5月25日 編集手帳
夫人が存命のうちに、
墓石に彫る言葉を考えたご亭主がいる。
17世紀英国の詩人ジョン・ドライデンである。
〈ここに葬られしはわが妻。
安らかに妻を眠ら せたまえ!
今ようやく妻は心安らぐ、
私もまたしかり〉
(大修館書店『〈さようなら〉の事典』)
末尾の1行が読む人をニヤリとさせる。
この墓碑銘もそう だが古今東西、
結婚にまつわる警句や格言に醒(さ)めたまなざしが多いのはなぜだろう。
結婚賛歌の名言が欲しい時代かも知れない。
昨年の婚姻件数は63万5096組と、
戦後で最少になったという。
人口そのも のが減っているのだから当然とはいえ、
何となく元気の出ない統計ではある。
結婚賛歌の都々逸がある。
〈目から火の出る所帯を持てど
火事さえ出さなきゃ水入らず〉。
そうは言っても、
血走った目から火の出そうな“火の車”の所帯を好きこのんで持とうとする人はいまい。
つまるところ待ち遠しきは、
家計の潤う経済成長に結論は行き着くようである。
余談ながら、
妻の墓碑銘を用意したドライデン氏は先に逝き、
夫人のほうが14年も長生きしたという。
いつの世も、
未来は見通しがたい。