少し前に、小川洋子さんの『博士の愛した数式』がベストセラーのトップにあった。なんでも、書店員の人たちの推薦するベストワンだとかで興味を持ち、ちょうど機会がありこの本を入手したしだい。
物語の幕あきは、家政婦として勤め始めた女性とその息子が、博士の家で平方根を考える場面から始まる。-1のルートは?分数をようやく習ったばかりの息子に、博士は優しく根気よく問いかける。この場面に、三人のその後の関係要素が全部つまっている。
複雑な生育歴を持つ女性が母と同じように私生児を産み、生活のために家政婦として勤めた始めた家に、博士はいた。数学を日常の言葉とする天才的な学者だが、記憶が80分しかもたず、家政婦が長続きしない。L.V.ベートーヴェン家みたいなものか。
博士は子どもが好きで、女性の息子にルートという愛称をつける。博士の人間性に触れ、三人が数学や野球を媒介とした友情に結ばれる頃、突然の博士の発熱と看護、そして解雇。雇い主の未亡人は義姉にあたる人だが、博士との関係はミステリアスだ。そして対立のあとの理解。再び勤め始めた家で、息子の11歳の誕生日を祝おうと計画した。人を喜ばせることを企画し楽しむ気持ちは、80分しか記憶が持たなくとも変わらないようだ。タイマーは徐々に短くなっているというのに。
22歳になったルートとともに病院の博士を訪ねるエピローグは悲しい。だが、老いて呆けた親しい人の手を握り、別れを経験した人ならば、弱々しい腕で若者を祝福する姿をいつまでも忘れないことだろう。なぜなら、無償の愛が次の世代の心にバトンタッチされているのだから。
物語の幕あきは、家政婦として勤め始めた女性とその息子が、博士の家で平方根を考える場面から始まる。-1のルートは?分数をようやく習ったばかりの息子に、博士は優しく根気よく問いかける。この場面に、三人のその後の関係要素が全部つまっている。
複雑な生育歴を持つ女性が母と同じように私生児を産み、生活のために家政婦として勤めた始めた家に、博士はいた。数学を日常の言葉とする天才的な学者だが、記憶が80分しかもたず、家政婦が長続きしない。L.V.ベートーヴェン家みたいなものか。
博士は子どもが好きで、女性の息子にルートという愛称をつける。博士の人間性に触れ、三人が数学や野球を媒介とした友情に結ばれる頃、突然の博士の発熱と看護、そして解雇。雇い主の未亡人は義姉にあたる人だが、博士との関係はミステリアスだ。そして対立のあとの理解。再び勤め始めた家で、息子の11歳の誕生日を祝おうと計画した。人を喜ばせることを企画し楽しむ気持ちは、80分しか記憶が持たなくとも変わらないようだ。タイマーは徐々に短くなっているというのに。
22歳になったルートとともに病院の博士を訪ねるエピローグは悲しい。だが、老いて呆けた親しい人の手を握り、別れを経験した人ならば、弱々しい腕で若者を祝福する姿をいつまでも忘れないことだろう。なぜなら、無償の愛が次の世代の心にバトンタッチされているのだから。