モリモリキッズ

信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

「信州の鎌倉」といわれる塩田平に鎮座する「見返りの塔」と呼ばれる梅花が匂う大法寺の国宝三重塔(妻女山里山通信)

2021-03-19 | 歴史・地理・雑学

 その美しさから「見返りの塔」と呼ばれる大法寺の国宝三重塔。そろそろ光背の山に梅が咲いている頃かなと訪れました。「信州の鎌倉」といわれる塩田平は、平安時代までに新田開発が進み、鎌倉時代には米と麦の二毛作が行われ、相当に豊かでした。そして、北条氏の庇護を得てたくさんの寺院や塔が建立されました。子檀嶺岳の山麓にある国保大法寺三重塔は、そんな鎌倉時代の栄華を残す名塔であり、地元の宝です。

 塔は、大正9年の解体修理の際に発見された墨書により、鎌倉幕府滅亡の年である1333年(正慶二年)に建立されたことが分かっています。塔のある大法寺は、大宝年間(701~704)藤原鎌足の子上恵が開基し大宝寺と称したといわれ、平安初期の大同年間(801~810)に坂上田村麻呂の祈願で僧義真(初代天台座主)により再興されたと伝わっています。
 ここにこのような壮麗な塔が建ったのは、北条氏の庇護とともに、この麓を東山道が通り、浦野駅(うらのうまや)(古代に30里毎に置かれた人馬の施設)があったからなのです。大法寺はその駅寺(うまやでら)でした。
 三重塔の構造は、天王寺から来た工匠により造営が行われたということで、当時の都の洗練された美しさを今に伝えています。三層の屋根は桧皮葺で、高さは18.56m。相輪を備え、天頂部には美しい水煙があります。初重の組物は「二手先」、二層・三層は「三手先」で、裳階【もこし】(ひさしようなもの。あると四重の塔のように見える)がありません。裳階をつけずに初重内部を広くとるためだそうですが、そのため初層が大きく非常に安定感があり荘重、重厚な感じがあります。また、裳階がないためシルエットがシンプルで軽快感もあります。
 この造りは、他に奈良の興福寺三重塔(鎌倉時代初期)と石川県の那谷寺(なたでら)三重塔(江戸時代)だけといいます。内部には、金剛界大日如来坐像を安置しています。また、文化庁の調査の結果、国宝大法寺三重塔の一層内壁に壁画が描かれていたことが判明したそうです。これは興福寺の三重塔と同じです。また、長野市保科の阿弥陀山清水寺には、同様の三重塔がありましたが、大正時代の大火で消失。もし現存すれば間違いなく国宝だったでしょう。下の記事で、その在りし日の写真がご覧いただけます。大法寺三重塔とよく似ています。
長野市南部の保科に鎮座する牡丹と紅葉で有名な阿弥陀山清水寺へ(妻女山里山通信)

 塔の九輪の上にある水煙。合わせて相輪といいます。釈迦が荼毘に付された際に残された仏舎利を納めた塚であるストゥーパの上に重ねられた傘が起源とされます。本来は、荼毘の火焔なのですが、木造なので水煙という様になりました。

 屋根は檜皮葺(ひわだぶき)です。檜の樹皮を何層にも竹釘で止めていく非常に重厚で耐久性のある屋根です。檜皮を採取する技術者を『原皮師(もとかわし)』といい、樹齢50~60年の檜の樹皮を剥いで使います。その樹木を枯らさないように剥ぐのが高度な技術です。剥がれた樹皮は、8~10年で再生します。独特の鋭い曲線を描く屋根のライン。この屋根の反りについて、『日本美の特質』(鹿島出版会)の書の中で吉村卓司氏は、日本刀の反りと共通する日本人の独特な美意識について非常に深い洞察を述べておられます。

(左)三重塔の初層にある「庭照」の額。「庭を照らす」という意。「我々は仏の子であり、皆仏の庭で遊んでいる。その庭を照らしているのが仏の慈悲である」というようなことなのでしょうか。この額は後世にかけられたものの様です。(右)地塗りに用いられた白い胡粉(ごふん)の顔料が見られます。軒を支える肘木(ひじき)には 丹塗(にぬり)の赤い顔料が残っています。いずれも創建当時のものです。つまり往時は、朱色の壮麗豪華な三重塔だったわけです。探してみて下さい。

 梅林越しに望む相輪とその向こうにそびえる独鈷山。拙書でも紹介しています。里山ですが、非常に厳しい山です。同時に本当に面白い山なんです。地元の小学生が登るコースもあります。

 梅の花のアップ。日当たりの良いところは満開。日陰は三分咲き。全体では七分咲きでしょうか。境内の桜の見頃は4月10日頃かな。

 その下に咲く菫(すみれ)。日本に200種以上あるアリ散布植物です。アリがいないと増えられません。庭に植えた覚えがないのにスミレが咲いていたら、それはアリの仕事の結果なのです。右は本堂に登る石段の脇に咲く水仙。若葉はニラと似ているので要注意。

(左)大法寺裏の山道を登るとある看板。始めて見ました。これはいつか歩いてみたいですね。(右)見返りつつ大法事をあとにして道の駅あおきに向かいました。今回買い求めたもの。青木村で栽培されているタチアカネの生蕎麦。風味が豊かでとても美味でした。村内には提供する蕎麦屋が何軒もあります。左上は、クラフトチューハイのシナノリップ。リンゴ果汁が入っていて、やや発泡していてとても美味でした。右は伊那スズキヤの鹿ジン。何度か食べていますが、馬鹿旨のジビエです。4月の妻女山里山デザイン・プロジェクトのバーベキューに持っていきます。

 その道の駅あおきから見上げる子檀嶺岳。拙書の表紙の写真の山です。「こまゆみだけ」というルビがないと読めない山名ですね。拙書では、その名前の由来も詳しく記しています。山頂は狭く真田の山城の跡といわれますが、南面は断崖絶壁。非常に険しい山ですが、魅力ある里山です。この記事のページに、大法寺三重塔の写真を掲載しています。

 『信州の里山トレッキング 東北信編』川辺書林(税込1728円)が好評発売中です。郷土史研究家でもあるので、その山の歴史も記しています。地形図掲載は本書だけ。立ち寄り温泉も。詳細は、『信州の里山トレッキング 東北信編』は、こんな楽しい本です(妻女山里山通信)をご覧ください。Amazonでも買えます。でも、できれば地元の書店さんを元気にして欲しいです。パノラマ写真、マクロ写真など668点の豊富な写真と自然、歴史、雑学がテンコ盛り。分かりやすいと評判のガイドマップも自作です。『真田丸』関連の山もたくさん収録。

本の概要は、こちらの記事を御覧ください

お問い合せや、仕事やインタビューなどのご依頼は、コメント欄ではなく、左のブックマークのお問い合わせか、メッセージからメールでお願い致します。コメント欄は頻繁にチェックしていないため、迅速な対応ができかねます。
 インタープリターやインストラクターのお申込みもお待ちしています。シニア大学や自治体などで好評だったスライドを使用した自然と歴史を語る里山講座や講演も承ります。大学や市民大学などのフィールドワークを含んだ複数回の講座も可能です。左上のメッセージを送るからお問い合わせください。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする