電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『竹屋ノ渡~居眠り磐音江戸双紙(50)』を読む

2016年01月10日 06時03分42秒 | -佐伯泰英
だいぶ前に著者が50巻で完結予定と公言していたのが、先にもう一巻増えそうなのでゴメンネと予告していた『居眠り磐音江戸双紙』シリーズ、このたび第50巻と第51巻が同時刊行され、ようやく完結しましたが、作者はどんなふうに決着させたのか、興味深いところです。その第50巻、佐伯泰英著『竹屋ノ渡』を読みました。

第1話:「父と子」。姥捨の郷で生まれた空也クン、今や14歳となり、一人稽古の時期を過ぎて道場での稽古を許されています。その実力は、今や師範代となった神原辰之助も瞠目するまでに成長し、本人も父・磐音の後継者として自覚して来ているようです。江戸城において、将軍・徳川家斉と対面し、後継として認められたのですから、神保小路に尚武館道場を再興することも含めて、速水左近さんの助力が大きいですなあ。
第2話:「殴られ屋侍、戻る」。シリーズ第25巻『白桐ノ夢』(*1)で、殴られ屋という面白い商売をしていた武士がいました。実は旧藩を救った行為を逆恨みされ、敵として追われる立場でしたが、返り討ちにして諸国浪々の旅に出たのではなかったかと思います。その向田源兵衛さん、神保小路の尚武館道場が取り壊されたことを知り、小梅村を訪ねてきたのでした。うーむ、この人の再登場という私の予想は、見事に当たりました(^o^)/
第3話:「右近の決断」。速水右近にも婿入り話が舞い込み、実は迷っているところで向田源兵衛と立会うことになり、なにやら悟るところがあった模様です。おそらくは、剣術家として非情になりきれない自分の性格に気づいたということでしょう。婿入り話のお相手は、どうも右近の亡き友の妹らしい。いい話ではないですか。磐音は、神保小路に尚武館道場を再興した後の小梅村に、田丸輝信を補佐する形で向田源兵衛さんに客分として助力を依頼します。豊後関前藩では、奈緒母子が紅花栽培で苦労しているようです。残る気がかりは、土子順桂吉成との件です。
第4話:「尚武館再興」。今は物産事業で貧乏藩を返上したらしい関前藩は、尚武館道場の再興に祝い金五百両を奮発します。しかし、中居半蔵のねらいは別のところにありました。坂崎正睦が病がちとなった隙を狙って、どうも中老一派が私腹を肥やし、藩の実権を握ろうと画策しているらしい。坂崎磐音と空也の父子は直心影流の奥義を徳川家斉に披露し、尚武館は実質的に徳川家の道場となった形です。
第5話:「十一年目の誓い」。土子順桂吉成との果し合いは、酒を酌み交わした上で静かに始まり、見事に終わります。この場面は、歌舞伎というよりは能の場面のようですなあ。後に残る課題は、関前藩に残る、国家老・坂崎正睦が未だに引退できない事情に大鉈をふるうことでしょう。いつのまにか寛政の改革も終わりを告げ、松平定信も老中首座を退きます。



うーむ、本書の表題は、物語の結末に向かってこれまでの話の流れを渡すという意味も掛けたのでしょうか。舞台はどうやら豊後関前藩に移りそうな気配です。思えば、『陽炎ノ辻』で三人の若者が斬り合うはめに陥った物語の始まりも豊後関前藩でした。長い物語の大団円は、やはり始まりに戻らなければならないのでしょう。

(*1):佐伯泰英『白桐ノ夢~居眠り磐音江戸双紙(25)』を読む~「電網郊外散歩道」2009年7月

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