10月26日 おはよう日本
京都市内のデパートのだしを取りそろえたコーナーで特に人気なのが
“あご”トビウオを使っただし。
人気のあごだしに続く新たな動きが出ている。
京都府庁でお披露目された“だし”の新商品。
京都府や漁協、加工業者などが連携し2年がかりで完成させた。
「甘みがある。」
「口の中で余韻が残っておいしい。」
原料となったのはサワラの幼魚“サゴシ”である。
京都府はサゴシを含むサワラの漁獲量が全国でもトップクラスである。
漁獲量は近年急激に増えこの10年ほどで約2倍に跳ね上がった。
温暖化による漁場の変化が要因だとみられる。
しかし大量に獲れるサゴシが漁業者の新たな悩みの種となった。
高級食材として人気のあるサワラに対して
サゴシは知名度も低いうえに脂も少なく
消費が伸び悩んでいるのである。
(京都府漁業協同組合 佐久間幸一参事)
「小さいものだと皆さん敬遠されがち。
かなり安い。
サワラの半分以下の値段になてしまうという。
漁師さんにとっては大変厳しい。」
そこで京都府がサゴシの有効活用に乗り出した。
新たな京都ブランドの商品を作ろうと魚の加工業者などに声をかけた。
(京都府流通・ブランド戦略課 辻大地副主査)
「小さいサゴシは脂身が非常に少なく
“だし”に向いているのではないかと
これはもしかしたらいけるのではないか。」
京都府の呼び掛けに応じたのは漁協と魚の加工業者など4者である。
舞鶴市の業者では生の魚をゆでて乾燥させる“煮干し作り”の工程を担当した。
最初はゆでやすくするため開きにして骨を取り除いていた。
しかし骨と一緒に身も切り落としてしまい
だしがとれる部分が少なくなってしまった。
そこであたまや内臓をとって魚を丸ごとゆでる方法に切り替えた。
ゆでて乾燥させる時間は2倍以上かかるが
コスト的に見合うだけの煮干しを作ることができるという。
(嶋一水産 嶋田隆廣さん)
「製造ラインも商業ベースにのることも確認できた。
期待している。」
煮干しを粉末のだしに加工するのは削り節などを製造するメーカーである。
サゴシの旨味を引き出すため日本料理店の料理人にもアドバイスを求め
サゴシにブレンドする素材を追求してきた。
その結果 カタクチイワシ、ウルメイワシ、昆布、しいたけの4種類を選択した。
(開発担当者)
「サゴシの美味しいところ
上品な甘さと澄み切った味
旨味が消えないようにするために最終的にこのブレンドになった。」
このメーカーではすでに小売店などからの問い合わせが相次いでいることから
さらに生産量を増やすことにしている。
(福島鰹 福島辰治工場長)
「実際に飲んでいただいて食べていただいて
甘みがある特徴を感じていただいて
おもしろいねと。
京都府と言えば“サゴシだし”と言われるような存在になりたい。」
2年がかりで販売にこぎつけた京都発の“サゴシだし”。
今後さらに消費者に受け入れられるか
期待が高まっている。
10月25日 おはよう日本
義足のダンサー 大前光市さん。
障害者のスポーツの祭典パラリンピックの閉会式で
東京をアピールする大役を任された。
(プロダンサー 大前光市さん)
「初めてですよ 何から何まで。
僕の中ではすごいチャレンジでした。」
大前さんは岐阜県下呂市出身。
現在は大阪を拠点に活動している。
左足に付ける義足は動かしやすいように独特の形に改良している。
不安定で筋力も弱い左足。
ハンディを言い訳にしたくない
だからこそトレーニングを重ね体を作り上げていく。
(プロダンサー 大前光市さん)
「普通じゃだめだというのが僕はある。
負けず嫌いなんでしょうね。」
大前さんは下呂にいた高校時代
舞台の華やかさにあこがれプロのダンサーになろうと志した。
しかし大阪で夢を追っていた23歳のとき
交通事故に遭い
左足の膝から下を失った。
一時はあきらめかけていたダンサーへの道。
それでも夢を追い続けられたのは
4年前に亡くなった定夫さんの生き方に勇気づけられたからである。
建設現場で泥にまみれ地道に働く父の姿が
続けることの尊さを教えてくれたという。
(プロダンサー 大前光市さん)
「作業着を着て
格好悪いなと思っていたけど
コツコツやっているのはだんだん魅力に変わってくる。
ぶざまでもいいから続けていく
そういう格好良さを目指せと言われているような感じがします。」
続けることで大前さんはダンサーとしての可能性を切り開いてきた。
ほかのダンサーには無い個性的な技でダンスの幅を広げたい。
それが“バク転”である。
(プロダンサー 大前光市さん)
「“必殺技”みたいなものがほしくて。」
より難しい片足でのバク転。
試行錯誤を繰り返し徐々にコツをつかんでいく。
最近では片足でも連続して回転できるようになった。
(プロダンサー 大前光市さん)
「最初 片足でバク転なんかできないと思っていた。
何度も諦めそうになって
でもとりあえずやろう。
とりあえず続けてみたらだんだんできるようになって。
だから続けていくことが大切。」
パラリンピックの閉会式。
大前さんは片足で4回連続のバク転を見事に成功させた。
(プロダンサー 大前光市さん)
「短い足の人がバク転をしている。
わーすごいって魅力になって伝わった。」
パラリンピックの大舞台から3日後
一躍時の人となった大前さんは故郷の下呂市で再び舞台に立っていた。
自ら創作したダンス。
過去を乗り越えて新たな希望に向かう自分を表現している。
義足で踊ることで
観る人に目標に向かって挑戦し続ける勇気を与えたいと言う。
(プロダンサー 大前光市さん)
