さん。フレンチでは本来、濃厚な風味のセロリラブ(根セロリ=写真)を使うことが多いので、目下、地元の農家にけしかけ、根セロリづくりにも挑戦してもらっているそうです。

 

  

 地元農産物は、本来、南竹さんのような地元料理人や消費者が、どんな作り方・食べ方をするかを考え、ニーズに応える生産のあり方が望ましいと思います。浜松に、フレンチの食文化を育てた店や料理人が存在したことが、浜松の特産野菜の産地構造を変えた一因になっているはず。農家と料理人が共存共栄の気持ちで取り組めば、地産地消の基盤も堅固になるはず、と実感しました。

 

 

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 南竹さんイチオシのセルリースープは、冷凍にしたものを通販で入手できますので、ホームページをぜひご覧くださいまし!


最中とゼリー

2008-12-05 22:16:48 | 農業

 今日(5日)は県商工会連合会フルーツゼリー開発事業に参画のお菓子屋さん訪問第2弾。大雨の中、車を飛ばして、『みかん最中』で知られる三ケ日町の入河屋さんを訪ねました。

 

Imgp0093  店舗は浜名湖畔にあるモダンな建物。取材していた1時間余りの間、外は嵐のようなお天気なのに、お客さんがひっきりなしにやってきます。街中の商店街でもなく、特別セールをやっているわけでもないのに、すごいなぁと感心しっぱなし。

 

 

 創業は明治18年という老舗で、現オーナー松嵜哲さんで4代目。ここ三ケ日町下尾奈にある本店のほか、遠鉄百貨店地下、そして昨年、豊橋湊町店が新規オープンしました。場所柄、浜名湖一円や愛知県新城市や豊橋市あたりからもお客さんがあるんですね。

 当然、ウリは三ケ日みかんの加工菓子。みかん最中は、昭和初期にこの地でみかん栽培が本格的に始まった頃、2代目と3代目が試行錯誤して生み出した看板菓子です。

 

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 生でおいしいフルーツを菓子にするのは本当に難しいようで、果汁をたくさん使えばいいってもんでもないんですね。「フルーツの美味しさとお菓子の美味しさは、美味しさの質が違う。お菓子の場合は味プラス食感と風味が必要です」と松嵜さん。みかんは、完熟期のものではなく、夏場の青いみかんを使います。香り成分フラボノイドがこの時期のみかんに最も多く含まれているからだそうです。

 確かに、完熟みかんなら、どんなに手練手管で加工しても、生食には勝てないようです。

 

 みかん最中は70年を超えるロングセラーとなり、今も全売り上げの3割近くを占めています。松嵜さんは毎年5~6種類の新作を発表していますが、「みかん最中に勝てるものが、なかなか作れなくて」と苦笑い。ご本人は、チーズケーキでおなじみ、まるたやで洋菓子修業をし、当時、まるたやがスイスから招いた伝説的パティシエ、ポール・ゴッツェ氏に師事し、いい素材との出会いを第一にし、いい素材を生かす菓子作りをトコトン学びました。店頭には入河屋の伝統和菓子と、松嵜さん自慢の洋菓子、あわせて常時40種ほど並びます。

 

 

Imgp0086  「幼い頃、店の工房で見た、赤光りする宝石みたいな小豆が単純にきれいでおいしそうだなぁと思って眺めていた。今、使っている北海道帯広の中藪俊秀さんの小豆は、最初見たとき、いぶし銀みたいで、ピカピカには光っていなかった。光る小豆は、ワックスをかけていたと知ったんです」。

 

 浜松はつぶあん、豊橋はこしあんの文化だといいます。皮をそいで炊くこしあんのほうがひと手間かかる分、高級感があるとされます。

 一方、つぶあんは、小豆そのものの質がわかるだけに、つぶあん文化の土地は、そもそもいい小豆の産地だったともいえるわけです。浜松と豊橋の中間に位置する入河屋では、どっちも手を抜けません。いい小豆を求めて出会ったのが帯広のこだわり農家中藪さんだったのでした。

 みかん最中と並んで、中藪さんの小豆の実力が存分に味わえる「本小豆最中・波満満津(はままつ)」も、松嵜さん入魂の作品です。

 

 

 最中やおまんじゅうがしっかり美味しくて売れてるお菓子屋さんって安心できますよね。とはいえ、ご当人はゴッツェ氏直伝の洋菓子職人としての技が発揮できる、次なるヒット作も欲しいところ。「この世界、努力したからって必ず報われるわけでもなく、何が幸いしてヒットするか分からない」と語る松嵜さんが、帰りがけにお土産に持たせてくれた『モーンシュトレン』は、ゴッツェ氏の得意菓子だったものを独自に再現した、芥子の実ペーストの焼き菓子でした。

 

 

 今回の事業で開発するみかんゼリーも、すでに入河屋で商品化されている蜜柑ゼリーとはひと味違うもの。努力=成功とは限らないかもしれませんが、努力なしで成功はないと思います。努力し続ける粘りと根気が、老舗のパワーの源泉!なんですね。