ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

逃避行

2007年05月31日 | 名曲


  オムニバス・アルバム「青春歌年鑑」の各年度版を結構重宝して聴いています。オリジナル・アルバムがなかなか見つからないようなシンガーの、その年流行った曲がちゃんと収録されているからです。
 この間借りてきたのが、その「1974年版」です。山口百恵「ひと夏の経験」、フィンガー5「恋のダイヤル6700」、中村雅俊「ふれあい」、海援隊「母に捧げるバラード」などなど、懐かしい気分に浸りながら聴いてました。それらの中に、聴いているうちに突然思い出した曲があります。それが「逃避行」です。「逃避行」といっても、ジョニ・ミッチェルの曲ではありません。歌っているのは麻生よう子さんです。


    
 「逃避行」は、初期(1973年~75年頃)の山口百恵さんの曲を書いていた千家和也(作詞)-都倉俊一(作曲)の名コンビによって作られた曲です。麻生さんは、この曲で1974年2月にデビューしました。
 『知らない街へ二人で行って 一からやり直すため』、誰にも内緒で早朝の汽車に乗ろうと、駅で愛する男性を待ち続ける女性の思いが歌われています。でも、その愛する男性というのが、「逃避行」の前夜に酔いつぶれてたり、他の女性に引き止められていたりするかもしれないダメな男なんです。
 「汽車」というところに時代が現れていますね。


     


 千家氏は演歌からポップスまで幅広く歌詞を手掛ける作詞家です。この曲は歌詞だけ見ていくと、陰のある男女の仲を歌っているため、まるで演歌(怨歌)のような暗さがあります。しかし都倉氏がつけた曲は、洋楽の影響を受けたバラード風のポップスです。とってもいい曲だと思います。例えて言うなら、ちあきなおみの「喝采」、中尾ミエの「片想い」、ペドロ&カプリシャスの「ジョニイへの伝言」などの路線を連想させるでしょうか。


 この曲は、発売された当初はほとんど話題にならなかったのですが、曲の良さと、麻生さんの歌の上手さで、じわじわと人気が上がり、ついには1974年の第16回日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞するまでに至りました。ちなみに、この年デビューした歌手には、城みちる、西川峰子、伊藤咲子、テレサ・テンらがいます。
 麻生さん本人は当時まだ18歳と若かったので、この歌詞の持つ大人の恋の苦味が分からないまま歌っていたそうですが、それがこの曲をドロドロとしたものにせず、却って好結果を生んだと言っていいかもしれません。


     
     ファースト・アルバム『逃避行』


     
     セカンド・アルバム『午前零時の鐘』
   

 麻生さんは、当時でも正統派で通るシンガーだったと思います。哀愁を帯びた、透明感のある歌声が素敵です。エレクトリック・ピアノを伴奏に使っているのが少しモダンな感じ。ミディアム・スローのバラードですが、途中16ビートにすることで緊迫感が生まれています。それに被ってくるホーン・セクションとストリングスの使い方がダイナミック。
 サビの部分、A♭に対する4度マイナーのD♭mへコードが進んで行くことで、斬新な転調感を生み出しています。このあたりが都倉氏の感覚の鋭いところでしょうね。


 セカンド・シングル「午前零時の鐘」も良い曲だったんですが、「逃避行」ほどは売れず、その後はグロリア・ゲイナーの「恋のサヴァイヴァル」をカヴァーしたりしましたが、再びヒット曲に恵まれることはありませんでした。
 キャンディーズや山口百恵、桜田淳子など、アイドル全盛期に正統派シンガーとしてデビューしたことも不運だったかもしれません。


     
     『Dream Price 1000/麻生よう子 逃避行』


 麻生よう子さんは、20枚のシングルと、2枚のオリジナル・アルバムを残しています。2002年には「Dream Price 1000/麻生よう子 逃避行」というベスト・アルバムがリリースされました。
 現在はヨーガのインストラクターとしてヨーガ教室を主宰したり、ヨーガの本を出版したりしているそうです。


[歌 詞]


逃避行
  ■歌
    麻生よう子
  ■シングル・リリース
    1974年2月21日
  ■作 詞
    千家和也
  ■作 曲
    都倉俊一
  ■編 曲
    馬飼野俊一
  ■チャート最高位
    1974年オリコン週間チャート 32位
    1974年オリコン年間チャート 88位
  ■セールス
    14.8万枚
  ■収録アルバム
    逃避行(1974年)
    午前零時の鐘(1974年)



コメント (8)
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