電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番を聞く

2005年12月16日 21時22分40秒 | -協奏曲
プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲は2曲あり、第1番は「古典交響曲」やピアノソナタ第3番とともに、1917年に完成している。1917年といえば、ロマノフ王朝が崩壊したロシア革命の、まさにその年である。ペテルブルグ音楽院では、リャードフらの教師をてこずらせる、才能ある問題児だったが、ペテルブルグ音楽院を卒業して三年後、26歳の青年音楽家だった。だが、翌年には革命を逃れ、シベリア経由で日本(横浜)に渡る。ここからは、雑誌「ステレオ芸術」1973年4月号に掲載された「日本洋楽外史」連載第7回、野村光一・中島健蔵・三善清達の三氏対談記事による。

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(大正七年六月廿五日の都新聞の記事:)
「露国青年作曲家 セルギー・プロコフヰエフ氏」
「作曲家として洋琴家としてルビンスタイン賞を得た露国のセルギー・プロコフヰエフ氏(廿七)が来た、昨今奈良観光中であるが両三日中東京に於て自作の演奏をなすと云ふ氏が最初に発表した自作の曲はヘ短調のソナタで氏が十八才の時である。其後続々発表したがいづれも斯界に認識され、将来に嘱望さるる様になったのは十曲から成立て居る洋琴用組曲であるが、其独創的な作品の世間を驚かしたのは管弦楽用の「アラとロリー」といふのであった。其楽風は奔放軽快で昨今批評界の中心となって居る未来ある音楽家で前途に多大の注意を以て観られて居るといふ。」
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乗客名簿から楽譜出版者の瀬尾幸陽が見つけ、太田黒元雄に電話して一緒に会いに行った。大森の山王ホテルに宿泊していたところへ会いに行くと、自分の名前が知られていることにびっくりし、太田黒が主宰する「音楽と文学」誌で特集を組んでいることを話すと、たいへんに喜んだ。中古のスタインウェイを持っていた太田黒の自宅に連れて行き、自作やらスクリャービンなどを弾かせ、話をした。プロコフィエフは、六尺有余というから2m近い大男。手も大きく厚く、野蛮な音がする。こんな達者な人はそのまま帰すわけにはいかない、ということになり、帝国劇場の支配人・山本九三郎に頼み込み、音楽会をやってもらった。ちょうど夏の盛りの暑い頃で、当時のエリートは避暑に行っているらしく客が来ない。自作とスクリャービンのプログラムだったが、帝国劇場がガラアキで200人か300人しかいない。結局ギャラは貰えないまま、アメリカに渡って行った。
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(以上、対談を本ブログの筆者が要約)

ここからは、「電網郊外散歩道」の記事です:
こんなわけで、プロコフィエフの若い頃の作品(特にピアノ協奏曲第3番など)には、日本のメロディが取り込まれたりしているらしい。それにしても、大正時代にロシアの若い才能に注目している人がいたことに驚かされる。

さて、このヴァイオリン協奏曲第1番の初演は、アメリカからドイツを経てパリに住むようになった1923年、作曲者32歳のときである。当初はその斬新さが理解されず、ヨーゼフ・シゲティが積極的に取り上げるようになり、ようやく認められるようになったという。若い不羈奔放な作曲家が、才能にまかせて創作した独創的で「奔放軽快」な作品、という評価は適切だろうと思う。

第1楽章、アンダンティーノ。独奏ヴァイオリンが静かに始まり、木管が透明な空間に浮かぶように響く。ソロの動きが激しくなり、オーケストラも活発に活動し始めるが、音色は透明で、決して分厚くならない。私は、特に後半フルートと共に奏されるヴァイオリンのデリケートで透明なメロディが好きだ。
第2楽章、スケルツォ、ヴィヴァーチッシモ。若いエネルギーが噴出するような激しいパッセージが続出し、管弦楽も奇声をあげるように奏される。好き好きがあろうが、私はこの若い力あふれるリズミックな音楽が好きだ。
第3楽章、モデラート、アレグロ・モデラート。ファゴットのとぼけた呼びかけに答えるヴァイオリンの旋律は、まるで昔見た映画「屋根の上のバイオリン弾き」の音楽みたいだ。この親しみやすいメロディが様々に変奏される。決して記憶に残りやすいメロディではないが、鮮烈な印象を残す楽章だと思う。

この曲に初めて親しんだのは、アイザック・スターン(Vn)、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏するLP(CBS-SONY、SONC-10400)だった。解説は井上頼豊氏。CDでは、ボリス・ベルキン(Vn)、マイケル・スターン指揮チューリヒ・トーンハレ管弦楽団の演奏で、1993年にチューリヒ・トーンハレでデジタル録音されたDENONのCOCO-70667。私はベルキンさんのことはあまりよく知らないが、とてもいい演奏だと思う。大好きな曲の演奏は、みんないい演奏に聞こえてしまうのかもしれないが。どうぞ、この新鮮さを、一度聞いてみてください。いずれも第2番とのカプリング。

■スターン盤
I=9'22" II=3'37" III=7'57" total=20'56"
■ボリス・ベルキン盤
I=9'45" II=3'27" III=7'57" total=21'09"
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小野リサのコンサートをあきらめて

2005年12月16日 19時13分21秒 | Weblog
今晩は、本当は小野リサのコンサートに行く予定だった。だいぶ前にチケットを用意し、楽しみにしていたところ、突然の老父の入院手術。老父と水入らずならばともかく、私たちが出かけると老母が家でひとりきりで記念日を迎えることになる。そんなことも考え、せっかく用意したチケットだったが行かないことにして、家族で夕食を囲んだ。このへんの価値判断は、年を取ったからわかるようになったことかもしれない。
外は雪。今晩のメニューは、昨晩から用意した我が家の定番の「白菜カレー」だ。カリフラワーがコロンと入っていて、よく味が出ている。老母もこれなら食べられる上、私たちも満足。さて、今晩はめいっぱい音楽CDやビデオを楽しみましょう。
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