この本は、子ども向けの世界文学全集か何かの一冊を、おそらく小学生か中学生の頃に読んだのだと思います。難破し、孤独な無人島での生活を築き上げる営為が、むしろ魅力的に思えたものでした。
初めて家を離れた学生時代に、文庫本で読み返したとき、子どもの頃には見えなかったものに気づきました。難破の遠因になったもの、つまり若さや冒険心の描き方です。父親の元を出て行く息子をいさめる老いた父母の助言や忠告を、心情は理解できても、内容は俗っぽいと思ったものです。
しかし、後年、仕事のつらい時期や単身赴任生活など、いわば「じっと辛抱」の道連れとして読み返すうちに、また違う感じ方ができるようになった気がします。
○
ロビンソン・クルーソーは、中流の安定した生活を説く両親の元から、船乗りになりたいという夢を持って家出し、一度はムーア人の奴隷になりますが、脱出してブラジルで農園主として一定の成功を収めます。しかし、人手をほしがる農園経営者仲間の前でちょっとエエカッコしたために、黒人奴隷の密輸船を仕立て、その後見人として乗り組み、難破する破目に陥ります。孤島に漂着した晩の境遇は悲惨です。持っているものといえば、小刀一本とパイプとタバコ少々、という有様。だが、幸いにも島は暖かく真水があり、アフリカのような猛獣もいません。さらに幸いなことに、彼は難破船から多くの物資を運ぶことができました。食料、武器、弾薬、道具、衣類、材料などです。いわば、個人で利用できる当時の文明の大半を、無人島に運び込んだことになります。運搬の苦労はありますが、かなり本格的なアウトドアライフのようなものです。
明確に違うことは、もう退屈したから帰る、というわけにはいかないこと。病気をしても、誰に頼ることもできないこと。そして、話し相手もほかの社会の情報を得ることもできないこと、でしょう。ジュール・ヴェルヌのネモ船長と同様、世間のしがらみが面倒くさくなったときにあこがれる境遇ではありますが、一方で、あまりおちいりたくない状況でもあります。とにかく、ロビンソン・クルーソーは余儀なく無人島生活を開始しました。
初めて家を離れた学生時代に、文庫本で読み返したとき、子どもの頃には見えなかったものに気づきました。難破の遠因になったもの、つまり若さや冒険心の描き方です。父親の元を出て行く息子をいさめる老いた父母の助言や忠告を、心情は理解できても、内容は俗っぽいと思ったものです。
しかし、後年、仕事のつらい時期や単身赴任生活など、いわば「じっと辛抱」の道連れとして読み返すうちに、また違う感じ方ができるようになった気がします。
○
ロビンソン・クルーソーは、中流の安定した生活を説く両親の元から、船乗りになりたいという夢を持って家出し、一度はムーア人の奴隷になりますが、脱出してブラジルで農園主として一定の成功を収めます。しかし、人手をほしがる農園経営者仲間の前でちょっとエエカッコしたために、黒人奴隷の密輸船を仕立て、その後見人として乗り組み、難破する破目に陥ります。孤島に漂着した晩の境遇は悲惨です。持っているものといえば、小刀一本とパイプとタバコ少々、という有様。だが、幸いにも島は暖かく真水があり、アフリカのような猛獣もいません。さらに幸いなことに、彼は難破船から多くの物資を運ぶことができました。食料、武器、弾薬、道具、衣類、材料などです。いわば、個人で利用できる当時の文明の大半を、無人島に運び込んだことになります。運搬の苦労はありますが、かなり本格的なアウトドアライフのようなものです。
明確に違うことは、もう退屈したから帰る、というわけにはいかないこと。病気をしても、誰に頼ることもできないこと。そして、話し相手もほかの社会の情報を得ることもできないこと、でしょう。ジュール・ヴェルヌのネモ船長と同様、世間のしがらみが面倒くさくなったときにあこがれる境遇ではありますが、一方で、あまりおちいりたくない状況でもあります。とにかく、ロビンソン・クルーソーは余儀なく無人島生活を開始しました。