電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

池井戸潤『空飛ぶタイヤ』(上巻)を読む

2012年03月18日 06時05分08秒 | 読書
先に面白く読んだ『下町ロケット』に続き(*)、同じ作者による長編を読みました。池井戸潤著『空飛ぶタイヤ』の上巻です。まだ記憶に残る、「起こるはずのない」脱輪事故をテーマに取り上げた企業小説です。講談社文庫には2009年に入っているようですが、あいにく話題になっていたことすら記憶にありませんでした。こんなにおもしろい本ならば、もっと早く読んでいればよかった!

本書は、冒頭に事故の犠牲になった妻におくる夫からの文章が置かれ、次に事故を起こした赤松運送の社長・赤松徳郎を中心として、事故の発生と対応、整備状況をめぐる関係者の葛藤が描かれます。いかにも今ふうの、門田という若い整備士が担当したトラックでした。人身事故の原因は、製造した自動車会社の調査により、整備不良と結論づけられます。当然のことながら、赤松運送には資金繰りの問題が発生し、取引銀行の貸しはがしや、大口取引先の契約打ち切りなど、いまにもつぶれそうな状態になってしまい、薄氷を踏む思いで対応にかけまわることになります。

ところが、事態は決して単純な整備不良ではなく、製造元であるホープ自動車の欠陥、リコール隠しだったのでした。ホープ自動車の販売と品質保証の部門間対立に加え、大企業組織内の権力闘争が絡みます。端的に言えば、企業体質が起こした問題と言えなくもない。

主人公である赤松運送の社長・赤松徳郎は、ただでさえ胃が痛くなる状況なのに、小学生の息子のPTAで女王蜂とあだ名される意地悪女の攻撃を受け、まさに内憂外患の状態です。しかし、ホープ自動車の事故原因調査のため、部品の返却を求めたところ、なんだかんだと断られることから、整備状況ではなく製品の欠陥ではなかったのか?という疑いを強く持つようになります。しかし、予断を持って見られている赤松運送に対する社会の風当たりは、責任回避と受け取られ、逆に強まるばかりです。



うーむ。社会的信頼のある大企業を相手にした戦いは分が悪いのは承知していますが、この状況はなかなか困難ですなあ。はたして逆転の可能性はあるのか?下巻が待たれます。

(*):池井戸潤『下町ロケット』を読む~「電網郊外散歩道」2011年2月
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