1月20日 編集手帳
死の遠からぬことを予期し、
遺言のつもりであろう。
「長崎の鐘」の永井隆博士は病床で、
幼い二人の子供にいくつかの言葉を書き置いている。
名前の売れる ことを戒めた一文がある。
〈有名になるな!
名前なんてものは、
茶の間で、
あめ玉がわりに一分間しゃぶられるだけのもの…〉にすぎない、
と(著書『この子を残して』)。
悲しいかな一年に一人や二人、
博士に泉下から叱ってほしい歪(ゆが)んだ“有名病”患者が紙面を騒がす。
「発言力を増すため、
有名になりたかった」。
建造物侵入の容疑で逮捕された無職の少年は供述しているという。
東京都内のスーパーで菓子の容器につまようじを刺したり、
万引きを装ったりする動画がネットに投稿された事件である。
有名になって何を発言したいのかは知らないが、
つまらぬ1分間のあめ玉に終わるだけだろう。
持論を磨き、
説得術を鍛え、
共感の輪を広げる。
発言力を増すのにも年季がいる。
〈ボウフラが人を刺すよな蚊に なるまでは泥水飲み飲み浮き沈み〉。
世の論客も若い頃は皆、
泥水飲み飲み育ってきた。
春秋に富む19歳が飲む手間暇を惜しんでどうする。