「すべての人が今の自分の可能性にチャレンジするモチベーションになってくれたらいい。
うまくいかないけれども頑張って続けるとか
工夫したりとかやっていく先に見えてくるものがある。
それが見えるまでやり続けて欲しい。」
パラリンピック閉会式で披露したバク転は当初2連続の予定だったが
大前さんは本番前により難しい4連続に変更したそうである。
しかし練習で手首を痛めてしまい
一度も成功しないまま本番を迎えたということだが
痛み止めを飲んで
見事に4連続のバク転を決めた。
4年後の東京パラリンピックでもダンサーとしてイベントなどに出場できるよう
新たな表現や技に磨きをかける大前さんの挑戦は続く。
10月24日 国際報道2016
製造業が集積し中国経済の発展をけん引してきた南部広東省。
ここで10月に開かれた博覧会のテーマはInternet Plusインターネット・プラス。
中国政府肝入りのイベントで
国内外から450の企業が参加した。
展示の中心は産業用ロボットをインターネットで管理し生産の効率を上げるシステムである。
(工場担当者)
「インターネットで工場の自動化が進めば
従業員を削減でき効率もあげられます。」
インターネット・プラスとは
ITを活用して様々な産業の効率化と高度化を進めていくという
新たなキーワードである。
中国政府は去年
インターネット・プラスを国家戦略とする方針を宣言。
中でも力を入れている分野が製造業である。
(李克強首相)
「製造業は中国にとって優位性のある産業だ。
インターネット・プラスの行動計画を制定し
さまざまなインターネットの分野と現代の製造業との結合を推進する。」
中国で安い労働力が魅力だったのは今は昔。
人件費が高騰し
むしろ「成長の妨げ」とまで言われている。
中国政府はその製造業をインターネットの活用で大きく変換させようとしているのである。
企業もその波に乗ろうとしている。
スマートフォンのケースを製造する会社の社長 陳冠義さん(40)。
陳さんは比較的安いコストで導入できるスマホアプリの活用を思いついた。
(陳冠義さん)
「産業用ロボットは高価なので
まずインターネットで情報の共有化を進めることにしました。」
社内にアプリ開発チームを作り
製品の受注管理や社員の勤務管理をするアプリを次々に開発した。
製品にはすべてQRコードを付けアプリで一元管理する。
取引先もアプリを使って発送の状況などを確認できるため
電話やメールをやり取りする担当者が不要になった。
(陳冠義さん)
「ここに1日分の注文が表示されます。
きょうは13万9,460個の注文がありました。」
今では管理部門の30人分の仕事をアプリがこなすようになったという。
(陳冠義さん)
「中国では工場のほとんどが表計算ソフトを使っています。
ITを使い
将来的には大部分の工場が私たちのように変わっていくでしょう。」
陳さんのアプリの評判は周辺の工場にも広がっている。
パソコンを組み立てる工場も生産の効率化が課題だった。
(パソコン工場 会長)
「私たちは1人あたりの生産性を上げ
同時にITを導入し人を減らす必要があります。」
そこで今年から陳さんのアプリを導入。
さっそく人員の配置を見直した。
(パソコン工場 会長)
「陳さんのシステムを導入して100人の人員を削減しました。」
安い労働力で支えてきた「世界の工場」中国。
いまインターネット・プラスの波がその姿を変えようとしている。
10月22日 経済フロントライン
アニメやゲームなどに登場するようなキャラクター萌えキャラ。
最近では萌えキャラを独自に作り上げ
積極的にビジネスに活用しようという動きが広まっている。
羽田空港にあるWi-Fiルーターを貸し出す会社のカウンター。
10月 ここに萌えキャラが登場した。
江戸時代からタイムスリップしてきた忍者「さくらSAKURA」と「たけるTAKERU」。
外国人観光客に人気の忍者でアピールしようというのである。
(スイスからの観光客)
「日本のマンガが好きな外国人って多いのよ。」
(ルーターレンタル会社 ビジョン 営業本部長 太田健司さん)
「絵を見ただけで
これは日本のものだという印象は
他の国ではまねができない。」
萌えキャラをビジネスに積極的に活用しようとしている会社が静岡市にある。
萌えキャラで商品の売り上げを伸ばして企業をサポートしている。
まず企業から商品の特徴や販売するターゲットを聞き
ネットでデザインを公募。
アニメーターの卵などの応募作品の中からイメージに合う萌えキャラを採用する。
萌えキャラ作りは1件あたり約30万円。
そのうち半分程度がこの会社に入る仕組みである。
(公募システムを運営 エスクリエイト社長 石川雅章さん)
「新しい市場
新しい客をつかみたいという悩みがたくさんある中で
萌えキャラを使うことによって
今までにない客を見つけていることが一番効果が出ているところ。」
この会社が生み出した萌えキャラはすでに大きな成果を上げている。
伊豆半島の西に浮かぶ水族館 あわしまマリンパーク。
オープンして40年ほどになるが
最近 来場者の低迷に頭を悩ませてきた。
そこで去年作ったのが萌えキャラの淡島うみね。
特徴は青に黄色のコスチューム。
このあたりの海に数多く生息するアオウミウシをモチーフにした。
(来場者)
「かわいーい。」
「アオウミウシの特徴も出ていて
触覚とか。」
関心を集めたのがプロフィール。
性別をウミウシと同じ“雌雄同体”にしたところ
ネット上で1日で1万件を超える反響が寄せられたのである。
雌雄同体って笑える!!
