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大砂嵐 土俵に砂塵を

2013-06-02 08:35:19 | 編集手帳
5月30日 編集手帳

北国の高校を卒業した多喜子は上京して住み込みのお手伝いさんになる。
母親が言った。
「他人の家の飯には棘とげが入っている」。
つらいこともあるね、と。
石坂洋次郎の『風と樹と空と』である。

昭和30年代の小説だが、
子供を遠く送り出す親の、
波立つ胸の内は今も変わるまい。
まして異国の、
ひときわ特異なしきたりの残る相撲界である。
親御さんの心配は募ったろうと拝察する。
エジプト出身の大砂嵐おおすなあらし(21)(大嶽部屋)が十両に昇進した。

イスラム教徒ならではの苦労もしている。
日の出から日没まで飲食を禁じるラマダン(断食月)がある。
戒律で豚肉は食べられない。

豚肉抜きの別メニューを用意するなど、
文化の違いが「いつか横綱になる」夢を傷つける“棘”にならぬようにと、
師匠をはじめとする周囲の人々が寄せた心遣いに支えられての昇進である。
一人暮らしをする息子や娘を思い浮かべながら、
そのニュースに親代わりの心持ちで拍手を送ったファンもいるだろう。

祖国に広がる砂漠にちなんだ四股名しこなという。
得意の突き押しで土俵に砂塵さじんを舞わせるのもいい。
大砂嵐金太郎。
いい名前である。
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