11月18日 編集手帳
キャッチボールに興じる親子を見つめた詩が杉山平一さんにある。
一球一球に感応して言葉が紡がれていく。
〈投げる
受ける
声にならないもの
言葉にならないものを
吐き出している
受けてなぐさめている〉
『父と子』という一編である。
ボールのやりとりを通して子供の心を受け止め、
確かめて、
そっと寄り添う。
親としての役割を果たしていくひとつの姿なのだろう。
透徹した詩句とかけ離れた現実もある。
幼子の声にならない叫びが、
誰にも届かなかったのか。
行方不明になっていた堺市の男児(4)とみられる遺体が見つかった。
逮捕された父親の供述通り、
大阪府南部の山中に埋められていたという。
父親は何度も言を翻した末、
「私の暴力で死んだ」と認めた。
虐待が繰り返されていた疑いもある。
さぞ怖くて、
苦しかったことだろう。
母親も関わっていたというから、
なおさら胸が痛む。
児童相談所も自治体も何をしていたのか。
先の詩はこう結ばれる。
〈勝ち負けもないのに
父と子が
キャッチボールをしている〉。
許し難い事件の戒めに、
無私の情愛でつながる親子の姿を夢想してみる。