ふだんは女の子。・・・ふだんじゃない時ってどんな時なんだ
こうした反応を受け
お姉さん淡島おとめや幼なじみ内浦ましろのキャラクターまで作られた。
うみねをめぐる物語がどんどん膨らんでいき
来場者の増加につながったのである。
(あわしまマリンパーク 館長 伊藤裕さん)
「“雌雄同体”に皆さんぐっときたが
それは狙っていたわけではない。。
でも今となってはウミウシでやっていて良かった。」
萌えキャラをもっとも活用しているのが食品業界である。
その1つ
海苔などの加工販売を行う会社。
いま力を入れているのが
桜エビをふんだんに使った高級ふりかけ。
年配の人だけでなく若い世代にも売り込もうと
萌えキャラを作ることにした。
デザインを公募して3か月。
決まったのが
高級感を醸し出そうと
お屋敷に住む双子と執事という組み合わせ。
桜エビをイメージしたキャラクターカオルとシュリン。
そして若い女性にアピールしようとイケメンの執事レイバーを加えた。
(磯駒海苔 営業担当 志村辰徳さん)
「今までのままでやっていたら淘汰されるかもしれないので
若い客を取り込むツールとしては面白い。」
この萌えキャラの物語性をさらに高めようと
別の商品とのコラボも模索している。
静岡市内のお茶専門店。
子の店の萌えキャラは清水の次郎長のモチーフである。
双子のキャラクターが次郎長と出会ったり
執事が弟子入りしたりといったストーリーを考えて
一緒に売り出そうとしている。
試しにふりかけにお茶注いで飲んでみると
「これ いけますよ。
アリ!」
「うまい。」
商品同士の愛称は上々のよう。
今後 消費者の関心を集められるか。
10月22日
今年8月 東京台場。
地域でのジビエ活用を加速させる切り札が発表された。
“移動式解体処理車”である。
捕獲の現場に出向いて処理を行う。
国の補助金を受け
ジビエの普及団体とトヨタ自動車が開発した。
この車の中では処理施設と同じ機能が備わっている。
解体したら素早く冷却。
現場ですぐに作業するため新鮮で臭みのない肉を提供できる。
価格は1800万円ほど。
処理施設と比べて安いため自治体が導入しやすくなっている。
(千葉県鋸南町 町長 白石治和さん)
「ちゃんとした施設を作ると1億円以上かかるという話なんですよ。
イノシシの解体をするのに活用できるでしょうね。」
100以上の自治体や食品メーカー
それに政府関係者が訪れた。
(前地方創生相 石破茂さん)
「いま東京でも大阪でもスーパー行ってジビエのお肉ってないよね。
それが流通にまわっていくようになる。
家庭で『今日はシカ肉ステーキ食べようね』『わーい』みたいな
そういうことになるのが我々の理想ですね。」
ジビエは地域を活気づける手立てとなるのか。
注目されている。
10月22日 経済フロントライン
愛媛県松野町
人口約4000の山あいの町である。
主な産業は農業である。
長年シカやイノシシの被害に苦しんできた。
収穫前の田んぼが一面食い荒らされることもある。
(農家)
「大損害 全損よこれ。
大じゃなく全損害じゃ。」
そこで町は2年前に3600万円をかけてジビエ専用の食肉処理施設を建設した。
野生動物の捕獲を増やし
農業被害を減らそうと考えたのである。
次第に全国からジビエを購入したいという商談が舞い込むようになった。
この日訪れたのは東京のレストラン経営者である。
(東京のレストラン経営者 松井理恵子さん)
「ジビエを定番メニューに取り入れていきたいので
定期駅に購入させていただきたいなとは考えております。」
現在取引先は全国に60店以上。
年間400万円を売り上げている。
町ではジビエを使った商品を増やし特産品に育てていこうとしている。
(食肉処理施設 施設長 森下孔明さん)
「本当にうれしい悲鳴で
すごくうれしいです。
どうしても需要が多いもので供給が間に合わないということも多いので
体制をもっとしっかり整えたうえでこれからどんどん広げていきたい。」
ジビエの需要が増えたことでハンターによる捕獲量は3倍に増加。
期待どうり農作物への被害は3分の2に減った。
これまで捕獲しても山に埋めることが多かった野生動物を
有効に利用できるようになり
好循環につながっている。
(ハンター)
「今までは無駄にしよったんけんどね
せっかくの獲物やから食べてもらわなんだらつまらないね。」
10月22日 経済フロントライン
フレンチの高級食材として知られる“ジビエ”。
シカやイノシシといった狩猟で得た野生動物の肉である。
個性的な味に加えヘルシーさや栄養価も高いと
このところ若い世代を中心に人気である。
しかし平成26年度の農作物被害額191億円のうち
実に6割をシカとイノシシが占めている。
捕獲されそのほとんどが廃棄されているが
その肉が企業にとってうまく流通すればビジネスチャンスになり
地域にとっては農業被害の軽減だけでなく
一定の収入にもなりうる。
そして消費者にはジビエとして提供される。
一石三鳥となるのか。
福岡に本社を構える大手スーパー マックスバリュ九州。
精肉売り場にはこれまで並ぶことのなかったイノシシ肉。
今年3月から販売を始め
扱う店を19店舗にまで増やしている。
(来店客)
「イノシシて売ってないでしょ あんまり。」
「スライスしてあると買いやすいですね。」
売れ筋は「イノシシ肉肩ロース」100g 490円。
豚肉の3倍ほどの値段だが売れ行きは好調である。
(マックスバリュ九州 畜産部長 田口雄樹さん)
「スーパーマーケットに並ぶのは初めての取り組みだと思うので
そういう意味では一般の消費者が手に取りやすくなった。」
スーパーで常時販売できるようになったのは
専用の食肉処理施設が各地に整備されたからである。
野生動物な寄生虫は病気を持っていることもあるため
