今日気になるきょうきの一冊
以前読書交流会で紹介されていた、今村夏子氏の芥川賞受賞作『むらさきのスカートの女』を読む。理解が難しいという話がそのとき出ていたが、読んでなるほどそうだろうなと思う。なかなか理解しづらい世界観だと。では私はというと、読み始めてからずっと、怖くて仕方なかった。視点がものすごく怖い。ストーリーは「むらさきのスカートの女」の生活を中心に進むが、その追いかける視線が誰なのかがずっとわからないまま進むことの恐ろしさよ。「むらさきのスカートの女」自体は、ちょっと変わり者の年齢不詳の女性。たぶん誰もが一度はこういう人を見かけたことがあるという程度の。それを執拗なまでに追いかける視線の主。なぜそこまでして、ということは読んでいればなんとなくわかる。けれど理解しようとは思えない。そこに共感しようとすることを脳が拒否している感じ。読後感も悪いし、なんだかどっと疲れた。でも、これを読んだことから目を背けられない、そんな一冊。
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人間の感情を凶器として、狂気の末に狂喜を得るような話かと思う。いつだって人間の存在を形づくっていくのは人間。ただちょっとだけ普通の範囲を越えた(ように見える)人間を「むらさきのスカートの女」に仕立て上げるのは誰か。それを面白がるのは誰か。さあ、鏡を見てみなさいと、つきつけられているような恐怖がそこにある。