大きなトランク
久しぶりに友人に会うべく、実家のある旭川から札幌へ列車で向かう。正月休み終盤だったこともあり、始発の旭川から相当な混み具合。一人でも多くの人に席をと、車掌さんが声をかけている。見ると前方の席に、大きなトランクケースで座席を塞いでいる青年が。どうするのかと思っていると、まず座席の上の荷棚へ。しかし大きすぎて不安定。それでもデッキに置くのは不安なのか、荷棚から下ろした後自分の足元に横にして置く。横の座席の足元に少しかかるものの、かろうじて座れるスペースはできた。そうして一段落したとはいえ、なんだか気になってしまうもの。そんな折、荷物をたくさん抱えたご婦人が乗車した。他の席がおおむね埋まっていたため、その席へ。いかにも大変そうだったので、これは席を替わってあげるべきかしらと思案していると、そのご婦人が青年に話しかけた。「ずいぶん大きなトランクねぇ」と。話しかけられた青年は、場所をとっていることを謝るが、ご婦人は明るく会話を続ける。そして、最後にこう言った。「大きなトランクに入っているのは荷物だけじゃないものね。思い出もたくさんつまっているんだものね」
青年だけではない。その場にいた誰もがご婦人の言葉にはっとさせられたと思う。邪魔にならないよう、もちろん公共の場では気を遣わなくてはいけない。けれどご婦人のように考えられたら、もっと世界は明るくなるのでは。私の荷物の中に素敵な思い出が加わった車中にてそう思う。