牛や豚などとは違う専用の施設が必要になる。
施設の増加で安全性を確保した肉が提供できるようになったのである。
(検査員)
「作業するときに必ず何度以下にしようとか決めごとはありますか。」
(食肉処理施設 所長)
「基本的には20度以下になっているように。」
食肉を安定して出荷することもできるようになった。
ハンターから不定期に持ち込まれる肉を冷凍保存し
需要に応じて供給している。
こうした専用施設は全国で500か所以上と急速に増えている。
(食肉処理施設の運営会社 高田健吾さん)
「この施設はイノシシを有効活用するというのが目的です。
九州全土のみならず日本中で今どんどん増えてきています。」
マックスバリュ九州ではさらに売り上げを伸ばそうと加工品の開発にも取り組んでいる。
いま試作しているのはイノシシ肉のソーセージである。
ジビエの調理の仕方がわからない人にも売れる商品を開発しようという狙いである。
このプロジェクトには大手商社も加わっている。
ジビエの流通を全国に拡大し新たなビジネスを生み出そうとしている。
(大手総合商社 担当者)
「市場的にはまだ限られた人しか食べていないような状況なので
もっと食べやすいようになってくればさらに伸びていくと思います。
11月8日 編集手帳
作家の半藤一利さんは形容している。
〈火のついたカンナ屑(くず)のようでもあった〉(ちくま文庫『隅田川の向う側』)。
東京大空襲の、
なめ尽くすように人を襲った炎である。
【かんなくずへ火が付いたよう】は辞書にも載っている。
〈ぺらぺらとしゃべりまくるさまにいう語〉(『日本国語大辞典』)。
半藤さんの形容と同じく、
瞬く間に燃え広がる火勢から生まれた慣用表現だろう。
人は昔から木くずを見ればまず火を思い、
用心してきたはずである。
痛ましい事故というほかはない。
東京・明治神宮外苑でイベントの展示物が炎上し、
5歳の男の子が死亡した。
「なかに子供がいる!」。
そう叫び、
助けようとした父親も顔にやけどを負っている。
間近に照らす投光器の白熱電球から伝わった熱で、
骨組みを装飾する木くずが燃え上がったらしい。
運営者でも、
制作者でも、
誰か一人でいい。
「これは危ないぞ」と気づかなかったか。
関東大震災を詠んだ窪田空穂(うつぼ)の歌が脳裏をよぎる。
〈梁(はり)の下になれる娘の火中(ほなか)より助け呼ぶこゑを後(のち)も聞く親〉。
父親の耳に、
わが子の声が消える日は来るまい。
胸がふさがる。
11月20日 キャッチ!
11世紀に誕生したと言われるベルギーのビールは
種類の多さではドイツに引けを取らない。
ハーブやスパイスなどが入ったビールは1500種類を超えるとも言われている。
9月ベルギーの首都ブリュッセルで開かれた恒例のビール祭り。
国内外から大勢の愛好家が集まり
天然酵母で作られた深い味わいを楽しんでいた。
世界でクラフトビールのブームが到来するはるか前から
ベルギーでは小規模醸造家が思い思いに独自のビールを生み出している。
(ビール専門店 店長)
「うちで扱う商品の80%が小規模醸造家のビールだよ。」
多様で個性豊かなベルギーのビールが今その種類をさらに増やそうとしている。
ベルギー東部のリエージュにクラスシャルリエさん(33)。
ビール好きが高じて
去年から本格的に醸造に乗り出した。
(醸造家 シャルリエさん)
「澄んだ色のビールにしたいので
焙煎の浅いこの麦を選びました。」
去年訪れた旅先のカナダであらためてクラフトビールの魅力にはまったシャルリエさん。
帰国後 一念発起して専門学校でビール作りを学び
試行錯誤の末に理想の味にたどり着いた。
独自のビール作りのための資金調達に思い付いたのがクラウドファンディング。
インターネットを通じて個人から小額投資を呼び掛けた。
今年6月 80万円を募ったところ
1か月半で目標の3倍の額が集まった。
(醸造家 シャルリエさん)
「最大の成果はサポーターを獲得できたことです。」
完成したビールが9月に初めてバーで提供された。
評判は上々である。
(来店客)
「わずかな苦味の中にフルーティさがあっておいしいね。」
(醸造家 シャルリエさん)
「今後も新しいビールの味に挑戦し続ける大きな励みになりました。」
首都ブリュッセルに
斬新なビールを次々に発表し急成長している醸造所 ブリュッセル・ビア・ブロジェクトがある。
醸造所のウェブサイトは
具体的なブランドイメージを前面に打ち出し
若者を中心にクラウドファンディングの参加を呼び掛けている。
創業者のモルバンさん(33)とドブラウワさん(32)。
3年前 一からビールビジネスを始め
クラウドファンディングを通じて述べ2,000人から3,500万円を調達。
去年 倉庫を改装して店舗兼醸造所をオープン。
今年すでに営業利益が黒字に転じ
従業員も12人に増やした。
この醸造所のビールの特徴はオシャレなラベルやネーミングである。
(「赤い私の唇」「マオリ族の涙」「プリンセス ジャスミン」etc.)
そして種類の多さである。
1年で28種類のビールを開発した。
また独特なのが商品開発の方法である。
出資者を試飲会に招いて商品化するビールを投票で決め
ネーミングやデザインも参加者から募集する。
(創業者 モルバンさん)
「自由な発想で新たなビールの歴史を作りたいんです。」
モルバンさんたちがいま力を入れるのが海外の醸造家との交流である。
この日は京都でクラフトビールを作っている醸造家を招いて
和風のレシピに挑戦した。
(創業者 モルバンさん)
「ベルギービールはもともと創造的なDNAを持っています。
私たちは世界のビール界の風雲児になりたいんです。」
ビール大国ベルギーの次世代を担う若者たちが
いま新たな可能性を広げている。
10月19日 キャッチ!
