東京で高校の同期会があるので、3年振りに首都圏へ出かけることになった。
せっかく上京するのだから、コロナ禍の旅行禁止の鬱憤を晴らすべく、今まで会おうとしていて、会えていなかった友人の所にオジャマする旅を計画した。
第一日目の午前中に、埼玉の丘陵地帯、まるでトトロの森の中にでもあるような、「横田ハープシコード工房」を訪問した。
横田君は大学の同級生の一人。私を含め、そのほとんどが大企業のサラリーマンに成ると言う運命に逆らい、ハープシコードとかチェンバロと呼ばれる、メジャーではない古楽器を作って、卒業後50年を生きてきた人だ。以前から訪問したいと思いながら、最後に会ってからもう40数年経ってしまった。
彼が作っているハープシコードと言うのは、ピアノの前身の鍵盤楽器なのだが、ピアノは打楽器、ハープシコードは弦楽器なので、全然違う繊細な音がする。また強弱をつけて、大きな音で鳴らせるピアノフォルテに押されて、一時期は音楽界からほとんど忘れ去られた古楽器である。
高低の順に張られた弦を鍵盤ではじいて音を出す。
これを個人で、鍵盤のアクション機構から、
弦をはじく部分まで、部品の一つ一つを手で作り出していく、気の遠くなるような作業で作られている楽器だ。
こんな楽器を一から作るのにはさぞかし立派な工作機械や工具があるのかと思ったら、かんな盤などの基本的な木工機械と、治具、そしてそれほど多くは無い手工具のみで、この楽器を作っているとのこと。弘法は筆を選ばずで、少ない工具でこれだけの楽器を作ってしまえるのだ。
沢山あるのは、組立の時に使う、Fクランプとハタガネくらいだろうか?
一からの手作り、しかも大型の楽器なので、それを作っても、買ってくれる人が居るのか、以前から心配していたのだが、世の中は良くしたもの、生涯で数十台販売し、奥さんの内助の功もあり、それで十分生計を立ててこられたのだと聞き少し安心した。
古楽器やバロック音楽に興味のある人は、こんな可搬式のハープシコードもあるので、一台いかがだろうか?
ハープシコードの音色に癒されて、昔話をしながら、つい長居をしてしまった半日であった。