クルセイダース脱退後に初めて発表したラリー・カールトンのソロ・アルバムが「夜の彷徨(さまよい)」 (原題『Larry Carlton』)です。
フュージョンというジャンルが台頭しつつあった1978年にリリースされると、多くのギター少年・ギター青年を含むギタリストたちは、ジャズとロックのフィーリングがミックスされたラリーのよく歌うギター・プレイに大きな衝撃を受けました。
ぼくは「ギター小僧」ではなかったけれど、いっぱしのロック小僧を気取っていたので、音楽雑誌でラリーの名を知るととても聴いてみたくなったんです。
初めてラリーのレコードを聴いた時は「これはカッコいい!」と思ったものです。
ラリー・カールトンは1971年から77年まで、クルセイダースに準メンバーとして参加していました。並行して、アメリカ西海岸有数のセッション・ギタリストとしても活動、多忙な日々を送っていました。
ラリーの愛器はギブソンES-335です。日本では敬意をもって「ミスター335」と呼ばれていますね。この「夜の彷徨」は、ラリーの自宅にあるレコーディング・スタジオで録音されていますが、そのスタジオの名が「ルーム335」です。
「ルーム335」は「夜の彷徨」の中のハイライト曲といってもよい、ギター・インストゥルメンタルの名曲です。
アルバムの1曲目に収録されている「ルーム335」は、なめらかで流れるようなメロディーを持つ、メロウで爽快感のある曲です。ラリーのギターは一音一音のニュアンスをとても大事にしています。中間部のエレクトリック・ピアノのソロもいい感じ。
ロック色が濃いスピーディーな8ビートの「ポイント・イット・アップ」では、とてもアグレッシヴに弾きまくっています。
「リオ・サンバ」は、ラリー風サンバといったところでしょうか。軽やかなビートで思わず体が動きます。ここではベース・ソロが聴かれます。
「希望の光」では、アップ・テンポのシャッフル・ビートに乗って、ラリーが奔放にギターを弾いています。
アルバムラストに収められている「オンリー・イエスタデイ」は、ジェフ・ベックの「哀しみの恋人達」を連想させるような、ロマンティックなスロー・バラードです。
ラリーは音楽に対して、多角的にアンテナを張り巡らせているのでしょう。ジャズとブルーズが彼のルーツだそうですが、セッションマン時代には多くのロック、あるいはポップ・アルバムに参加して、より多くのエッセンスを吸収しています。これらの音楽的要素を総合的にブレンドして、多くのジャンルの上にバランスよく成立しているのがラリーのスタイルだと思います。
軽やかさも魅力のひとつかもしれません。軽さを批判する声もあったようですが、中味の伴った軽やかな演奏は、できそうでなかなかできないものです。
また、ラリーのナチュラルなディストーションのかかった、まろやかなトーンが気持ちいいですね。
このアルバムに参加しているミュージシャンは腕利きぞろい。さすが、粒のそろったまとまりのよいバンド・サウンドに仕上げています。バッキングにソロにと、ピアノやオルガンなどのキーボード群を駆使して大活躍するグレッグ・マティソンの存在が非常に大きいですね。
そして、ジェフ・ポーカロのツボを心得たドラミングと、エイブ・ラボリエルのよくグルーヴするベースのコンビネーションの素晴らしいこと!これぞまさしく「鉄壁のリズム隊」です。
凝った録音技術がなくとも、しっかりした曲作りやプレイヤーの力量があれば、これだけ耳を引きつける音楽ができるんですね。
昨年ラリーはロベン・フォード(g)とのコラボレーションで来日しました。その時のライヴ・アルバムもなかなか好評のようです。
ラリーが参加しているスーパー・グループ「フォープレイ」でのさらなる活躍も期待したいところですね。
◆夜の彷徨(さまよい)/Larry Carlton
■演奏
ラリー・カールトン/Larry Carlton
■リリース
1978年
■プロデュース
ラリー・カールトン/Larry Carlton
■レーベル
MCA
■録音
カリフォルニア州ハリウッド、ルーム335スタジオ
■収録曲
[side A]
① ルーム 335/Room 335 (Larry Carlton)
② 彼女はミステリー/Where Did You Come From (William Smith, Eric Mercury)
③ ナイト・クロウラー/Nite Crawler (Larry Carlton)
④ ポイント・イット・アップ/Point It Up (Larry Carlton)
[side B]
⑤ リオのサンバ/Rio Samba (Larry Carlton)
⑥ 恋のあやまち/I Apologize (William Smith, Eric Mercury)
⑦ 希望の光/Don't Give It Up (Larry Carlton)
⑧ 昨日の夢/(It Was)Only Yesterday (Larry Carlton)
■録音メンバー
ラリー・カールトン/Larry Carlton (guitars, lead-vocals)
グレッグ・マティソン/Greg Mathieson (Keyboards)
エブラハム・ラボリエル/Abraham Laboriel (bass)
ジェフ・ポーカロ/Jeff Porcaro (drums)
ポリーニョ・ダ・コスタ/Paulinho da Costa (percussion)
ウィリアム・"スミティ"・スミス/William "Smitty" Smith (backing-vocals)