イスラエルはここ数年はイノベーション大国として注目されている。
イノベーションを利用して設立され急成長を目指す企業のことをスタートアップ企業というが
イスラエルでは新規のスタートアップ企業の数は年間1,000社以上にのぼる。
GDP国内総生産に占める研究開発投資額の割合は
4,21%と世界1位。
グーグルなど名だたるIT企業が拠点を置き
アマゾンの電子書籍サービス キンドルもイスラエルで開発されたという。
イスラエルの商業の中心 テルアビブ。
9月 年に1度のスタートアップ企業の祭典が開催された。
町の大通りそのものが展示場になり
企業がブースを設ける。
腕に巻いたブレスレットで筋肉の動きを感知して動かす義手。
3Dプリンターでも作ることができ価格を抑えられるのが特徴である。
スマートフォンで入力した文字をレーダーで特殊な板に表示する装置。
失敗を恐れずアイデアをまず形にするイスラエルらしい様々な試作品が並ぶ。
ことし海外からこの祭典を視察に訪れたのは50か国の2、700人。
イスラエル発のイノベーションはいまや世界の注目も的である。
近年 イスラエルを訪問する日本企業も目立ってきている。
9月 日本の大企業などの幹部が作るグループが
イスラエル最大の工科大学 テクにオン工科大学を訪れた。
大学とスタートアップ企業
そして世界最先端の技術を持つ軍が密接に関わり合い
それを政府が後押しするのがイスラエルの強み。
大学はイノベーションに不可欠なエンジンの1つになっている。
今回参加したのは電子機器メーカーから観光まで幅広い業種の20社。
なぜイスラエルでイノベーションが起きるのか。
そのからくりを探るのが目的である。
参加した1人 菊田幸男さんは
福島県に本社を置くカーナビなどの電子機器メーカーで
新たな事業の開発を担当する理事を務めている。
(電子機器メーカー理事 菊田幸男さん)
「イノベーションの方法を学ぶためというのがひとつ。
もうひとつはイスラエルのスタートアップが有用だと聞いているので
そういうところを探すことがもう一つの理由です。」
一行が臨んだのは大学が各国の視察団に提供している数日間のプログラム
いわばイノベーション講座である。
(講師)
「“イノベーションとは何か”から始めたいと思います。」
プログラムではイノベーションの定義やノウハウに加え
人工知能を支える最先端の研究についてなど幅広い分野が扱われる。
たとえば「新しいアイデアを生み出すためのワークショップ」。
参加者は4つのグループに分かれ
それぞれ異なる方法でアイデアを出す。
Aチームは各自がアイデアを箇条書きして最後のまとめる方法
Bチームは時間いっぱい自由に話し合う「ブレインストーミング」
Cチームは話し合いはせず各自がアイデアを書き改善を加筆する筆談方式
Dチームは時間の半分を使って各自が箇条書きしそれをもとに話し合う
結果 最も多くのアイデアが出たのはDチーム。
最下位はBチーム。
実は日本でも一般的なブレインストーム。
ほかの意見に迎合してしまうなど欠点があるからだという。
他人の前で意見を控えがちな日本人に対し
講師はさらに工夫が必要だと指摘した。
(講師)
「グローバル社会では外国人と付き合う必要があります。
誰もが日本人のような“礼儀正しさ”を共有しているわけではありません。」
外国人とともにイノベーションを起こすには何がカギになるのか。
参加者の自問自答が続く。
(電子機器メーカー理事 菊田幸男さん)
「日本の企業と言うのはイスラエルと同じにはならない。
そこをどうすれば変わるんだろう。」
そんな参加者たちをもっとも強く刺激したのはイスラエルの起業家たちとの交流だった。
世界市場を見据え
型破りな事業を提案する彼らの発想と熱意は
連携の可能性を感じさせるものだったという。
5日間の日程を終えた参加者たち。
異なる文化を乗り越えてでも
ともにイノベーションを起こそうという決意を持つことこそが必要だという声が多く聞かれた。
(参加者)
「問題の答えは私達の心の中にあるのを
出会ったイスラエル人が見せてくれた。」
(電子機器メーカー理事 菊田幸男さん)
「スタートアップの存在や役割は
単に新しい技術を満たすクリエーターだけではない。
一緒になってクリエートしていく存在だと改めてわかった。」
日本では紛争などのイメージからイスラエルは敬遠されがちだったが
2014年に日本のベンチャー企業がイスラエルに拠点を新設し
治安情報など企業の求める情報の発信が大幅に増えた。
2015年には安倍総理がイスラエルを訪問し
官民ともにイスラエルとの関係が強化された。
企業側の変化もある。
日本では伝統的にすべて自社で開発を行い
それが良さとされてきた。
しかしここにきて
最先端のスタートアップ企業と組まなければ
世界的な競争についていけないという危機感が高まってきている。
日本企業によるアメリカのシリコンバレー進出が一段落するなかで
次のシリコンバレーを探そうという動きが重なったという側面もある。
砂漠の土地に今の繁栄を築いたお国柄で
イスラエルは0から1を生み出すことに長けている国だと言われている。
日本は1を100に増やすのが得意な国である。
イスラエルが斬新なアイデアを出し
日本がそれに磨きをかけて量産する
そういった相性の良さが期待されている。
日本政府は今後
サイバーセキュリティーの面でもイスラエル政府と連携を強化していく方針である。
民間でもイスラエル進出を計画している企業もあり
経済関係の強化は当面続く流れだと言える。
9月の国連総会ではイスラエルのネタニヤフ首相が
日本との経済関係の強化されていることを誇らしげに述べる場面があった。
しかしパレスチナ問題での国際的な批判をかわすためのトリックに使われたのである。
民間レベルでの経済関係が今後強化されていくのであれば
日本政府がイスラエル政府に対して
国際法違反である入植政策や
パレスチナ人に対する人権侵害などについて
毅然と言うべきことを言い続けていく。
それが今後ますます重要になっていく。
10月18日 キャッチ!
