黒羽郵便局前から市営バスに乗り雲巌寺にやって来ました。
雲巌寺は鎌倉時代に建てられた禅寺で臨済宗妙心寺派の名刹。春の新緑や秋の紅葉も素晴らしいが冬の雪景色は特に素晴らしいとのことです。
朱塗りの橋の下には(瓜瓞橋)は武茂川の渓谷が新緑の明るい雰囲気を醸し出しています。
陽暦の5月23日、芭蕉と曾良はこの橋を渡り長い階段を登り参拝したんですね。
曾良の日記には「雲岩寺見物。朝曇。両日共ニ天気吉」とあります。
まさに今と同じ季節、300年以上前昔も新緑と鶯の鳴き声が山々に響いていたと思うと感慨深いものがあります。
もっとも奥の細道は卯月(旧暦4月)だが寒いと書いてあります。
三門から仏殿を見る。
雲巌寺は芭蕉の心の師匠ともいうべき仏頂禅師が若い頃に修行していました。
仏殿
芭蕉は仏頂禅師と深川で知り合い交流を深め、その無欲さに感銘を受けぜひとも師の足跡を自分もたどってみたいと思ったようです。
鐘楼
今も昔も有名な人が訪れた場所を行ってみたいと思う気持ちは人情でしょうか。
松や杉の木が生い茂り、苔の生す暗い道を辿ると山門に着くと書いてありますが、境内は広く開けていて庫裡がありました。
裏手に仏頂禅師が修業したという場所があるらしいですが立ち入り禁止みたいです。
5月の連休とはいえ訪れる人もまばらで森閑としていました。
今頃鎌倉なんかは観光客でお祭りのようでしょうか?
今でもこんなに静かなのですから300年頃の昔はどんなにか寂しかったでしょうか。
でも修行するにはぴったりの場所かも。浅草寺なんかで修行していると夜になると吉原が近いのでムズムズして落ち着かないかもしれませんね。
門前にお土産さんもなく、バスの停留場前に移動販売の軽トラックがジュースやお菓子を売っていました。
仏殿に下る急階段
仏殿と山門
これだけ見ても山が深いという感じです。
御朱印をいただこうと声をかけましたが誰も出てきませんでした。
ちょっと尻切れトンボになりました。かなり不便な感じもしましたが何とか雲巌寺を参拝しました。
マイカーで来た方が便利のようです。ご隠居は近所で乗るだけで車で遠出はしません。知らない場所では事故を起こしそうです。
奥の細道(雲厳寺)
当国雲岸(厳)寺のおくに、仏頂和尚山居の跡あり。
下野の国雲巌寺の奥に仏頂和尚が山ごもりをされた跡がある。
堅横(たてよこ)五尺にたらぬ草の庵
むすぶもくやし雨なかりせば
縦横が5尺(約150cm)にも足らぬ草庵だが、その草庵を造ることさえ、自分にとっては残念なことだ。もしも雨さえ降らなければ。
と、松の炭して岩に書付侍りと、いつぞや聞き給ふ。
とたいまつの消し炭で岩に書きつけましたと、以前に和尚が語っていました。
其跡みんと雲岸(厳)寺に杖を曳けば、人々すすんで共にいざなひ、若き人おほく道のほど打ちはぎて、おぼえず彼麓に到る。
その後を見学しようと雲巌寺に出向くと沢山の人が勇み立って互いに誘い、若い人も多くにぎやかに談笑しあってあっという間に寺のある麓に着いた。
山はおくあるけしきにて、谷道遥に、松杉黒く苔しただりて、卯月の天今寒し。
山は奥深くて谷あいの道がはるかに続き、森が黒々と生い茂り苔の雫が落ちて夏4月というのに冷え冷えと寒い。
十景尽(つく)る所、橋をわたって山門に入る。
雲巌寺10景を見ながらその終わるところで橋を渡って山門にはいる。
さて、かの跡はいづくのほどにやと、後ろの山によぢ登れば、石上の小岩窟にむすびかけたり。
仏頂和尚の庵の跡を探して、寺の後ろの険阻な山をよじ登ると小さな庵が岩窟にもたせ立ててある。
妙禅師の死関、法雲法師の石室をみるがごとし。
伝え聞く「妙禅師の死関」(南宋時代の高僧)「法雲法師の石室」(不詳)を見ているような気がする。
啄木鳥も(きつつきも) 庵(いほ)はやぶらず 夏木立
周囲はキツツキが木を突く音でうるさいのにこの小屋は突かれた跡がない。キツツキも小屋の以前の主人を敬い遠慮したんだろう。
と、とりあへぬ一句を柱に残し侍し。
と、当座即興の一句を書きつけ柱に掛けて記念とした。
「今日は初夏といのに寒いねぇ」
「あたしゃ寒くても馬鹿だから風邪はひきませんよと翁に言われる前に言っておきましょう」
「しかし容赦なく月日は流れ新緑の美しい季節になった!」
「ダンベェ言葉を使う下野(しもつけ)の人々の心の優しさにふれながらみちのくが近くなってきましたね」
「ところで翁は体調は如何ですか?江戸からずいぶん歩きましたよ」
「僕は元気だよ。それより曾良さんは成人病が沢山ありそうだけど途中で医者でも有ったら検査でもしてもらったら!」
「それでは体調のすごくいい時に診てもらいましょうか」
「具合悪い時に診てもらうんじゃないのかい?」
「検査の結果が悪いと薬を増やされるから状態のいい時行って医者に褒められるぐらいがいいんですよ」
「訳わからない」
「翁と歩いていると気を使って神経がまいるので東城大学医学部、不定愁訴外来、通称愚痴外来の田口講師にでも診てもらいたい」
「愚痴外来とはなんだい?」
「フジテレビのドラマ観ていなかったんですか?結構ミステリアスで面白かったですよ」
「とにかく世の中訳わからないことが多いんですよ」
「そういえば江戸でもベッキーだ、升添だ、清原だと次々と吊るし上げにあってているね」
「だいたい自分には何の被害がなくても怒っている人が多いですね」
「月光仮面のような正義の使者が多くなっているのかね」
「月光仮面とはまた古い。スパイダーマンぐらいと言ってほしい」
「何はともあれ我々は元気で粛々と奥の細道の旅を続けましょうかね」
「粛々となんていうとどこかの官房長官みたいに上から目線だとか非難されますよ」
「怖いね」
海堂尊作 「第4回このミステリーがすごい!」大賞受賞、続編の「ジェネラルルージュの凱旋」も面白かった。
ドラマのあと映画にもなりましたね。映画は観ていませんが主人公を田口公子という女性に設定して竹内結子が演じたみたいですね。