1月15日 編集手帳
活字中毒者を自任する人は世間に多いが、
読書嫌いを公言する人はあまりいない。
“傑物”と称される成功者には、
なおのこと稀(まれ)である。
ホンダの創業者、
本田宗一郎さんはめずらしい一人であったろう。
〈僕は、
本を読むのが嫌いだ。
本というものは過去のものしか書いていない〉。
ソニーを創業した井深大さんが著書『わが友 本田宗一郎』(ゴマブックス刊)に収めた本田語録にある。
日頃「活字文化」の旗を振っている小欄には少々困ったお説 だが、
『本』がお題の歌会始の儀を報じる記事を読んでいて、
ハタと気づいた。
終生衰えることのなかった溌剌(はつらつ)たる精神が言わせた言葉であったか、
と。
〈この本に全てがつまつてるわけぢやないだから私が続きを生きる〉。
今年の入選者では最年少、
小林理央(りお)さ ん(15)(神奈川県)の一首である。
書物に書かれてあることの“続きを生きる”生涯青春を貫いた独創と情熱の企業家は、
「わが意を得たり」と泉下でほほ笑んでいよう。
欧州経済に濃い霧のかかるなか、
多くの企業が手探りで船出をした年の初めである。
その人、
いま世にありせば、
の思いを深くする。