モリモリキッズ

信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

ニホンカモシカの親子に出会う晩秋の妻女山。(妻女山里山通信)

2012-12-01 | アウトドア・ネイチャーフォト
 まるで雪が降ったかのように真っ白に霜が降りた日の午前中に、妻女山を回ってきました。今年は冷え込みが浅く、この時期名物の川中島の濃霧もほとんどありません。この日もとんでもない寒風でしたが冬型の北風ではなく、まるで早春の様な東風(こち)でした。

 しかし、強い霜のせいでそれまで青々としていた山桑の葉も全部落ちていました。林道は落葉松の落ち葉で橙色に染まっていて、その上にコナラやダンコウバイなどの広葉樹の葉が散らばって、さながら自然のタペストリーのような美しさ。融け始めた霜のせいで濡れているため足音もまったくしません。その分寒風の音と、落ち葉の舞う音が森に響きます。強風のため鳥も鳴かないし飛ばない寒い森です。

 菌類を求めて谷へ下りて行くと、杉林の向こうから視線を感じました。見下ろすと、二頭のニホンカモシカがジッとこちらを見ています。アイコンに使っている母親のシロとその双子の子供の一頭でした。真っすぐ下りて行くと逃げられてしまいそうなのと、杉が邪魔なので大きく迂回することにしました。

 斜面の反対側に回って下りて行くと、二頭ともこちらを凝視しています。シロは子供の頃から何度も出会っているのですが、ニホンカモシカの記憶力がどれほどのものか分からないので、彼女が私を覚えているかは分かりません。ただ、数日のうちに続けて何度も出会うと、明らかに警戒心のレベルが違ってくるので、それぐらいの記憶力はあるのだとは分かります。

 このシロも双子の片割れで、オスの兄弟がいます。彼は独立して鞍骨城跡の方へ縄張りを移しました。シロが母親のテリトリーを受け継いだのです。ニホンカモシカの双子は珍しいそうで、母娘二代続けて双子を生んだというのは、相当珍しいのじゃないかと思います。母親は、私がマダムと名付けたなかなかの美人でした。彼女を最初に見たのが2002年の夏、子供達と夏休みに帰省した時でした。彼女はまだ子供でした。

 ニホンカモシカは、一頭の場合はかなり近づけるのですが、親子連れの場合は警戒心が強くなり、限界距離が延びます。無理に近づくと鼻からシュッという威嚇音を出して逃げてしまうので、樹木を隠れ蓑に少しずつ間合いを詰めて行きます。一頭の場合は、色々話しかけたり、帽子をくるくる回したりして気を惹きますが、親子連れの場合はあまり効果がないのでしません。サングラスをして目を隠すと、不思議そうな表情をするのですが、目のない動物はいないので、なんだ?と思うのでしょうね。

 薄暗い谷なので、もうひとつクリアではありませんが、左の母親がなんだか困った様な表情をしている(そう見えるだけかもしれませんが)のに対して、右の子供はいかにも興味津々という風に見えるのが面白いと思います。実際ニホンカモシカは、ウシ科のせいか好奇心が旺盛で、そのために人間に近づき易々と狩られてしまったという歴史があります。江戸時代後期に書かれた『遠山奇談』にその様子が書かれています。民俗学者の柳田国男は、「まことに心掛けのよろしくないいやな本」と書いていますが、実はニホンカモシカについての記述は、実に生態に則った描写なのです。『遠山奇談』はについては、私のブログのこちらの記事に詳しく書いてあります。写真は妊娠中のシロで、この写真を撮影した初夏に出産しました

 古今集に、「奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の 声きくときぞ 秋は悲しき」(猿丸大夫)という歌があり、小倉百人一首にも載っていますが、鹿と違ってニホンカモシカは、ほとんど鳴きません。赤ん坊の時に母親に乳をねだる時などに鳴きますが、ヤギの鳴き声を濁声にしたようなもので、ほとんど聞いた事があるひとはいないと思います。私も遠くの母親を呼ぶ「グエ~ッ」という鳴き声を一度聞いただけです。シュッと発するのは鼻からの威嚇音で、鳴き声ではありません。寡黙な森の哲人といわれる所以です。

 最後に一歩踏み出すと、子供がシュッと威嚇音を発し、逃げ出しましたが、ちょっと待って!というと止まるんですね。これが面白い。どうにも好奇心が強いのでしょうか。あまりからかっても可哀想なので、その場を去って次の撮影ポイントへ向かいました。

 林道の脇に一面に鳩の羽根が散乱していました。獣に襲われたようです。羽根の模様から見ると、キジバトではなく、カワラバト(ドバト)のようです。恐らく襲ったのは、その辺りに棲むホンドテンだろうと思います。黄金色の大きなホンドテンが、この辺りにいるのを何度か目撃しています。以前、息子と登った大菩薩への尾根で、なにかに襲われた小熊らしきものが、目の前を谷底へ転がり落ちて行き、最後にギャーッという断末魔の叫びを二度繰り返して消えたことがありました。自然の営みは厳しいものです。

 ニホンカモシカとイノシシが作った獣道を辿ると、赤い実が。ヒヨドリジョウゴです。冬の時期に森に残っている赤い実は、ほとんど全て鳥も虫も食べない猛毒の実です。美味しそうだなどと口にしないように。ステロイド系のアルカロイド配糖体ソラニンを含有しており、頭痛、嘔吐、下痢、運動中枢、呼吸中枢麻痺により死亡する場合もあります。青い実は、アオツズラフジ。これも毒です。毒は薬にもなります。
 ヒヨドリジョウゴは、白英(はくえい)という漢方薬で、解毒、解熱、利尿に用いられます。アオツズラフジは木防己(もくぼうい)といい、消炎、利尿、鎮痛に用いられます。あの猛毒のヤマトリカブトでさえ薬草です。

 車に戻ると、あるご夫婦が山を下りてきました。鞍骨城跡に向かったのですが、あまりの寒風に二本松峠で引き返して来たそうです。手にウスタビガの繭がついた枝を持っていましたが、驚きました。なんとちいさな枝に1ダースもの繭がぶら下がっているのです。普通は多くて三つぐらいなので、これには驚きました。全て羽化した後でしたが、吊りかますといって縁起物なので、一輪挿しに飾るそうです。寒風は昼には一旦止みましたが、翌日は初雪が舞いました。本格的な冬が始まる信州です。

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■今回の選挙は、大袈裟ではなく日本の命運を決するものになります。世界の命運を決するといっても過言ではありません。千年に一度の地震多発期にある日本。富士山の大噴火に始まった貞観地震の時には、9年後に関東大地震が起き、間に大噴火がふたつ。18年後には、東海、東南海、南海地震が連動したともいわれる仁和地震が起きています。今回もM9の大地震ですから、100パーセント噴火があり、1~10年の間に必ず大地震が起きます。速やかに全ての原発を廃炉にし、核燃料を安全な場所に移さないと、間違いなく日本は滅亡します。高レベル廃棄物の処理方法はなく、その見通しさえたっていません。六ヶ所村ももうすぐ満杯です。大地震で六ヶ所村が崩壊すれば、その時は人類の終わりです。それだけの核廃棄物があるのです。われわれに時間の猶予はありません。
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