ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

夜の彷徨[さまよい] (Larry Carlton)

2007年05月04日 | 名盤


 クルセイダース脱退後に初めて発表したラリー・カールトンのソロ・アルバムが「夜の彷徨(さまよい)」 (原題『Larry Carlton』)です。
 フュージョンというジャンルが台頭しつつあった1978年にリリースされると、多くのギター少年・ギター青年を含むギタリストたちは、ジャズとロックのフィーリングがミックスされたラリーのよく歌うギター・プレイに大きな衝撃を受けました。
 ぼくは「ギター小僧」ではなかったけれど、いっぱしのロック小僧を気取っていたので、音楽雑誌でラリーの名を知るととても聴いてみたくなったんです。
 初めてラリーのレコードを聴いた時は「これはカッコいい!」と思ったものです。


 ラリー・カールトンは1971年から77年まで、クルセイダースに準メンバーとして参加していました。並行して、アメリカ西海岸有数のセッション・ギタリストとしても活動、多忙な日々を送っていました。
 ラリーの愛器はギブソンES-335です。日本では敬意をもって「ミスター335」と呼ばれていますね。この「夜の彷徨」は、ラリーの自宅にあるレコーディング・スタジオで録音されていますが、そのスタジオの名が「ルーム335」です。


     


 「ルーム335」は「夜の彷徨」の中のハイライト曲といってもよい、ギター・インストゥルメンタルの名曲です。
 アルバムの1曲目に収録されている「ルーム335」は、なめらかで流れるようなメロディーを持つ、メロウで爽快感のある曲です。ラリーのギターは一音一音のニュアンスをとても大事にしています。中間部のエレクトリック・ピアノのソロもいい感じ。


 ロック色が濃いスピーディーな8ビートの「ポイント・イット・アップ」では、とてもアグレッシヴに弾きまくっています。
 「リオ・サンバ」は、ラリー風サンバといったところでしょうか。軽やかなビートで思わず体が動きます。ここではベース・ソロが聴かれます。
 「希望の光」では、アップ・テンポのシャッフル・ビートに乗って、ラリーが奔放にギターを弾いています。
 アルバムラストに収められている「オンリー・イエスタデイ」は、ジェフ・ベックの「哀しみの恋人達」を連想させるような、ロマンティックなスロー・バラードです。


     


 ラリーは音楽に対して、多角的にアンテナを張り巡らせているのでしょう。ジャズとブルーズが彼のルーツだそうですが、セッションマン時代には多くのロック、あるいはポップ・アルバムに参加して、より多くのエッセンスを吸収しています。これらの音楽的要素を総合的にブレンドして、多くのジャンルの上にバランスよく成立しているのがラリーのスタイルだと思います。
 軽やかさも魅力のひとつかもしれません。軽さを批判する声もあったようですが、中味の伴った軽やかな演奏は、できそうでなかなかできないものです。
 また、ラリーのナチュラルなディストーションのかかった、まろやかなトーンが気持ちいいですね。


 このアルバムに参加しているミュージシャンは腕利きぞろい。さすが、粒のそろったまとまりのよいバンド・サウンドに仕上げています。バッキングにソロにと、ピアノやオルガンなどのキーボード群を駆使して大活躍するグレッグ・マティソンの存在が非常に大きいですね。
 そして、ジェフ・ポーカロのツボを心得たドラミングと、エイブ・ラボリエルのよくグルーヴするベースのコンビネーションの素晴らしいこと!これぞまさしく「鉄壁のリズム隊」です。
 凝った録音技術がなくとも、しっかりした曲作りやプレイヤーの力量があれば、これだけ耳を引きつける音楽ができるんですね。





 昨年ラリーはロベン・フォード(g)とのコラボレーションで来日しました。その時のライヴ・アルバムもなかなか好評のようです。
 ラリーが参加しているスーパー・グループ「フォープレイ」でのさらなる活躍も期待したいところですね。



◆夜の彷徨(さまよい)/Larry Carlton
  ■演奏
    ラリー・カールトン/Larry Carlton
  ■リリース
    1978年
  ■プロデュース
    ラリー・カールトン/Larry Carlton
  ■レーベル
    MCA
  ■録音
    カリフォルニア州ハリウッド、ルーム335スタジオ
  ■収録曲
   [side A]
    ① ルーム 335/Room 335 (Larry Carlton)
    ② 彼女はミステリー/Where Did You Come From (William Smith, Eric Mercury)
    ③ ナイト・クロウラー/Nite Crawler (Larry Carlton)
    ④ ポイント・イット・アップ/Point It Up (Larry Carlton)
   [side B]
    ⑤ リオのサンバ/Rio Samba (Larry Carlton)
    ⑥ 恋のあやまち/I Apologize (William Smith, Eric Mercury)
    ⑦ 希望の光/Don't Give It Up (Larry Carlton)
    ⑧ 昨日の夢/(It Was)Only Yesterday (Larry Carlton)
  ■録音メンバー
    ラリー・カールトン/Larry Carlton (guitars, lead-vocals)
    グレッグ・マティソン/Greg Mathieson (Keyboards)
    エブラハム・ラボリエル/Abraham Laboriel (bass)
    ジェフ・ポーカロ/Jeff Porcaro (drums)
    ポリーニョ・ダ・コスタ/Paulinho da Costa (percussion)
    ウィリアム・"スミティ"・スミス/William "Smitty" Smith (backing-vocals)



コメント (2)
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