ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

狂気 (The Dark Side Of The Moon)

2007年05月12日 | 名盤

♪自分的名盤名曲147



 「おせっかい」でピンク・フロイドの音楽に触れたぼくが、次に手にしたフロイドのアルバムが「狂気」です。最初は今ひとつピンと来なかったんですが、聴けば聴くほどこのアルバムにハマっていきました。夜中に聴いたりすると、いっそう深くピンク・フロイドの世界に入り込めるような気がします。


     


 「狂気」は全英チャート2位、全米チャートでは1位。ビルボードのトップ200の中に741週(14年以上!)連続チャート・イン。全世界での売り上げ枚数は約3500万枚とされていますが、まだ売り上げ枚数計測のシステムが整っていなかった時期に発売されているため、実際はそれを上回るセールスが記録されている可能性がある、ということです。また統計上では、世界中で誰かが常にこのアルバムを聴いていることになるんだそうです。


 この作品は今さらぼくがあれこれ説明するまでもない名作です。
 「プログレッシヴ・ロック」といえばすぐに「難解」というイメージを思い起こしますが、「狂気」にはそんなとっつきにくさはありません。分かりやすいメロディーを持つ曲が多く、さほど長くない曲をつないでゆく形をとっているので、中だるみせずに聴くことができます。つまり、40分を超す組曲を作った、とも言えるのです。1曲1曲の完成度も高く、あっという間に聴き通せます。


 このアルバムの歌詞は全編ロジャー・ウォーターズが担当しています。そのコンセプトは「人間の生活を脅かす狂気」にあるということだそうです。
 「狂気」は、心臓の鼓動で始まり、鼓動で終わります。その間に展開するのは、「時間」「金」「戦争」など、人間を狂気に追い込むものの世界です。


     


 ぼくが「狂気」の中で最も好きな曲は「タイム」です。けたたましい時計のベルで始まりますが、メロディーはとても親しみやすいんです。時の流れの無常を表している歌詞がとても心に響きます。女性コーラスも絶妙。間奏ではデイヴ・ギルモアがブルージーなギター・ソロを聴かせてくれます。このソロ、彼のプレイの中でも白眉のものではないでしょうか。
 レジスターと硬貨の音で始まる「マネー」は4分の5拍子のブルーズ調の曲。エネルギッシュなサックスとギターのソロがカッコいいですね。アメリカではシングル・カットされてヒットしています。「虚空のスキャット」では、空気を切り裂くような女声スキャットが美しい。「アス・アンド・ゼム」の不思議な浮遊感も心地良いです。


 曲の出来、演奏、雰囲気、流れ、どれをとっても素晴らしいトータル・アルバムだと思います。初期からの幻想的な音楽の集大成であり、緻密に練り上げられた構成、表現者としての魅力など、ピンク・フロイドの要素が全て詰まっています。そのうえ、音楽的な進化と大衆性を同居させたことがこのアルバムの成功につながっていると言えるでしょう。
 このアルバムは「プログレ」というジャンルを超越した、20世紀が生んだロック史に残る名作だと言っていいと思います。



狂気/The Dark Side Of The Moon
  ■リリース
    1973年3月1日
  ■プロデュース
    ピンク・フロイド/Pink Floyd
  ■収録曲 (全作詞=ロジャー・ウォーターズ  *インストゥルメンタル)
    A①(Ⅰ)スピーク・トゥ・ミー*/Speak To Me (Mason)
      (Ⅱ)生命の息吹き/Breathe In The Air (Waters, Gilmour, Wright)
     ②   走り回って*/On The Run (Gilmour, Waters)
     ③   タイム/Time (Mason, Waters, Wright, Gilmour)
     ④   虚空のスキャット*/The Great Gig In The Sky (Wright)
    B⑤   マネー/Money (Waters)
     ⑥   アス・アンド・ゼム/Us And Them (Waters, Wright)
     ⑦   望みの色を*/Any Colour You Like (Gilmour, Mason, Wright)   
     ⑧   狂人は心に/Brain Damage (Waters)
     ⑨   狂気日食/Eclipse (Waters)
  ■録音メンバー
   【Pink Floyd】
    デイヴ・ギルモア/David Gilmour (vocals, guitar, synthesiser)
    ロジャー・ウォーターズ/Roger Waters (bass, vocals, synthesiser, tape-effects)
    リック・ライト/Richard Wright (Organ, piano, electric-piano, vocals, synthesiser)
    ニック・メイスン/Nick Mason (drums, percussion, tape-effects)
   【guests】
    ディック・パリー/Dick Parry (sax⑤⑥)
    クレア・トリー/Clare Torry (vocals④)
    ドリス・トロイ/Doris Troy (backing-vocals)
    レスリー・ダンカン/Leslie Duncan (backing-vocals)
    リンザ・ストライク/Linza Strike (backing-vocals)
    バリー・セント・ジョン/Barry St. John (backing-vocals)
■チャート最高位
   1973年週間チャート  アメリカ(ビルボード)1位、イギリス2位、日本(オリコン)2位
   1973年年間チャート  アメリカ(ビルボード)11位
   1974年年間チャート  アメリカ(ビルボード)11位
   1975年年間チャート  アメリカ(ビルボード)71位
 
 
 

コメント (10)
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