「つづれおり」を初めて聴いた時のぼくは、まだまだロック小僧の域を出ていなかったので、その良さを感じ取ることができなかった。
どうしてもロックの派手なギター・ソロとか、強烈なピートの方がカッコよく聴こえていたし、それに比べると弾き語りを始めとするアコースティックでソフトな音楽は地味でつまらないものにしか思えなかったからだ。だからそういう音楽を深く聴いてみようという気にもならなかった。
ぼくはそのうちジャズやリズム&ブルースなどを聴くようになり、その楽しさが分かりかけてくるようになった。そんな時に、ステージで「君の友だち」を演奏することになり、必要に迫られてキャロル・キングの「つづれおり」を聴いてみた。そしてすぐにキャロルの音楽に心を惹かれるようになったというわけだ。
きっと、色んなジャンルの音楽を聴くうちに、音楽の個性には「苦さ」や「渋さ」もあるということに知らず知らず気づいたのだろう。そうなってから聴き直してみて、改めて感動を覚えたのがカーペンターズだったり、キャロル・キングだったりしたわけだ。
これは自分の耳が肥えたのか、それとも自分が苦さ渋さの分かる大人になったのか・・・。もし後者だとすると、大人になるのも悪くないものだと思う。
1960年代に、当時の夫君であるジェリー・ゴフィンとの共作で作曲家として名をあげたキャロル・キングは、70年代に入るとシンガー・ソング・ライターとして本格的に活動を始める。そして、1971年にセカンド・ソロ・アルバムとして発表したのが「つづれおり」である。
このアルバムは15週連続1位、302週(5年以上!)連続でトップ100にチャート・インするという大ヒットを記録し、現在までに2200万枚以上の売り上げを記録している。
ちあみに、「つづれおり」の大ヒットのあおりを受けてチャート1位の座を掴めず、2位どまりで涙をのんだのが、ロック史上に残る名盤と言われるレッド・ツェッペリンの「Ⅳ」である。
キャロルの音楽のルーツはジャズ、ソウル、ゴスペルなどの黒人音楽にあると言っていいだろう。そして、それらを自然に咀嚼したうえで、自分のスタイルを築き上げていると思う。
素朴だが率直で個性的な歌声、過不足のないシンプルなアレンジ、耳に残るソウルフルなメロディー、メリハリの効いたピアノが心地良い。数多くのカヴァーを生んだ粒よりの名曲群にはただ聴き入るばかりだ。シンプルなサウンドはキャロルの歌声を引き立てる。
歌詞を見てみると、自分の気持ちを等身大に捉え、本当の自分自身を見つめようとしているように思える。そういう部分がリスナーの大きな共感を呼ぶのではないだろうか。そして、アルバム全体を貫いている空気は、キャロルと、聴き手であるぼくの距離の近さを感じさせてくれるのだ。
このアルバムの中でぼくが好きなのは、どの曲も甲乙つけ難いけれど、強いてあげるなら「アイ・フィール・ジ・アース・ムーヴ」「ソー・ファー・アウェイ」「イッツ・トゥー・レイト」「君の友だち」「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」「ナチュラル・ウーマン」などである。
そして、曲そのものの良さはもちろんだけれど、絶妙な曲の配列が生み出す流れも素晴らしいと思う。
キャロルは女性シンガー・ソング・ライターの草分けであるが、この作品で一躍その存在がクローズ・アップされることとなった。
太陽のようにまばゆい、煌くような輝きを放つ作品ではないかもしれないけれど、まるで暗闇を優しく照らす月のような、穏やかな雰囲気に満ちているアルバムだと思う。
◆つづれおり/Tapestry
■歌・演奏
キャロル・キング/Carole King
■リリース
1971年2月10日
■プロデュース
ルー・アドラー/Lou Adler
■収録曲
[side-A]
① 空が落ちてくる/I Feel the Earth Move (Carole King)
② 去りゆく恋人/So Far Away (Carole King)
③ イッツ・トゥー・レイト/It's Too Late (Toni Stern, Carole King)
④ 恋の家路/Home Again (Carole King)
⑤ ビューティフル/Beautiful (Carole King)
⑥ 幸福な人生/Way Over Yonder (Carole King)
[side-B]
⑦ 君の友だち/You've Got a Friend (Carole King)
⑧ 地の果てまでも/Where You Lead (Toni Stern & Carole King, Carole King)
⑨ ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー/Will You Love Me Tomorrow? (Gerry Goffin, Carole King)
⑩ スマックウォーター・ジャック/Smackwater Jack (Gerry Goffin, Carole King)
⑪ つづれおり/Tapestry (Carole King)
⑫ ナチュラル・ウーマン/(You Make Me Feel Like) a Natural Woman (Gerry Goffin, Carole King, Jerry Wexler)
■録音メンバー
キャロル・キング/Carole King (piano, keyboards, vocals, background-vocals)
ジェームス・テイラー/James Taylor (acoustic-guitar, backing-vocals)
ダニー・コーチマー/Danny "Kootch" Kortchmar (acoustic-guitar, electric-guitar, conga, vocals)
チャールズ・ラーキー/Charles "Charlie" Larkey (bass, string-bass,)
ペリー・スタインバーグ/Perry Steinberg (bass, string-bass, violin, tenor-sax)
ジョエル・オブライエン/Joel O'Brien (drums)
ラス・カンケル/Russ Kunkel (drums)
ラルフ・シュケット/Ralph Schuckett (electric-piano)
カーティス・エイミー/Curtis Amy (flute, baritone-sax, soprano-sax, tenor-sax,)
テリー・キング/Terry King (cello, tenor-sax)
デヴィッド・キャンベル/David Campbell (cello, viola)
メリー・クレイトン/ (background-vocals)
■チャート最高位
1971年週間チャート アメリカ(ビルボード)1位、イギリス4位、日本(オリコン)1位
1971年年間チャート アメリカ(ビルボード)2位、イギリス7位
1972年年間チャート アメリカ(ビルボード)2位
1973年年間チャート アメリカ(ビルボード)22位