9月に北京で開かれた住宅総合商談会。
北京ではこの1年で新築住宅価格が平均25%上昇。
さらなる値上がりを期待する多くの市民や投資家が大勢訪れていた。
(来場者)
「金融商品は金利が下がったので
投資先として良い物件を探しています。」
開発業者も需要の高まりを背景に
強気の価格設定である。
(マンション販売担当者)
「ことし6月は平米約17万円でしたが
9月は役30万円~38万円で分譲します。」
「実勢価格を元に1億5,000万円からと決めました。」
中国では
地方政府が高い経済成長を求めて競うように不動産開発を進めた結果
供給過剰で膨大な数のマンションが売れ残り
景気の足かせとなっている。
新たな不動産投資が冷え込んで鉄鋼などの需要も落ち込み
鉄鋼の大手が経営破たんする事態まで招いている。
こうした状況を改善しようと中国政府が打ち出したのが一連の景気刺激策だった。
(李克強首相)
「住宅在庫を減らして
不動産市場を安定的に発展させる。」
去年3月
個人が2軒目の住宅を購入する際には
頭金の最低比率を最大70%から40%へ引き下げ
1軒目についても去年9月と今年2月に合わせて10%引き下げ
30%から20%になった。
これによってより少ない手元資金でも住宅ローンを組めるようになった。
住宅ローンに反映される政策金利も
去年だけで5回も引き下げている。
この政策に機敏に反応したのが一部の大都市である。
上海では新築住宅の価格がこの1年半で50%以上も高騰した。
上海市郊外で建設中の分譲マンションは
5,000万円~1億円余の200戸が売り出しからわずか1か月でほぼ完売したという。
(営業担当者)
「物件の魅力ですよ。
支払いはローンの人が多いですね。」
ただこの住宅バブルを投資に利用しようとするのは一部の人々に限られていて
大都市の格差拡大を助長しているという指摘も出ている。
上海で両親をマンション暮らしをしている陳晟さんは
電機メーカーの営業で月収や役18万円と決して少なくはないが
それでも今の住宅価格の水準は自分の給料では手が出せないと言う。
(陳晟さん)
「今の住宅価格は高すぎて昇給しても変えません。
お金持ちは裕福になり
無い人はますます苦しくなります。」
さらに本来需要を刺激すべき地方都市の住宅市場が
依然冷え込んだままである。
黒竜江省の牡丹江市は
新築住宅の価格がこの1年で下落している。
石炭など主力の重工業が不振で構造改革を迫られるなか
景気の先行き不安から
住宅投資を手控える動きが広まっている。
市は独自の住宅ローン緩和策を今年4月に新たに導入。
外部に対しては
「都市開発は順調で懸念は無い」と強調している。
(牡丹江市 幹部)
「市には名だたるデベロッパーが集まり
開発を手掛けていますよ。」
しかし住宅街で市民の声を聞くと
「空き部屋が多すぎて不動産会社は売り切るのが大変でしょうね。」
不動産が売れない地方都市と大都市との格差を解消しようと
中国政府は大都市をターゲットに
個人で住宅を買える数を限定するなど
一転して販売制限策の強化に踏み切った。
いち早く販売制限策を導入した都市の1つ
南部のアモイ市。
9月からアモイの戸籍を持たない市民は2軒目の購入は原則禁止となったが
不動産業界の関係者は今後の市況も強含みだと言う。
(不動産コンサルタント)
「政府は不動産市場の発展を望んでいるので
今後も安定的に住宅価格は上がるでしょう。」
しかし専門家は
住宅価格が一方的に上がると過信するのは危険だと指摘する。
(不動産専門家 厳躍進氏)
「不動産価格が上がり続けることはありません。
急騰すれば必ず下落します。
不動産は鉄鋼や金融などが関わっており
価格の暴落は多くの業界も打撃を受けます。
中国の場合
住宅などの販売用地は政府が企業などに使用権を売り渡し
その収入で地方の財源としているので
日本など先進国と比べて国の関わり度合いが大きい。
中国政府は昔も今も
不動産市場は景気をコントロールするための調整面の役目を担っていると捉えている。
しかし不動産市場を政府の思惑通り誘導するのは難しい。
中国の不動産関係者や投資家の多くは
バブル崩壊は無いと見ている。
最大の理由は中国では今後都市化が進むと考えていることである。
中国の都市化率は56%。
これは日本の昭和32年ごろとほぼ同じ水準である。
政府は5年間で70%にまで引き上げる計画で
中国政府を信じれば都市にはまだまだ農村から人口が流れ込み
住宅の需要が伸びて
バブルははじけないということになる。
一方 中国はいまや世界第2位の経済大国として
貿易や投資など世界的なプレーヤーとなったことで
国内の経済の動きと世界経済の動きが互いに影響し合うようになってきている。
不動産に関しても今後大都市で価格が急落したり
地方のプロジェクトの破たんが続けば
世界が中国経済の先行きを不安視し
それが中国国内にも伝わって不動産価格の急落全体の急落を招く懸念もある。
不動産バブルに踊る中国のリスクは軽視はできない。
中国では9月から10月にかけて
約20の主要都市が新たに販売抑制政策を打ち出した。
しかし肝心の地方の住宅在庫は依然高止まりしているとされていて
地域間の格差の解消は簡単ではない。
