電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮本常一『山と日本人』を読む

2024年02月04日 06時00分22秒 | -ノンフィクション
近年、エサ不足でクマが里に降りてきて大騒ぎになったり、山近くの畑や果樹園では猿や鹿など野生動物の被害が多くなってきています。背景には温暖化の影響のほかにも、里山近くの集落の急速な衰退があるのではないかと懸念していますが、そういえば明治以前の日本では里と野生動物との関わりはどうなっていたのだろうと、妙な関心を持っていました。たまたま図書館で手にしたのが2013年に八坂書房から刊行された単行本で、宮本常一著『山と日本人』です。パラパラと読んでみたら、実に面白そうです。さっそく借り出して読んでみました。



本書の構成は、次のようになっています。順序立てて論を進めるタイプの本ではなく、様々な機会に書かれた論考をテーマにそって編集したもののようです。

修験の峯々
魔の谷・入らず
消えゆく山民
狩猟
陥穴
木地屋の漂泊
山村を追われる人々
山と人間
身を寄せ合う暮らし
豊松逍遥
信濃路
山の神楽
山村の地域文化保存について

あまりに面白いので、ところどころ抜書したり大要をまとめたりしながら読みました。



特に面白かったのが「狩猟」や「陥穴」で、具体的な記述が興味深く、オオカミの脅威をどのように防いでいたかなどは先人の知恵を感じます。例えば、引用と言うよりは大要ですが、

宮城県川崎町ではイノシシの陥穴ではなくオオカミの陥穴がもとはたくさんあったという。この地方は、旧藩時代には馬の牧がたくさんあって、そこに馬を放牧していたが、その馬をオオカミが襲って食い殺すことが多かった。そこで牧場のまわりにオオカミの陥穴を掘って侵入を防いでいたと言う。その穴は、直径2m、深さ2mくらいのもの。オオカミも通り道がほぼ決まっていて、そこに穴を掘った。(p.96)

あるいは、

岩手県九戸郡山形村では、猿、鹿、イノシシ、カモシカ、オオカミなどの野生の獣がいた。このうち、村人が一番恐れ、また困らされたのがオオカミで、よく牛を襲って殺した。明治の頃まではオオカミの被害が多く、山中の一軒家には住むことができなかったという。どの家でも槍を持っていて、それで獣を防いだ。また、家畜を守るために犬を飼っていた。(p.97)

などなど、興味深いところです。現代ではニホンオオカミは絶滅しており、むしろクマやイノシシ、シカ、サルなどの問題がクローズアップされていますが、根本的には里山が都市近郊に対する緩衝地帯としての役割を果たしてきたけれど、その里山近くの集落が衰退していったら、多分、野生動物が都市を徘徊する「事件」は日常的に頻発するようになるのではなかろうか。


コメント    この記事についてブログを書く
« ボールペンの替芯にも環境の... | トップ | ホームセンターで猫砂等を購... »

コメントを投稿

-ノンフィクション」カテゴリの最新記事