12月31日 編集手帳
昭和のコメディアン、古川ロッパの日記を読んでいて「ワニワニ」という言葉を知った。
〈腹うんと減ったところへ天ぷらワニワニ食ふ〉。
勢いよく動く箸が目に見えるようで楽しい。
擬音語(ワンワンなど)と擬態語(ニヤニヤなど)を総称してオノマトペという。
この欄でも時どき使うが、
ささやかな経験から言えば使えるのは、
気楽なテーマに限られるようである。
上司に叱られた人は「ションボリ」でいいが、
仲間はずれのいじめに悲しんでいる子供には使いたくない。
わが子の死に涙する両親の形容に「サメザメ」「シクシク」の出る幕はなかろう。
どうやら深刻な場面が苦手な言葉であるらしい。
噴火に台風と、
出来合いの形容を寄せつけなかった悲劇の記憶を残し、
年が暮れる。
皆さんのめくる暦に、
たくさんの愉快なオノマトペがありますように。
もはやワニワニとは食べられない年齢だが、
土鍋の「グツグツ」にはいまも心ひかれる。
〈鮟鱇(あんこう)もわが身の業(ごう)も煮ゆるかな〉(久保田万太郎)。
酔えば、
書き散らかした一年の恥と悔いに独り言も出るだろう。
「グ」がいつか「ブ」に煮崩れて除夜の鐘。