政府が目指す都市化も
地方で特色ある成長産業を生み出して企業を育てることができなければ
働く場が無く
地方の都市から人口が流出してしまう。
中国の目論見どうりいくかどうかは不透明である。
景気が減速傾向にあるなか
現在の不動産市場の活況が成長目標の維持に貢献したという見方だが
不動産に足元の成長を頼りすぎると
将来の成長に向けて進めている構造改革が遅れるという指摘もあるだけに
不動産市場の動向は今後の中国経済にとって重要なカギとなる。
10月14日 国際報道
1992年のスペイン・バルセロナ大会。
四半世紀近くが経った今も
開催の遺産が高く評価されている。
パウラ・アリアスさん(16)。
テニスの4大大会の1つ全仏オープン・ジュニアの女子ダブルスで今年優勝。
スペインで将来をもっとも期待される選手の1人である。
アリアスさんが練習をしているのは
バルセロナ大会に合わせて建設されたトレーニングセンターである。
この施設では選手たちが普通の高校と同じ内容の授業を受けられる。
医療施設や寄宿舎などもあり
若手選手の育成の育成の拠点になっている。
(パウラ・アリアスさん)
「学業とトレーニングの両立を支援してくれています。
おかげでテニスに打ち込めます。」
大会の施設は観光にも活用されている。
ヨット競技の会場だった港には
ヨットハーバーとビーチを整備。
新たな観光スポットとなり
ここを訪れる人の数は年間830万人と
大会直後に比べ4倍以上に増えた。
バルセロナ大会の最大の特徴は
都市の形を大きく変えたことである。
バルセロナのビーチのそばにあるマンション群は
すべてオリンピックのとき選手村として使われていた建物である。
建物は改修されて2,000戸分の住宅に。
ひとつの街が作られた。
当時の建設計画に加わった建築士のフランセス・グアルさん。
「オリンピックはバルセロナのイメージを一新するチャンスになりました。」
グアルさんが重視したのはアクセスの改善である。
オリンピック開催以前は海岸部と都市部を結ぶ大動脈が無かったが
国が用地を買い取り
海岸近くの線路は地下に移すとともに環状道路が整備。
これによって新たな街と中心部がつながり
新しいバルセロナの姿を作り出した。
(建築士 フランセス・グアルさん)
「選手村の建設によって都市と海をつなぐことに成功しました。
五輪の遺産だった選手村は地区の1つとなり
市の財産となったのです。」
10月11日 国際報道
リオデジャネイロ五輪で大きく躍進したのがイギリスである。
獲得したメダルの総数は67個。
自国で開催したロンドン大会を上回った。
成功のカギは選択と集中。
強化費を専門の機関が徹底した成果主義に基づいて配分している。
強化対象になるのは「メダル確実」「メダル有望」「国際レベル」の3つで
ランクの応じてその額が変わる。
配分にあたっては
国際大会の成績や選手の育成計画など
数多くの項目を厳しくチェック。
メダルが期待できるボートや自転車には多額の強化費を出す一方
望み無しと判断した競技は強化費を容赦なくカットする。
(イギリス 選手の強化担当機関)
「8年以内にメダル獲得の可能性を持った選手や競技に絞って
重点的に投資します。」
強化費の7割は国営宝くじの収益から出ている。
税金に比べ
国民からの理解を得やすいこともあって
強化費はこの20年で13倍の350億円まで拡大。
これに伴ってメダルの数も大幅に増えた。
強化費によって作られたトレーニング施設。
トレーニングルームは気温や湿度、酸素の量を調節することができ
大会が開催される場所の条件に合わせて練習ができる。
施設には最新のスポーツ衣料や化学を取り入れた設備を完備。
各分野の専門家も常駐している。
この日練習していたのは今回4位となった7人制ラグビーの女子チーム。
筋力トレーニングの専属コーチが付き
1人1人に合わせたメニューをこなす。
選手は生活費を支給され
専門のコーチや医療スタッフのサポートも受けられる。
(7人制ラグビー選手)
「理学療法や医療サポートもあり
充実の設備や恵まれた環境で練習に打ち込めます。」
今回この施設からだけで26人のメダリストを輩出。
同様の施設が国内に10か所あり
メダルを獲得した選手の93%が利用したという。
(施設担当者)
「ただお金をかければいいわけではありません。
イギリスがうまくいっているのは
お金をどこにどう使うか知っているからです。」
一方 メダル至上主義ともいえる戦略は
弱者切り捨てにつながるという不満も出ている。
成績が低迷し活躍の望みがないと判断されたバスケットボールは
受け取っていた年間数億円の強化費を全額カットされた。
(英国バスケットボール連盟 広報責任者)
「勝てるチームを作るには助成が不可欠です。
私たちは資金がなく苦しんでいます。」
それでもイギリスは次の東京大会でメダルの獲得数をさらに増やすため
この戦略を徹底していく方針である。
(イギリス 選手強化担当機関)
「さらなる高みのために終わりはありません。
今のシステムをさらに改善し発展させます。」
メダル獲得に向けイギリスが進める選択と集中。
イギリスのスポーツ界は結果を厳しく求められている。
10月11日 キャッチ!
