電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

伊坂幸太郎『オー!ファーザー』を読む

2014年12月02日 06時08分41秒 | 読書
伊坂幸太郎作品は、ありえない状況を想定し、そこに日常性を展開しながらドラマを作っていくという特徴があるように感じていますが、本作『オー!ファーザー』もまた、その典型的な作品のようです。新潮文庫で読んだ今回の「ありえない状況」は、多忙で不在がちの一人の母親に父親が四人同居しているという男子高校生のお話。四人の父親は、そろいもそろって個性的で、四つの特性のエキスパートのような存在ですが、不思議に嫉妬とか独占欲とかいう性質は共通に欠損しているようです(^o^)/

主人公は、由紀夫君。高校二年生にしてはずいぶん大人びていて、ちょうど作者を若作りにして学生服を着せたような感じです。で、由紀夫君に近づいてくるのが多恵子ちゃん。名前に「子」がついているところをみると、今どきの女の子とは違うようですが、ちょっとやそっとではひるまない勝気さと聡明さを持った同級生です。

物語の始まりは、多恵子ちゃんが由紀夫君の家に押しかけていくところから。で、父親が四人もいて、全員が同居しているという秘密が明かされます。このあたりは多恵子ちゃん目線で、おやまあ! とただ驚くばかり。由紀夫君の回想するエピソードから、四人の個性的な父親との生活ぶりが浮かび上がって来ますが、これに中学の同級生の鱒二君や賭博の黒幕の富田林さんや、不登校の小宮山君などが登場してお話は進んでいきます。赤と白の県知事選挙戦を背景に、何やら事件が起こっていそうな雰囲気で、不用意にごたごたに首を突っ込むものだから、とんだ監禁状態に陥ってしまいます。この救出作戦が、いかにも伊坂ワールドな展開(^o^)/
おもしろいです。



物語の終わりの方で、由紀夫が突然に四人の父親のうちの誰かが亡くなり、葬儀に立ち会うような場面をイメージします。父親たちの表情には少しずつ老いが刻まれ、一人ずつこの世を去っていく。由紀夫くんならずとも「寂しさは四倍か」と呟きたくなります。叔父さん、叔母さんたちが多いほど、葬儀の回数も多くなり、寂しさも多くなるように。

こういう感覚は、高校生時代には、たぶん、ないと思います。



たしか、風邪をひいて寝込んだときに読みかけて放置してしまっていたのでしたが、半年ぶりに最後まで読み通し、面白さをあらためて認識しました。

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