電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

映画「風立ちぬ」を観る

2013年08月03日 06時04分54秒 | 映画TVドラマ
 先の週末に、スタジオ・ジブリの映画「風立ちぬ」を観てきました。宮崎駿監督のアニメ映画で、ゼロ戦の設計者の堀越二郎を主人公に、堀辰雄の小説『風立ちぬ』や『菜穂子』などを取り入れて一本の映画としたらしい、話題作です。

 近眼のために、飛行機乗りにはなれない二郎の夢は、飛行機の設計者になることでした。大空への夢を叶えるべく成長した二郎は、東京への旅の途中、列車のデッキで帽子を飛ばされ、少女にキャッチしてもらいます。そして突然に大きな地震に遭遇し、少女と使用人の女性を助けて、関東大震災の混乱の中を、少女の自宅まで送り届けます。これが、二人の出会いです。

 やがて、二郎は三菱の航空機会社に就職し、軍の発注によって、飛行機の設計に携わるようになります。彼の才能を見込んで、会社はドイツのユンカース社の視察団の一員として同行を命じますが、オール金属製の飛行機技術に、二郎らは日独の技術レベルの10年あるいは20年の立ち遅れを痛感して帰ってきます。遅れを取り戻すべく、勇んで試作機の設計に従事するものの、テスト飛行で機体の強度不足のために墜落事故を起こし、二郎は失意を抱えて軽井沢で夏を過ごします。

 そこで出会ったのが、関東大震災の際に、混乱の中を自宅まで送り届けた菜穂子さんでした。彼女は、肺結核によって母を失い、父親と共に静養に来ていたのでした。二人が仲好くなり、愛し合うようになって、二郎は気力を回復し、新たな試作機に挑戦することになります。そして生まれたのが、美しい逆ガル型の翼を持つ九試単座飛行機でした。機関銃を積まなければもっと速く飛べるという二郎の発言に、スタッフは笑います。このあたりのユーモアは、救いがあります。



 封切り直後の映画のあらすじをたどるのはここまでとしますが、夏の軽井沢の美しさは本当に「絵に描いた」ようです。ヒトラーを軽蔑し、行く末を案じる外国人カストルプは、リヒャルト・ゾルゲ(*1)あたりを想定しているのでしょうか。大正時代から昭和初期の世情を経て軍国主義日本の敗戦までの歴史を縦糸に、若い二人の男女の愛を横糸に、詩的に織り上げた物語です。1941年生まれの監督にとっては、堀越二郎・菜穂子の世代は同世代というわけではありません。宮崎航空興学という会社を経営する父母や親族(*2)、従業員たちの年齢に重なるはずです。年を取って、亡くなった親の年齢に近づくにつれて、親たちの心情が理解できるようになり、悼む気持ちが強まることを思えば、航空機と大空へのあこがれを事業としていた世代へのレクイエムとみてよいのではないかと思います。

(*1):ロバート・ワイマント『ゾルゲ~引き裂かれたスパイ』(新潮文庫)など
(*2):宮崎駿~Wikipediaの解説より


【追記】
窓辺で聞こえる「冬の旅」が良かった。蓄音機上のSP盤から流れる音楽が、時代を表しているようです。主題歌の「ひこうき雲」、荒井由実といえばユーミンですね。若い頃にも、この歌のことはぜんぜん意識したことがありませんでした。良く聴くと、なかなかいい歌です。

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