アメリカの人種別の人口比は
1965年 白人は84%と圧倒的多数だった。
2015年 白人は62%
黒人18%、ヒスパニック系12%、アジア系6%となっている。
50年後の2065年ごろには白人の比率が50%を切ると予測されている。
共和党のトランプ氏は選挙戦終盤になって
黒人やヒスパニックなどマイノリティーにも寛容な戦略を打ち出しているが
当初はメキシコ人など
移民受け入れの厳格化を訴えて躍進へとつなげてきた。
この背景には
多数派から転落していく白人の危機感があるとも指摘されている。
そして今アメリカ南部では白人の危機感が高じて
人種差別的な白人至上主義の復活を目指す極端な動きにもつながっている。
「トランプ候補はテレビ討論会で健闘。
支持率も上がりました。」
アメリカ南部ルイジアナ州でラジオ番組を毎朝放送しているデービッド・デューク氏。
「白人の権利を復活させるにはトランプ氏が理想の大統領だ」と
リスナーに熱心に訴えている。
「我々の祖先が築いたこの国で白人は民族浄化されようとしています。
アメリカ最大の問題です。」
デューク氏は1970年代
白人の秘密結社を率いていた。
KKK=クー・クラックス・クラン 白人至上主義の団体である。
黒人差別が激しい1900年代前半には
黒人の殺人やリンチを繰り返してきたKKK。
アメリカ南部を中心に黒人たちを恐怖に陥れてきた。
戦後は人権意識の高まりとともに会員数が激減したが
今も各地でひそかに活動している。
約35年前にKKKを脱退したデューク氏。
近年は政治活動を控えてきたが
今年 大統領選挙と一緒に行われる上院議員選に立候補を表明した。
そのきっかけはトランプ氏の躍進だった。
国境に壁を作り厳格な移民政策を掲げるトランプ氏とともに当選し
白人の国アメリカを取り戻すと主張している。
(デービッド・デューク氏)
「この国の独立と表現の自由を保障する憲法はすべて白人によって作られました。
アメリカ国民はトランプ氏を
私のように
アメリカ人の価値のために起ち上がる人だと見てるんです。」
しかしデューク氏の立候補で
地元ルイジアナ州では白人と黒人の間で不穏な空気が流れている。
9月には黒人グループとデューク氏率いる白人グループが
第7代大統領アンドリュー・ジャクソンの銅像をめぐって衝突。
黒人を奴隷にした農場主だったとして
黒人グループが銅像の撤去を求めたのに対し
デューク氏のグループは猛反発したのである。
「黒人との戦いで
白人至上主義のデュークを勝利させるわけにはいかないわ。」
一連のこうした動きに強い危機感を訴えているのが
黒人初の大統領オバマ大統領とその後継のクリントン氏である。
クリントン氏はデューク氏達白人至上主義者が
オルト・ライト=もうひとつの右派勢力と名乗り
トランプ氏の陣営に深く入り込んでいると指摘している。
(民主党 クリントン候補)
「オルト・ライトは新興の人種差別主義勢力で
トランプ陣営のキャンペーンに深く関わっています。」
クリントン氏の陣営は
白人至上主義者を明確に批判しないトランプ氏を当選させるわけにはいかないと訴えている。
クリントン氏が指摘するオルト・ライト。
インターネット上の掲示板を舞台に自らの主張を展開する
比較的若者たちが多い勢力と見られている。
(シンクタンク研究員 R・ポヌル氏)
「オルト・ライトは人種による階層を信じている。
白人がトップで
アジア人、黒人、そしてヒスパニックが底辺だ。」
上院議員に立候補している元KKKのデューク氏。
オルト・ライトへの支持を広げようと
いまソーシャルメディアを通じて自らの主張を拡散している。
黒人の危機感をあおり
自分とトランプ氏を当選させるよう呼びかけている。
(デービッド・デューク氏)
「オルト・ライトは大きな力だ。
私はもう60代だが
若い彼らが私の思想を受け継ぐのは素晴らしい。
他民族の社会となり対立と嫌悪が満ちている。
白人はまだ人口の65%もいる。
白人の存続に専念する政権なら
我々は復活できる。」
白人の世界を取り戻したいと考える人は
一部の右派性勢力で影響力が限定的である。
デューク氏もトランプ旋風に乗って上院議員の当選を目指しているが
世論調査では支持は低く
当選は難しいとみられている。
しかし気になるデータもある。
KKKなどを監視している団体によると
KKKのメンバーは全米で5,000~8,000人と推測されているが
この1年で数百人増えたとか
KKKの支部や関連組織も倍増したという。
そして増加の一因としてあげられているのが
共和党のトランプ氏がヒスパニック系やイスラム教徒に対して繰り返した差別的な発言である。
多民族国家アメリカでは今までは人種や宗教による差別的な発言はタブーだった。
「ポリティカル・コレクトネス」と呼ばれ
政治的に正しい発言が奨励されてきたのである。
しかしトランプ氏はこのポリティカル・コレクトネスを
「本音を隠す偽善だ」と批判。
その結果 差別的な発言が認められる雰囲気が作られ
白人至上主義者の助長にもつながっているのではないかと見られている。
デューク氏が「大統領はトランプ氏、上院議員は自分」と
セットで選挙運動を展開しているのに対し
トランプ氏は一線を画している。
さすがに元KKKのリーダーと連携すれば
共和党の主流派や穏健派の支持を失うだけに
無視する構えである。
ただトランプ氏を支える熱狂的な支持者の中には
デューク氏のように白人の国を取り戻したいと考えている人は少なくない。
トランプ氏が掲げる「Make America Great Again」というキャッチフレーズは
「アメリカを再び偉大な国にする」だが
隠れたメッセージは「アメリカを再び白人の国にする」だと話す人もいる。
初の黒人大統領が誕生して8年となるが
人種の融和は進まず
むしろ分断が深まっているとすら感じる。