電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ドヴォルザーク「ピアノ三重奏曲第3番」を聴く

2009年04月08日 06時03分29秒 | -室内楽
室内楽は、いいものです。オーケストラ音楽の多彩な音色やダイナミックな響き、とくに演奏会で実際に聴くときの楽しさ、ワクワク感は格別です。ですが、室内楽には見通しの良さというか、少人数で音楽を作り上げるがゆえに、一人一人の奏者の呼吸や意図が比較的明確であるという特徴があるように思います。とりわけピアノ三重奏の場合、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの各奏者が、それぞれ緊密なアンサンブルを展開しつつ、なお自己主張し合うような面白さがあります。これは、弦楽四重奏の求心的な親密感とはまた少し異なる、独特の面白さであるように感じます。

近頃とくに集中している、室内楽の大家でもあるドヴォルザークの4つのピアノ三重奏曲のうち、第3番を聴きました。

この曲は、1882年の12月に母の死を経験した翌年、作曲者42歳の1883年の2~3月にかけて作曲されたもので、同年秋に若干の改訂を施し、作曲者自身のピアノと、ラハナー(Vn)、ネルダ(Vc)とにより、同年10月に初演されたものだそうです。この年は、ちょうど古いフス派の聖歌を主題とする劇的序曲「フス教徒」が書かれたころでもあり、ハンスリックに「ウィーンに来ないか」と誘われ、だいぶ葛藤があった頃で、けっきょくチェコにとどまることを選択したドヴォルザークには、不惑の頃とは言いながら、悩みが尽きなかったことでしょう。

第1楽章、アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ヘ短調。チェロに導かれて始まる冒頭から、かなり激しい感情が表されるようです。しかも、悲しみとも嘆きとも怒りともつかないような、緊張感に満ちています。
第2楽章、アレグレット・グラツィオーソ、嬰ハ短調。弦が規則的なリズムをせわしなく刻む中で、ピアノが民族舞曲ふうの主題を奏します。中間部では、規則的なリズムは後退し、ヴァイオリンとチェロが旋律を奏でますが、再びせわしないリズムが復帰します。曲中もっとも短く、スケルツォ楽章に相当するのでしょうか。
第3楽章、ポコ・アダージョ、変イ長調。憂い顔のチェロが第1主題を奏でると、ヴァイオリンとチェロが追いかけるようにカノン風に対話を交わします。優しく繊細な、心にしみるような緩徐楽章です。
第4楽章、アレグロ・コン・ブリオ、ヘ短調。チェコの民族舞曲フリアントのリズムに乗って、これを主題としたロンド形式で書かれた楽章です。古典的な解決にとらわれない、決意のほどが表されているのでしょうか。

演奏はスーク・トリオ、ヤン・パネンカ(Pf)、ヨセフ・スーク(Vn)、ヨセフ・フッフロ(Vn)の三人からなる、常設のピアノ・トリオでした。録音は、デジタル初期に属する1977年5月2~3日、プラハのスプラフォン社ドモヴィナ・スタジオで行われたもの、と記載されていますが、明快な、しっかりしたものです。型番は、DENON の COCO-70443 です。

■スーク・トリオ
I=13'09" II=6'47" III=9'48" IV=10'10" total=39'54"
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