卵焼きは甘い派か甘くない派か。そんなことが話題になることがある。どちらにも良さはあるけれど、ケイコは甘くない卵焼きの方が好きだ。自分で作るとしても、白だしだけしか入れない。そもそも、ケイコの母が作る卵焼きは甘くなかった。たまに弟のお弁当を作る時に甘くしていたことはあったような気もするが、ケイコの卵焼きの原点は、甘くない、というかものすごくしょっぱい卵焼きだ。それは母方のじいちゃんの卵焼き。ものすごい量の醤油で味を付る、真っ黒な卵焼き。それがものすごく美味しかった。今思うと、あんなに身体に悪いものはない(笑)。それでもじいちゃんが味を付けて、鉄のフライパンで焼き上げる卵焼きのなんと美味しかったことか。ケイコはそれでご飯を何杯も食べた。ふくよかな身体に染みついた、幸せな記憶と味。もう二度と食べられはしないからこそ、決して忘れない味。
じいちゃんは、人が集まることが好きな人だった。だからきっと今のコロナ禍に生きていたなら、どれだけ寂しがっただろう。ケイコを溺愛していたじいちゃんは、きっと今はケイコとともちゃんのそばにいて見守ってくれている。でもやっぱり、自粛生活を送るケイコたちを見てじいちゃんは寂しく思っているのだろうなぁ。そんなことを考えた、6月9日。卵の日。
【波風氏談】「じいちゃん」の卵焼きはどうして大量な醤油を使って真っ黒だったのでしょうね?波風氏が子ども時代に祖父母の家に行くと、納豆に砂糖が入っていて驚いた。母にこっそり(何だかそういう気がして)聞くと、激しい労働(農家)をしているからだと教えてくれた。